似たもの同士

 
 ユージンとスラムを視察してから、ユージンは毎日のように会議を開いている様だった。毎日のように夕食を一緒に食べていたが、最近ではそれが殆どない。朝起きてユージンがいないことも多々ある。常に連れて行かれていた執務室にも行くことも少なくなった。
 俺が許されている行動範囲は図書館とユージンの部屋、執務室、中庭くらいで、俺は図書館に入り浸っていた。
 それをユージンは知っているのか、週に何回かふらっと顔を見せにくることもある。周りの視線が痛いから正直やめてほしいが、疲れた顔の王様を見てしまうと何も言えなかった。


 そんなある日、珍しくユージンは執務室にお茶を持ってくるよう言ってきた。断る理由もない俺は使用人からカートを受け取り、それを執務室へ運んだ。
 どうせユージンしか居ないだろうと思っていた俺はノックもせずに扉を開けると、ユージンではない人が目に入り足を止めた。
 大柄で外衣を被った後ろ姿、その向こうにはデスクに座るユージンが見えた。ユージンは俺に気づいたのか、軽く手を振って中に入れとだけ言った。

「あの…取り込み中ならこれ置いて出て行くけど」
「いや、構わない。少し休憩するつもりだ、茶を淹れてくれ……お前もどうだ?」
「ええ、頂きます」

 大柄な男の声に俺は持っているティーポットを落としそうになった。嘘だ、何でここに?思わずそう口に出した俺に、男は喉を震わせ笑い声を上げた。
 フードを脱ぎ、現れたのは燻んだ金髪。傷跡がある精悍な顔。

「久しぶりだな、ハジメ。いつの間に殿下の給仕係になったんだ?」

 口角を緩く上げ、そう問いかけてきたのはユアン・マーチスだった。信じられなくて魚の様に口をパクパクさせてしまう。ユアンは本当に近衛騎士になったのか?その話が出たのは1ヶ月前くらいだろう。
 ユアンは俺の元へ近づくとそっと抱き寄せられた。久しぶりに感じる逞しい肉体に目を見開いて固まった。そんな俺を気にもせず、目の前の男は旋毛に口付けを落とした。

「あぁ…ずっとお前をこうして抱きしめたかったんだ」
「ゆ、ユアン…もう近衛騎士になった、のか?」
「少し前から監獄から出て、近衛騎士として仕事をしている。そんな驚いた顔をするな…可愛いな、お前は」

 鷹のような瞳を溶けさせ、俺に何度も唇を振らせる男に戸惑いが隠せない。顎を指先で掴まれ、顔を近づけてきた瞬間ユアンがピタリと動きを止めた。

「おい、そこまでは許していない。止めろ」
「……唇は駄目なんですね。いいじゃないですか、脱獄してここに戻る前は沢山していたんですよ」

 そうだろ?そう問いかけるユアンの顔は今まで見たことがないほど楽しげだ。ユージンは苛立っているのか、不機嫌そうに指先で机を叩いている。

「ちょっと待ってくれ。まさか、俺とアンタの関係をユージンに伝えてるのか?」
「あぁ、主人に隠し事は出来なくなったからな」

 ユージンは嫉妬深い。いつもなら癇癪を起こして怒鳴られるか、酷ければ殴られるはずなのに、何故かそんなに怒ってはいないようだ。どういうことなんだ?俺は怪訝な目で二人を見つめた。
 不機嫌そうに顔を歪めた王様は深く溜息を吐いた。

「言っただろう。俺はハジメの過去について今更とやかく言うつもりはないと…気に食わんが仕方がない」
「安心しろ、ハジメ。俺たちのことを話したらしっかり殺されかけた」
「……ふん、ただの真剣を使った打合いだっただろう。殺されかけただなんて、人聞きの悪い」

 目の前で言い合いをする二人を見つめて、俺は強張っていた身体の力を抜いた。この二人、仲良すぎじゃないか?この前まで憎しみ合っていた癖に何なんだ。
 俺はユアンの腕から逃げ出し、少し冷めた紅茶をカップへと注いだ。





「へー…じゃあ、スラムの改革を主に手伝ってるのはユアンなんだな」

 俺の隣に座っているユージンはティーカップに口をつけながら静かに頷いた。

「そうだ。こいつはスラム出身だからな…この城の誰よりも詳しい。改革の案も他の大臣が出したものより良いものが多い」
「俺は少し助言しただけですよ」

 ユアンとユージンの間には穏やかな空気が流れている。そんな二人の様子に俺は自然と口が緩むのがわかった。いつの間にこんな仲良くなっていたのか、聞きたいけど聞いても恐らく教えてくれないだろう。
 仕事の話を交えながら話す姿を見つめながら、俺はふとユアンの首についている首輪が目につく。牢屋にいた時にそんなものをつけていただろうか、そう思っているとユアンが俺の視線に気づき、此方を向いた。

「どうした、ハジメ」
「いや、その首輪どうしたんだ?前に会ったときはつけてなかっただろ」

 ユアンは俺の問いかけに答えず、ユージンの顔を伺うように見た。ユージン本人は無表情で特に何も発言しない。不思議なやりとりに首を傾げれば、ユアンは魔力が込められた首輪だと言った。

「魔力?そんなものがあるんだな」
「俺が殿下に逆らわないよう作られている。これがあるから俺は近衛騎士になれたんだ……安心しろ、俺は殿下も国に対してもどうこうするつもりはない」
「当然だろう。此奴は俺の犬になったんだ、飼い主には逆らうな」

 鼻を鳴らしたユージンに、ユアンはわかってますよと笑みを返している。俺はならよかった、とだけ返した。
 二人の会話に耳を傾けながら、俺はティータイムのお供に出されたフィナンシェっぽい焼き菓子に手を伸ばし、一口齧る。久しぶりに甘いものを食べた気がする。料理はすごく美味いわけではないが、お菓子は美味しい。もそもそ食べていると、小皿に何個か同じ焼き菓子が乗せられた。

「何だ?俺はこれで充分だからいらな…」
「お前が食え」
「そうだぞ、ハジメ。もう少し肉をつけろ」

 二人はそう言って、他にも焼き菓子が乗った皿を俺の前に押しやる。いらないと伝えれば、ユアンの手が俺の手首を掴んだ。

「お前はこんな痩せてるんだぞ。最低でも5キロ太った方がいいな、抱き心地が悪い」
「此奴を太らせることには同意するが、お前が抱き心地を気にする必要はない。ハジメを抱く機会はないんだからな」
「……ユージン殿下、俺が任務をこなせば何でも褒美を下さる約束だったでしょう?俺が望む褒美は、ハジメです」

 ーーこれは一体何の言い争いが始まったんだ?
 俺がガリガリすぎて太らせたいのはわかる。ユアンの指が簡単に手首に回る。成人男性としては異様な細さだろう。それはわかった。だが、俺を抱く?褒美?何の話をしているんだ。

「俺を褒美にするなら、俺の同意がいるだろ」

 そう口を出せば、ユアンはパチパチと瞬きをして心底不思議そうな顔を見せた。

「同意もなにも、ハジメは俺に抱かれたいんだろう」

 あんなに善がっていた癖に何を言ってるんだ、ユアンはそう言っていやらしい笑みを浮かべる。思わずはあ?と声が漏れたが、すぐにユージンが口を挟んできた。

「何を言ってるんだ、ユアン。ハジメは俺とのセックスが1番好きなんだ。お前に抱かれたい訳がない」
「……そんなこと俺は言ったことないぞ」
「言ったことはなくても、お前は何度も何度も果てていただろうが。恥ずかしがらなくていい、この勘違いした駄犬に言ってやれ」

 王様の言葉を聞いて、ユアンは鼻で嗤った。

「殿下、知らないかもしれませんがハジメは俺としたときも何度もイッてますよ?良すぎて毎回漏らしていたくらいにね」

 パリンとユージンの持っているティーカップが割れた。恐る恐るユージンの顔を見れば、額に青筋が浮かんでいる。相当頭に来ているみたいだ。
 こいつらはさっきから何の話で張り合っているんだ。そもそも俺はどちらともやりたいなんて思っていない。

「ユアン、お前も此奴が俺に抱かれているとき、どんな風か知らないだろう?俺が抱いた時も、脱水症状が出そうなほどいろんなものを漏らしてる」
「おい、何言って……っ」
「ご冗談はお止め下さい。夜伽の授業が苦手だった殿下がそんな技術をお持ちな訳がない」

 延々と繰り返される言い合いに俺は溜息を吐いた。恥ずかしいやら情けないやら、張り合う内容はどれも俺がどれだけ善がっていたかの話ばかり。くだらなさすぎる。自分で言いたくないが、俺は淫乱な方だ。こいつら二人だけじゃなく、他の男と寝た時も潮やら尿を噴き出している。
 こいつらだけじゃないと言えたらどれだけいいか。言った後の二人の反応が怖くて言えないが、二人とも思い上がりが過ぎる。

 その後も言い合いが続き、俺が痺れを切らして執務室から出て行こうとして漸く言い合いが止まった。



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