あなたが星に願うとき

第一章 あなたが誰かは関係ない

「……どういうこと?」
 彼はわたしの申し出に、よく分からないといった様子で首を傾げた。竜司先輩も「お前、何言ってんだ?」と疑問を口にしてくる。余りに意思疎通ができていないので、わたしは頭を抱えたくなった。
 ん? いや、さっきのわたしは、何の脈絡もなく彼に申し出をしてしまったではないか。何故、伝わって当たり前のような認識を持っていたのか。甚だおかしい。わたしは焦って弁解に走った。
「あ、えっと、いきなりごめんなさい。何か先輩の温かさというか、信念の強さみたいなのが伝わってきて、それで先輩、仲間を求めてるんじゃないかって……」
 そう思いまして、と言ったが最後、自分でも何故に彼の仲間になるなどと言おうと思ったのか、よく分からなくなった。先輩方のぽかんとした表情も相まって、途端に羞恥心が全身に行き渡り、穴があったら入りたいような気分に陥る。
「……すみません。ちょっとさっきのわたし混乱してたみたいです。忘れてください……」
 わたしは恥ずかしさに身を縮こまらせて深々と頭を下げた。それなのに雨宮先輩は「どうだろう」と悪戯心の籠った声で返してきた。本当に、わたしは何故仲間になるなどと宣言したのだろう。
「……帰ります」
 不貞腐れて出てきた言葉はそれだった。我ながら幼さ全開の台詞に、ふっと苦笑が漏れる。そして何が滑稽だったかというと、私の宣言に二人が口を揃えて賛成してきたせいで、もう後に引けなくなってしまったことだ。
 まあいい。今日は城に怪盗に自身の黒歴史と、脳に大きく負担をかけてしまったから、帰って夜ご飯を食べて寝た方が身のためだろう。これから彼らが何をしようが、わたしには関係ないのだ。
「それじゃあ、お先に失礼しますね」
 自分らしくない、少々疲れた声が喉から出た。余程疲れたのだろう。それを自覚すると急激に家に帰りたくなってきた。彼らに背を向けて、とぼとぼと歩き出す。
「気を付けて」
「またな」
 彼らの爽やかな声を背景に、再びさっきの歪みがわたしを襲う。次に意識を取り戻したときには、彼らと城は忽然と姿を消しており、代わりにいつもの秀尽高校が夕陽に赤く染まっていた。そしてわたしは、いよいよ帰路に就いたのだった。

何かが混乱する




読んだ帰りにちょいったー

戻る   玄関へ