騎士、ガレスの苦悩

 私は毎日早朝に騎士団の詰所に行き、苦いコーヒーを飲み1日を始める。仕事は王都の見回り、書類整理が主だ。あと、毎日団員と剣の稽古をして1日が終わる。

 美味いとも思えないが欠かさず飲む苦いコーヒーを飲みながら、警備に対しての書類に目を通す。だいたいは団長が印を押すのだが、大した内容ではなければそれより下の団員が代行している。
 ひと段落し息をつけば団長が此方にやってきた。団長だから私とは比べ物にならないくらい体が大きい。

「ガレス毎日悪いな。俺の代わりに仕事してもらってよ」
「いえ、これも私の仕事ですので」

 お気になさらず、そう言えば団長はやれやれと言うように肩を竦めた。仕事を辛いとは思ったことはない。国民から税をもらっている以上当たり前のことをしているだけだからだ。

「なあガレス。お前はまだスラムの見回りをしているのか?」
「ええ、あそこは一段と警戒しなければいけない場所なので」
「警戒って…警護区域に指定されていないところだ。仕事を増やさなくてもいいだろう?それに、今更お前がどうこうしても犯罪は減らないんだ」
「やらないよりはマシです。王国騎士が見回ればそれだけで犯罪の抑止力にはなるでしょう」

 団長の言いたいことはわかるが、生憎私はその通り見回りをやめない。何回同じことを言われても聞く気は無かった。
 庶民はくだらないし関わろうとは思わないが、騎士団はその庶民を守るためにある。王宮のものだけを守るのではない。
 無法地帯だと言われるスラムでも、このダバルドンの領地で守るべき場所だと私は思っている。国は見放し、何もしないが私は毎日仕事終わりに見回りをしている。

「あそこは国の領地なのに何故何もしないのか、不思議でなりません」
「ガレスの言うことはわかるが、俺はお前の体が心配なんだ。お前には将来、騎士団長として頑張ってもらうつもりだからな」
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきます」

 騎士団長、その地位まで上がれば国のために何かできるだろうか。そう思いながら頭を下げた。

「そうだガレス、お前も息抜きしたいだろう?どうだ、久しぶりに色街にでも。だいぶ前に行った高級娼婦の店はなかなかだっただろう?」

 それを聞いて思い浮かべたのは、あの男娼だ。地味で庶民面だが、料理はできるしなかなかよかった。…下品な言葉には驚いたが。
 騎士の私にどうでもいいというような態度を示すのはあいつくらいだろう。
 そう考えながら、私は首を横に振った。

「ありがたいお誘いですが、今は必要ありません」
「そ、そうか…必要ならいつでも言ってくれ」

 項垂れた団長に申し訳なく思っていると、執務室の扉がいきなり開いた。
 息を切らし必死な顔をした団員を見て、何事かと顔をしかめる。

「団長!た、大変です!」
「どうした、何があった」
「じ、実はーーーー」

 団員から告げられた言葉に、私は背筋が凍りついた。

「ーー至急、全団員を集めろ!」

 団長は険しい声が大きく響いた。


*前 | 次#