「ねえ、次の休みは悠くんちにお泊まりしたい」
「良いですよ」
「やったー!」
私の家、ベッドの上、悠くんはゲームをしていて、私は支度を終えて乗っかってきたところだった。
こちらをちらとも見ずの返答でも気にならない。
ベッドヘッドに枕を立て掛けて座る悠くんの足に抱きついて横になる。
自宅の安心感は計り知れないけれど、悠くんちは、当然ながら悠くんの匂いで満たされていて、入った瞬間から幸福だ。
何も無い部屋は居心地が良くて、触発されて私も要らないものを探しては捨てるようになった。
「ねー、寝てもいいー」
「ダメです」
「えーもう眠いー」
足がもぞりと動いて、悠くんがベッドサイドにゲーム機を置く。
首を動かしてそれを眺める。
「なまえさん」
「ゲーム、してていいのに」
「いいです」
「仲間外れとかにされないの?」
どんなゲームをしているのかよく分からないまま言うと、悠くんが緩く笑う。
ふたりで横になって、掛布をかけて、そのまま口付けられる。
その手が、するする私の体をなぞる。悠くんはそれが好きで、セックスの前、一緒にベッドに入ると必ず距離を詰めてその手に這われる。
求められる、ということ。
女という性質に恥じらいを覚えるけれども、心の奥底、誰にも言えないけれど、私で興奮するというのは、嬉しい、に近いものがある。
「悠くん、」
囁いた声の、甘ったるさが頬に熱を与える。
「はい」
律儀に返事をするのが、ちょっとおかしくって。
くすぐったさに身をよじりながら、その手の温もりに弧を描く唇。
どんどん上がっていく体温が、心地良いような、怖いような。
抱き締められて、頬を触れ合わせて、頭を撫でる手に酔って。
うっとり、目を閉じる。
「好きですよ」
「…うん」
「好きです」
「…うん」
「例えなまえさんが私を愛していなくても、好きです」
不穏な言葉に目を開けた。
目が見える位置まで顔を離す。
「好きだよ、悠くん、好き」
「はい」
その、何とも思ってなさそうな表情に、私は振り回される。
信じてるの? 信じてないの? 好きなの? 好きでないの?
ねえ、私、嘘吐いてないよ。
「私はなまえさんに愛されたいのではありません。守りたいだけです。貴女が毎日何の悩みもなく笑って過ごすことができればそれで十分です」
いつも通りの、抑揚のない、意思の感じられない音声を私は噛み砕きながら、聞く。
何がこのひとをそうさせるのか。
「私のこと愛してる?」
「愛しています」
「私が悠くんのことを愛しているのはダメなの?」
「駄目じゃありませんよ。願ってもない幸福です」
難しくて、眉を寄せる。
いまも尚、体を這う手を掴んで止める。
「何も難しいことはありません。私は貴女を愛しているからこそ、すべての悪意を払い除けたいだけです。それに、愛される必要はありませんから」
どうして、悠くんはそんなに私のことが好きなんだろう。
これが本心なのか、私には分からない。
どこをどれだけ愛せば、自己犠牲も厭わないようになるのか。
私に、果たしてそれだけの価値があるのか。
部屋を照らす間接照明だけじゃ、何もかもがよく見えない。
「私の、どこがそんなに好きなの?」
「すべてです」
「…浮気されたのに?」
「関係ないでしょう。それは、彼の度量の問題ですよ。自立し、ひとりで何でもできて、何でもしてくれる##name_1##さんに、少なからず劣等感を抱いていたんでしょう」
「、」
「だから、自らが優位に立てるような人と浮気したんです。優越感で劣等感を誤魔化し、そして、それを与えた貴女を傷付けて自尊心を奪おうとしたんですよ」
すとん、と、何かがどこかに収まった、ような錯覚を受ける。
答えを提示されれば、それは単純明快なことだ。
自分に非が無いのに、自分のせいだと思い込む、虐待を受けた子どものようだ。
このひとに嫌われたのは私が至らないからだという、錯誤。
結局、原因は全然違うところにあるもので、それを見つけられたらすべてはあるべきところに収まる。
「今更気が付いたんですか。聡明なのに自分のこととなると途端に鈍くなりますね」
「…うん」
「彼には、そのくらいの人が合うということですよ。貴女なんて持て余すに決まっているでしょう」
悠くんの口角が、やっぱり少しだけ上がって、私は目を細めた。
ただただ抱き締められながら、私はこの体温を本当に本当に愛おしく思う。
「悠くん」
「はい」
「悠くん、好き」
「…はい」
「ほんとうだよ。愛してる」
「…分かってますよ」
「愛してくれて、ありがとう」
だからずっと、愛していてね、はどうしてか言えなかったけれど。
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