私が貴方を好きだとして。
貴方が、私を、好き、だとして。

手放しに信じられるかと言われると、それはまたちょっと違う。
よく見える私の心は、間違いなく貴方に誠実を誓えるけれども。
貴方もそうかは、私には分からない。
だってその心は見えないわけだし、その脳みそは開けないわけだし。
ただひとつ言えることは、好きな人に裏切られるということは、他の誰に裏切られるより遥かに辛く苦しいということ。
弥鱈さんの殺傷能力は、こういう関係になる前から格段に跳ね上がってしまった。
私はそれが恐ろしい。

そんな重要な事柄を思い出したのは、弥鱈さんとの初めてのセックスが終わってからだった。
弥鱈さんのソレは、久しぶりの私には甘ったるすぎるくらいで、フニャフニャに溶けてしまいそうだった。
やんわり強引に、触れるか触れないかの瀬戸際な、柔らかで確実な接触はとても強い快感を呼び、私は羞恥心で死ぬところだったと言っても過言ではない。
レスの期間もあったわけで、一年くらいは全くご無沙汰だったから、処女かと思う感覚に戸惑った。
触れられてもくすぐったいし、その向こう側にいくのも酷く怖かった。
けれど、終始私を気遣いつつであったそのやり方は、嫌いじゃない。
というか、好き、な方だ。
私が気持ち良くなるのを第一に考えた弥鱈さんに、さらにときめいたのは言うまでもない。
私のこと、好きなのかな。
そんな風に思わせる。
あの言葉が信じられない、わけではないけれど、その度合いは、結局私には分からない。
弥鱈さんがベッドまで持ってきてくれた、スミノフレモネードを味わいながら掛布に包まる。
顔だけを出すようにしながら、弥鱈さんが炭酸水を飲むのを眺めた。
脱いだら、やっぱり意外と、すごかった。
細くは、ない。厚くはないけれど、しっかり鍛えられた筋肉で腕も腹も脚も太い。首もやっぱり太かった。
首に腕を回しても、腕を掴んでも、胸板に手をついても、それは明らかに異質な感触で、それが私を求めて興奮していると思うとお腹の中までとろけそうだった。
浸りながら、炭酸で割ったそれを飲み干して。

「ねー、寝ましょーよー」
「はい」

グラスを置いて、弥鱈さんはボクサーだけを纏ってベッドまで来る。
掛布をめくれば素直に入ってきて、無言で片腕を差し出してくれた。
頭を乗せれば、もう片手で撫でられる。
顔が見えないようにすり寄って、肩口に額を当てた。

「##name_1##さん」
「…はい」
「…可愛いですね」
「いいえ!」
「…可愛い、ですよ」

ベッドに連れ込まれて、覆いかぶさられて、キスをしたときに、名前で呼ばれた。
弥鱈さんに呼ばれると、こういう音になるんだ、と思った。
それから弥鱈さんは、普通に名前で呼んでいて、けれど私は弥鱈さん、のまんま。

「ねえ、私のこと、好き?」
「好きですよ」
「どれくらい、好き?」
「…この世で一番、です」
「この世でいちばん…」
「はい、好き、ですよ」
「…あの世には、私より好きなひと、いるんですか?」
「いませんよ、勿論」

弥鱈さんが少し笑って、空気が揺れる。
安易に信じてしまう私と、疑ってやまない私。
このひとは大丈夫と思う私と、前もそう思ったことを覚えている私。
信じたい私と、傷つきたくない私。
ねえ。

「信じても、良いんですか」
「信じて、良いですよ」

そんなの、難しいよ。
幾らその手が優しくったって、その声が甘くたって、その口角が私に向けられていたって、その肌が私を求めていたって。
喉元を過ぎてしまえば。

「大丈夫ですよ。無理に信じなくても」

沈黙を見透かしたように、弥鱈さんが優しく喉を震わす。
その大きな手が頭を撫でるから。
私は、私は。

「信じられる、日が来ます」

潤いはないけど、カサついてもいない。微妙にすべすべする肌と触れ合う。
顔を上げて首筋にそれを埋めれば、柔らかい体臭。ああ、いいにおい。すきなにおい。安心する、匂い。
吸い込んで、呼吸を止める。

「ずっと、俺だけ見ていて」

角のない口調だったのに、急に少し凶暴な色がして、私は顔を離した。
ぶつかる視線。
頭を撫でていた手はするする下りてきて、親指で私の唇をなぞった。

「ね」

いつも明後日の方を向く黒い目。
目が合って仕舞えば、もう終わりだ。
吸い込まれて仕舞う。溺れて仕舞う。

「…はい」

束の間の幸せと引き換えに、私はまた傷つく覚悟を、ほんの少しだけ、決めた。