大会議室にて、立会人や掃除人、その他、外せない仕事に出ている人以外は集まれるだけ集まった過密空間。
沢山の長テーブルとパイプイス。巨大なU字型に配置されたひとつに私も座る。こういうときの席次は決まってるから、誰がいないのかは何となく分かる。殆ど集まっているけどまだ空席も目立ち、事前配布の資料を眺めたり、携帯電話をいじったり。
まだかなぁ、と溜息を吐きながら足を組み直したら、真ん中のスペースを挟んで悠くんが向かい側の席に座った。
周りの誰にも気付かれないようにハートの視線で数秒眺める。
そして気付いた。
眼鏡だ!
部屋着に眼鏡はよく見るけれど、スーツに眼鏡、は初めて見る。
細いシルバーのフレームで、いつものあの感じが抑えられ、インテリ感が増している。うーん、格好良い。
チラチラ眺めていると、黒服に話し掛けられたり、近くの立会人に話し掛けられたり。意外と仲良くやっていることにどこかで安心した。
あんまり見ているわけにもいかないので、サロンに行ったばかりのネイルを気にしてみたり、クラッチの中をガサガサしてみたり。
「みょーじ、早いな」
「あっ、夜行さん。私、10分前行動の5分前行動派なんで」
「そんな派閥聞いたことないぞ」
「まァまァ、なんでもいーじゃないですか」
手をパタパタやる。
私も夜行さんと同じSランクなので席は近い。つまんない話をしながら、横目で悠くんを見る。手元の資料に目を落としている。夜行さんは私の様子を見て鼻で笑った。
そうこうしている内に、お屋形様と僅かな側近が入ってくる。
夜行さんは今日はお屋形様付きではなく、掃除人としての参加らしい。
ざわめきが落ち着きだして、会議が始まる。
眼鏡の悠くんをチラ見したら、バッチリ目が合って、急いで目を逸らした。
…
会議終わり、まだ大会議室がザワザワしている中。
クラッチの中に右手を入れ、こそっと覗きながらラインを打つ。
そのままで屋上!
きちんと打てたのを確認して送信。
資料を揃えたり、ゆっくり立ち上がったりしながら様子を伺う。
ごく自然に、緩慢な動作で携帯電話を確認した悠くんは、滑らかな手つきで何か打ち、また携帯電話をポケットに収める。
その瞬間にポケットの携帯電話が震えて、クラッチと資料を持ちながら片手で確認。
20分後
と返信が来て、返さずに仕舞う。
ハイヒールをかつかつ鳴らしながら、歩く。挨拶をしてくる人たちにそれを返して、一度掃除課へ。
デスクに資料をしまって、ポーチを出してきて化粧を直す。目元を確認、ファンデの浮きを抑えて、口紅を塗り直す。
待ちきれずに、携帯電話だけをポケットに入れて時計を見る。昼休憩、一時間フライング。
でもそこはSランクの強み。颯爽と課を出る。
途中で缶コーヒーを買い、いつもの唯一のルートで屋上を目指す。どっちの影かな、と思ってドアを開けたところでポケットが震える。
ロック画面に、後ろ、とだけの通知。
出てきた塔屋の影を覗く。
コンクリートに寄りかかる、黒いスーツ。
「悠くん! 眼鏡!」
「私は眼鏡じゃありませんけど」
こちらを向いた悠くんは、要望通り、シルバー細フレームの眼鏡をかけたまま。
はい、とコーヒーを渡せば、三本指で受け取る。かし、とプルタブを上げて戻し、口を付ける。
一連の動作が滑らかで、カッコよくて、見惚れた。
「見過ぎですよ」
「ゴメンゴメン」
「かなりからかわれました」
「えっ?」
「夜行掃除人が来るまで。穴が空くかと思いましたよ」
「うっそぉ、気付いてたの?」
「あんなニヤニヤしながら見られたら、嫌でも気付きます」
「だって、カッコ良かったの!」
短く息を吐いて、悠くんは私を黙らせるようにキス。
眼鏡越しの眇めた目が、最高にセクシー。
片手で缶コーヒーを摘むように持ち、もう片手は私の腰に回る。距離を詰めて、体の触れる距離で見上げた。
「からかわれたの?」
「見られ過ぎ、とか、ウラヤマシーとか言われましたね」
「羨ましいの?」
「そりゃ、この脚に、この体に、この顔ですからね」
手が、太腿からお尻へ上がり、頬から首、胸へ下がる。
お互いに笑い合って、またキス。
「でもホント、スーツの眼鏡悠くん、超カッコいい」
「シたくなりますか?」
頑張って軽い調子を心がけていたのに、誘うような、甘やかな声で囁かれると、一気に熱が回り出す。
それは悠くんも同じなのか、目を見れば奥に熱が灯る。
下半身を重ねるように合わせたら、太腿とお尻の境に手が落ち着いた。
「…うん」
望まれているであろう、言葉をドキドキしながら返すと、悠くんは目を伏せ口角を上げて、またキスを寄越した。
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