チンピラ宝石商と天才魔導師
騎士団の詰所を出て、魔法局に戻ったレイトンを待ち受けていたのは大量の書類だった。魔道具の使用許可を求めるもの、一般国民が使用していい魔法の規約の見直し…つまらないものばかりだ。
レイトンは適当に流し読み、適当にサインを書く。何度かその作業を繰り返し、暫くしてレイトンはペンを放った。
「どこに行く気だ?レイトン。まだノルマ終わってないだろう」
「僕、もう疲れた。今日は帰るね」
「はぁ!?お前、いい加減にしろよ!昨日もそう言って…って、おい!待て!」
騒がしい同僚を無視して、レイトンは部屋から逃げ出した。城に行ってハジメに会いに行こうかと考えを巡らせる。王様の部屋に入ることは簡単だ。レイトンの実力を知っているユージンは少しだけレイトンに甘い。勝手に侵入して会うことくらい許してくれるはずだ。
あの騎士のように馬鹿をやらかさない限り。
そんなことを考えてから、ふと足を止める。ハジメが城にやってきてもう3ヶ月ほど経っていることに気づいた。住んでいたアパートはどうなっているのか。もし解放されて住む場所がなくなっていたら、きっとあの男は狼狽えるはずだ。
「どうなってるか、一応確認して来ようかな…」
レイトンはスラムまで歩くつもりはなく、当たり前のように転移魔法を使った。
アパートにつき、ハジメの部屋の場所を思い出しながら階段を登る。見覚えのある扉の前に着くと、違和感を覚えた。
人がいるはずもないのに窓から灯りが見えるのだ。不審に思いながらレイトンはその扉を叩く。
「はいはい、どちら様…って」
「……君、何でここにいるの」
「はぁ?テメェ、誰だよ………ぁ、あの時の魔導師か?」
出てきたのは赤髪の男、カイルだった。カイルはレイトンを見た瞬間怪訝そうな顔で睨みつけてきたが、誰なのか理解した瞬間少しだけ瞠目した。
少し前の麻薬事件でハジメと同じ『被害者』だった男が出てきてレイトンは眉を顰める。普通の関係ではないことはわかってはいたが、なぜこの男がここに?そんな疑問が頭に浮かんだと同時に何とも言えない不快感が湧き上がる。
「ここはハジメの家だったはずだけど、どうして君が出てくるの?」
「おい、アンタ…ハジメが今どこにいるのか知ってんのかよ。彼奴は今どこにいる!?」
「……君さ、僕と会話する気あるの?僕が先に何でここにいるか聞いてるんだけど」
見た目通りの低脳さにイラつきながらも、話を聞くと、どうやら帰って来ないハジメの代わりにここに住んでいるようだった。律儀に家賃まで支払っているらしい。まるで恋人のように振る舞うカイルにどんどんレイトンの苛立ちは募っていく。
「で?ハジメはどこにいんだよ。もう3ヶ月もここに帰ってきてねぇんだ、何か事件に巻き込まれてんのか?」
「……ハジメは今、王宮でいるよ。君の予想通り巻き込まれてるけど、無事だから安心して」
「そう、か…ならよかった…」
カイルは心底安心したように息を吐き、壁にもたれかかる。よく見れば目の下に濃いクマができている。
「君は…カイル君だっけ、ハジメとどういう関係?家に自由に出入りできるなんて…まさか恋人じゃないよね」
「……まだ、恋人じゃねぇ」
「はぁ?じゃあどうして家にいるの?」
まだ、と言う言葉にレイトンの顔は引き攣った。先程から目の前の男の態度が、言動がレイトンの神経を逆撫でる。カイルが自分よりハジメからの信頼を寄せられているように見えて仕方がなかった。
「ハジメはそこの植木鉢の下に鍵入れてたんだよ。それを知ってたから家に入れてるだけ」
「あ、そう…それでハジメが戻るまでここにずっといるつもり?」
「そうするしかねぇだろ。俺が王様相手に何かできる訳じゃねぇし…助けられるならそうしてぇよ」
悔しそうにカイルはそう言った。レイトンはその様子を冷めた瞳で見つめながら、自分の思い人が異様にモテていることに内心うんざりしていた。
お人好しで悪態をつきながらも何だかんだ寄り添ってくれる面倒見の良さ。料理も上手くて、おまけに床上手。いつもは冷めた顔をしているのに、たまに見せる笑顔が可愛い…ハジメのいいところを上げればキリがないほど出てくる。
結局、レイトンはこの男と自分は同じ穴の狢なのだと気がついた。
「まあいいや…じゃあ君にハジメの家を任せるよ」
「ハジメは帰って来るよな?」
「わからない。いつ解放されるのか…王様の気持ち次第だね」
「アンタ、すげぇ魔導師なんだろ?何とかしてくれよ…っ、頼む。俺じゃ何もできねぇんだ」
縋るようにカイルは頭を下げた。
ああ…神子も騎士もコイツも、本当に人をイラつかせる天才だ。レイトン一人の力でどうにかできるならとっくにハジメを城から救出している。自分では何もできないからと恋敵である自分に頼る姿の情けなさ。
こんな奴らにハジメを渡さない。レイトンは人の良さそうな笑みを浮かべ口を開く。
「僕も頑張ってみるよ」
「っ、本当か?」
「うん。でも…その代わり、僕が助けたらハジメは貰っていい?僕も彼のことが好きだから」
ピシリと顔を凍り付かせた男を見てレイトンは嘲笑した。コイツもガレスもナギサも…弱くて頭の悪い男はハジメに相応しくない。
幸せにできるのは僕だよ、そう言うとカイルの顔は怒りの色に染まっていった。掴みかかるように腕を伸ばされた瞬間、レイトンは転移魔法を使い自身の研究室へと飛んだ。
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