ユアンの話(3)

 こんなちっぽけな俺のままでは、国に何かできるわけがない。
 そう思った俺は、騎士団に入団し、必死に魔術や体術を学んだ。何度も何度も挫けそうになりがらも、頑張って、22歳という若さで騎士団長になることができた。

 そして、漸く…国に復讐する計画を実行した。

 *

「第1皇太子…現国王を殺害しようとしたんだ。だが、それは失敗に終わった」
「……」

 あまりの悲惨な過去に俺は言葉が出なかった。

「金髪の生意気な新人魔導士にやられ、俺は牢に入れられたんだ」

 金髪の魔導師と聞いて、あいつが出てきたが気にせずユアンの話を聞いた。

「15年間、俺は再び復讐するために…武術も、魔術も鍛えた。そして漸く、脱獄に成功したんだ」
「…また、復讐するのか」
「そうだ。未だに国はスラムを無視し、犯罪が野放しにされている」

 ーーそれを正すためにも、復讐が必要だ。
 ユアンはそう続けた。
 俺はゆっくり呼吸して、口を開く。

「ユアン、あなたは間違ってる」
「なんだ、俺を否定する気か?国が正しいと?」
「違う!国は、国は本当に最低だと思う!」

 俺は今まで、この国の政治のおかしさに怒っていた。でも、でも…

「最低だけど、国に復讐するとか…誰かを殺すとかじゃ、国が良くなることはないと思う」
「………」
「ユアンの話を聞いた騎士団の人は酷いけど、でも俺は…頑張って、スラムや騎士団を変えようとしてる騎士を知ってる」

 脳裏に浮かんだ男を思い出しながら、俺は続けた。

「一人でスラムを巡回して…巡回中、何も食わずに倒れたりしても、ずっと頑張ってる騎士がいる。変えたいと、そう思ってる騎士がいるんだ」
「ーーガレス・アーノルドか」
「そう、ガレスさんは騎士団を変えると言っていた。騎士団長だったあなたは、それができたんじゃないのか?スラムを巡回するように決めたり、犯罪を無くすように注意したり…」

 ユアンの金色の目が少し揺れている。瞳に浮かぶのは戸惑いと、悲しみの色だ。
 そんな男を見て、なぜか涙が溢れた。

「今でも、あなたのお母さんのように殺された人や、あなたのように悔しい思いをした人もいると思う。そんな人達を無くしたいなら、国じゃなくて…スラムに目を向けるのが良かったんじゃないか?」
「……っ」
「あなたはそれができた筈だ!騎士団長なら騎士達にスラムの犯罪にも目を向けるように、そう…指示できただろう?」

 俺は再び息を吐き出し、涙を流す男を見た。
 項垂れた肩にそっと触れて、口を開く。

「あなたは道は間違えた。でも、その強さをもう一度正しく活かし…やり直すことはできると思う」
「やり直す…?」
「まだ、時間はある…大丈夫、大丈夫だ」

 ユアンはまだ綺麗な心がある、そう言えばユアンは俺を抱きしめた。肩が熱く濡れていくのを感じながら、俺はその背中に手を回した。

「ーー俺は間違っていたんだな。かなり時間がかかったが、気付けて良かった」

 ユアンはそう言って笑った。
 すると、いきなり激しくドアを叩く音が聞こえた。

「ここに張った結界を解いたんだ。すぐ俺の魔力を察知したんだろう」

 開けてやれ、そう言われて俺は鍵を開けた。

「ハジメっ、無事か?!」
「ちょ、ガレスさん…っ」

 勢いよくドアが開かれ、ガレスさんにぎゅっと抱きしめられた。後ろにユアンがいることに気づいたのか、ガレスさんはキッと睨みつけた。

「ユアン・マーチス!貴様…脱獄し、更には家に立てこもり、ハジメを監禁するなど…っ」
「ああ、悪かったよ…牢に戻る。やり直すと決めたんだ」

 大人しくそう言ったユアンに、ガレスさんは怪訝そうな顔をした。
 ユアンは俺を見て少し口を緩め、俺に口付けた。

「っ、貴様…!」
「俺は決めたことはしっかり実行する男だ。だからハジメ、待っていてくれ」

 必ず変えてみせる、そう言って穏やかに笑うユアンの瞳は嘘みたいに澄んでいた。

「ああ、待ってる」

 互いに笑い合う俺たちに、青筋を額に浮かべたガレスさんが怒鳴った。

「ユアン・マーチス!早く牢に戻るぞ、しっかり話を聞かせてもらうからな」
「わかった」
「それとハジメ!お前にも詳しく聞かせてもらうぞ、いいな!」

 ガレスさんは荒々しくユアンに何か魔法をかけ動きを封じ、転移魔法ですぐに消えた。


 緊張が解けた俺はその場にへたり込み、でかい溜息を吐いた。
 ーー仕事復帰はしばらくしてからにしよう。

 思った以上に精神的疲労がピークだったらしく、俺はぐっすり死んだように眠った。


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