ねえ、そのひと、だあれ?
なんで、私、こんなちかくにいるのに、きづいてないの?
ていうか、このよでいちばん私がすきっていったじゃない。
だれよりもなによりも、私がすきっていったじゃない。
そのみじかいかみがふわふわしてるこ、だれ?
なんでそんなにかおちかいの?
なんでそんなにたのしそうなの?
なんでそんなにうれしそうなの?
やだ、さわらないでよ。
私いがいのおんなのこにさわらないで。
しゃべるのもだめ、わらうのもだめ。
私がいればいいじゃない。
ねえ、あれ、やっぱり、うそだったの?
ねえ、私のことすきって、うそだったの?
ねえ、もうすきじゃなくなった?



ばちっ、と景色が変わった。
薄暗いところにいた。
心臓がうるさかったけど、それでも呆然と目の前の景色を眺めていたら、ここは寝室であれはベッド傍に敷いている小さなラグだと気づいた。
夢だ。
そう、思って、息を吐いた。
気づいてもまだ心臓は早鐘を打つ。意識が冴えてくると、私は悠くんの腕に頭を乗せていることに気が付いた。
静かに後ろを向く。悠くんがこちらを向いて寝ていた。
とても、穏やかというか、安らかというか、どこにも皺が寄っていなくて綺麗な無表情で、眠っている。

「悠くんのバカ」

擦り寄る。
私と悠くんの体の間に置かれていた右腕を持ち上げて、私の腰に回す。

「何の話ですか」
「浮気した」
「してませんよ」
「したもん」

悠くんが、とても面倒くさそうに目を開ける。
ああ、いつもの悠くんだ。
そう思って、腕をよけたスペースに入り込む。ぴたっとくっつくと、悠くんは何も言わなくてもその右腕で私をきちんと抱き締めてくれる。

「髪の短いコと、仲良さそうに喋ってた」
「…夢でも見たんですか」
「見た。みーたーのー」
「なまえさん以外の女性に興味ありません」
「うそつきうそつき」
「本当ですよ」

腕を広い背に回して、足を絡めてしがみつく。悠くんは背中を少し丸めて、それに合わせてくれる。
ぎゅうぎゅう、くっついてくっついて、私はやっとあの夢のもやもやを取り去れるのだ。
甘やかされて甘やかされてやっと、この自分で付けた傷を癒せる。
面倒くさそうにしていても、それは本心じゃないってことくらい、ずるい私はもう気づいている。

「私のことだけ好きって言ったじゃん」
「なまえさんのことだけ好きです」
「じゃーあのコはだれ」
「知りません。なまえさんしか見てませんよ」
「私だけ好きでいてよう」
「なまえさんだけ好きです」

掛布の心地良さより何より、悠くんの肌が心地良い。
下着しか身に付けていない体で、どこにも隙間がないくらいにまとわりつく。
どれだけ近づいても遠い。
もっともっと、くっついてくっついて、離れたくないのに。

「なまえさん、熱い」

悠くんの、苦笑い。好き。
言われるまで気づかなかったけど、私は寝てると体温がかなり上がるらしい。
悠くんが私の額に手を当ててくることも何度かあった。

「じゃあ離れるもん」
「ダメです」

それでも距離を取る。後ろを向こうとして、その右腕がやや強引に私の肩を掴んで元の位置に戻した。
離れるつもりなんて、さらさらなかった私はされるがまま、また悠くんに抱き締められる。

「ここにいなさい」
「…うん」
「私は浮気なんてしていません」
「…うん」
「それはなまえさんの夢です」
「…うん」
「…好きですよ」
「…うん」
「好きです」

悠くんは、こうやって何度も何度も、ことあるごとに私を好きだと言う。
言葉にすると安っぽいという意見もあるようだけど、私たちはそうじゃない。
悠くんは、私に言い聞かせてくれている。
私に好きだと言い続け、肯定的な言葉と好意的な言葉をかけ続け、私が私を認められるようにしようとしている。
悠くんに好かれている私、を意識できるようにしようとしている。
それは暗示の様に、私はその言葉に言い含められて、私の深層心理に落ちていく。
何時か誰かに傷つけられた私の自尊心を、柔らかいところを、治してくれようと、している。
それは貴方のかける最上の魔法。

「好きです」
「…うん」
「もう一度寝なさい」
「…うん」
「ずっと抱いてるから」
「…うん」
「好きですよ」
「…うん」
「好きです」
「…うん」
「なまえさん」

呼ばれて、ゆるゆる顔を上げたら、キスされた。そうして、もっと抱き締められる。
ああ、好き。
あなたが好き。
悠くんが好き。
悠くんが好きになってくれた、私が、好き。
悠くん、好き。

「好きです」
「…ん」
「好き」

首筋の淡い匂いと、頭を撫でる左腕と、きつく背中を抱く右腕と、体中に与えられる温かい温度で、私の意識は混濁し始める。
これ以上ないであろう幸せを一身に受けて、いままでの誰よりも深い愛を注がれながら、私はまた重たくなる瞼に従った。

「なまえさん」



「寝ましたか」




「なまえ」





「好きですよ」






「あなただけ」







「好きです」








「…」









「愛してる」