異国旅行3日目(3)

 シャムスは24歳で俺より年下らしい。
 畑のそばにある小屋に案内されて、一緒に茶を飲んでいた俺はそれを聞いて感心の声を上げた。

「シャムスはそんな若いのに、立派に畑作れてすごいな」
「趣味の延長だ…それに若いって、ハジメは何歳なんだ?」
「今年で…29、になるな」
「………信じられん、ティーンで通るぞ」

 日本人は童顔と言われるが、そんな幼く見えるのだろうか。俺は自分の顔を触りながら不思議な顔をしていると、シャムスは紅茶を一口飲み笑った。

「まさかこんな観光客が来るなんてな…誰ときたんだ?恋人か?」
「いや、知り合い…仕事の付き添いで。俺は関係ないからのんびり観光してるんだ」

 何気ない会話をしながらふと小さな台所が目についた。調味料やフライパン、鍋が置いてありシャムスは料理するのかと思った。
 それを聞けば、シャムスはしないときっぱり否定した。

「しないならなんであんな調理器具が…」
「……やろうとは思ってるが、めんどくさくてな」
「あぁ…なるほど」
「ハジメは?料理するのか」

 納得していると、シャムスに問われた。
 すると答えれば、切れ長な目が見開かれた。よっぽど意外だったらしい。

「へぇ…なんでも作れるのか?」
「まあ…知ってる料理は、な」
「食べてみたい」
「……は?」

 いきなり何を言いだすんだ?俺は怪訝な顔をした。突拍子もないことを言ったシャムスは目を輝かせていた。初めてみたときのだるい顔とは大違いだ。

「もう昼だし、せっかくだからなんか食べてみたい」
「……俺の手料理?」
「ああ」

 ちょっと面倒な気持ちがあるが、別にこれと言って断る理由がないから俺は椅子から腰を上げた。


 *

 とりあえず、俺の気分でトマトと茄子のラザニアを作ることにした。ラザニアがないかと思ってたが、偶然あったからよかった。どうやらパスタ類は全部買ってあるらしい。
 挽肉とか細かい具材はシャムスが買ってきてくれた。
 最初に茄子やトマトを輪切りして軽く焼いておく。次にミートソースを作っていく。玉ねぎ、セロリ、ニンニク、挽肉を炒めて潰したトマトをいれる。これだけでいい匂いが部屋に充満する。
 白ワインはないから、似たような果実酒とドミグラスソースもどきを入れて煮込む。水気がなくなれば完成だ。
 シャムスは気になるのか俺の後ろで見ている、はっきり言って邪魔だが気にしないことにした。

 ホワイトソースも作れば、あとは材料を器に入れて焼くだけだ。
 ラザニアを器に入れてミートソース、チーズ、茄子、ホワイトソース、トマトの順にいれて繰り返す。最後にチーズを大量にかけてあとは焼くだけだ。

「…そんな料理見たことないな」
「へぇ、この国にはないのか?」
「あぁ……腹が減ってきた」

 待ちきれない様子のシャムスに苦笑しながら、オーブン代わりの小さなかまどに入れてじっくり焼いていく。
 焦げすぎない程度に火を入れて、チーズがとろけて焼き色がついたらラザニアがやっと完成した。


 *


「う、うまい…」

 精悍な顔を綻ばせて幸せそうな顔をするシャムスに俺は少し笑った。
 俺も熱々なラザニアを一口食べる。はふはふ熱を冷ましながら、なんとか食べていく。
 ラザニアはもちもちで、茄子とトマトはみずみずしく甘い。ミートソースはニンニクが効いてるし、何より茄子とトマトに合う。
 久しぶりに食べると美味いなぁ、なんて言いながら食べる。サラリーマンがラザニアなんか何で作れるのか、それは一時期ミートソースにハマったから。
 特にラザニアなんかは珍しくて作り方を覚えていたのだ。

「シャムス…そんな美味しいか?」
「あぁ…美味い」
「そ、そうか…」

 ゆっくり味わいながら食べるシャムス。
 今までガツガツ食うやつらしか見てないからか新鮮に感じられる。
 シャムスは食べ方もどこか上品で貴族出なのだろうか、俺はそう思った。


 *

 シャムスに農園の出口まで送ってもらう。

「本当は町まで送りたいけど、ここで」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「…ラザニア、美味かった。また作ってくれ」
「あぁ、じゃあ…」

 手を振って俺は町までの道を歩いていく。
 まだこの国にいるからまた遊びに来たいなと、少し笑みが浮かんだ。


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