ユアンの話

 ユアンは俺に対して以前と比べれば無防備になった。俺の名前を呼ぶようになったし、俺の前で眠っていることもある。
 セックスもたまに首を絞めたりしてくるが、以前と比べればだいぶ優しい…気がする。

 夜中、寝息を立てるユアンを見て俺は台所に移動した。ある番号を呟き、頭の中に電子音が響く。

『ーーっ、ハジメか?!』
「はい、ガレスさ…」
『今まで何をしていた!連絡しても出ずに、家にもいなかっただろう!』

 ガレスさんの怒鳴り声に耳がキンとしたが、なんとか答える。

「ずっと家にいましたけど…ガレスさん、きたんですか?」
『嘘をつくな!何度も訪ねたが、ハジメの魔力反応はなかった』
「そう、ですか…」

 もしかしたらユアンが何かしたのかもしれない。黙った俺に、ガレスさんが怪訝そうに俺の名前を呼んだ。

「あの、ガレスさん…掲示板で、その…ユアン・マーチスが脱獄したって…」
『あぁ、お前も見たのか…そうだ、実はまだ捕まえていない。ユアン・マーチスはかなりの強者だ、行方が全くわからないんだ』
「………」
『怖いのか?だから前に言っただろう、そこから引っ越せと…彼奴がスラムにいることは確実だ。何かに巻き込まれてからでは遅い』

 真剣なガレスさんの声を聞きながら、俺はユアンがここにいることを伝えようかと一瞬思ったがーーやめた。何故だかわからないが、言うことができなかった。
 やっぱり、ストックホルム症候群に陥っているのかもしれない。自分に呆れながら、俺は口を開いた。

「ーーご心配ありがとうございます、俺は大丈夫です」
『本当か?音信不通だっただろう』
「それは、気分が悪くて、その…鬱だったというか…まあ、体調が悪かったんです」
『……』

 怪しげなガレスさんに、俺ははっきり大丈夫だと告げて一方的に通信を切った。

「ーーガレス・アーノルドか」
「…っ!?」

 背後から声が聞こえて慌てて振り返ると、そこにはユアンが立っていた。
 フローリングを軋ませて、ユアンは俺の前まで歩いてきた。心臓の鼓動が大きくなって、耳の近くで鳴っているように感じた。
 俺の顎を掴み、自分の方へと向けさせ、ユアンは目を細めた。

「相手は王宮騎士団、第一騎士団・団長第二補佐官だ…何故、俺のことを言わなかった?」
「……」
「まあ、言っていれば殺していたが」

 やけに優しい声色に、余計恐怖を煽られる。ユアンのカサついた大きい手が俺の首を掴む。

「ほん、とうは…言うつもりで連絡した」
「……」
「だけど、言えなかった…」
「なんだ…俺に情でも抱いたか?」

 俺は何も言えず視線を逸らした。
 それをユアンは肯定と受け取ったのか、首から手を離した。

「ユアン…あんたに何があったのか、知りたい」
「……」
「俺が知りたいだけだから、言いたくなければ…言わなくていい」

 少しの沈黙の後、ユアンは息を吐き出し、椅子に座った。向かいの席に目をやり、座れと、そう小さい声で俺に言った。

 静かに、ユアンは過去を吐き出した。


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