太客名簿@ザブール
この世界には魔法がある。携帯など電子機器はないが、魔法でそれっぽいことができるのだ。前の世界でいうコンロも魔法、風呂を沸かすにも魔法…ただし、移動だけは馬車や列車が多い。移動魔法はかなりの魔力がいるらしい。
携帯のような魔法はピコン、と軽い音が脳内に響いて、それに意識を集中させれば脳内に相手の声が聞こえて、会話ができる。まあ、前の世界でいう電話ができるのだ。
相手の魔法を使う場合は、電話番号みたいに数字を口ずさむだけ。
魔法が使えないと思っていたが、小さいこの魔法は使えるらしい。ちなみに、メールの機能はない、電話ができるだけだ。俺はこれで客を取っていた。
*
家でいるときはだいたい料理をしている。仕事があるから大量には作らないが、その日の食事だけ作る。
今日はホワイトシチューが食べたいから、小さめの鍋でグツグツ煮込んでいた。
ーピコン
突然脳内に音が響いて、すぐに意識を集中させた。
「はい、ハジメです」
『ーーあぁ、ザブールだ。久しぶりだなァ』
「…1週間前に会った気がするんだが?」
『そうだったかァ?まあいいじゃねェか』
この語尾の上がる話し方の男は、俺の太客の1人ーーザブールだ。
ザブールは刺青を入れる彫り師の仕事をしている男で、マイナーな仕事をしているが稼ぎはいいらしい。2週間に1、2回は連絡が来る。
『2日来て欲しいんだけどよォ、いいかァ?』
「…2日ね、なら明後日からになるけど」
『いいぜェ、早くその可愛い顔を見てェなァ…ゲハハハ!!』
「揶揄うなよ、怒るぞ」
下品な話し方をしているが腕はいいと評判な男だ。適当に返事を返しながら、最後は無理やり通信を切った。
ザブールは比較的(カイルと比べると)マシな性格だが、話し方や見た目にやや難がある男だった。
*
古びた黒い建物の、また黒いドアをノックする。
暫くして扉が開いた。
隙間から出て来たのは、ドレッド頭のでかい鍛えられた体を持つ褐色の肌をした男、ザブールだ。
「待ってたぜぇ、ハジメちゃん」
「…早く入れてくれよ、寒いんだ」
「へいへい」
部屋に入ればまずザブールの仕事場が広がっている、そこを突っ切って地下へと続く階段があり、それを降りたらザブールの家があるのだ。
部屋に入って俺はため息を吐いた。
「…相変わらず汚い部屋だな。前に掃除しただろ…」
「まだマシだろォがよ、ゲハハハッ!」
「笑い事じゃない!誰が片付けると思ってんだ」
そう、ザブールはかなり部屋を散らかす男で、掃除をしても3日で汚れ始める。不摂生な生活をしていて1日何も食べないということもある。食べても、食生活は偏っていて肉しか食わない。
カイルは性格がクズだが、ザブールは生活がヤバすぎる。この2人はムカつくことに、顔がいい。何でこんな奴らが美形なんだと、毎回疑問に思う。
*前 |
次#