雨の日のたずねびと
仕事の休みを堪能し始めて三日目。
俺は食材とボディクリームを買いに町に出ていた。買いものの途中で雨が降ってきたが、そんなこと気にしないことにした。
辺りも暗くなり、まだ買いたいものがあったが俺は買いものをやめて帰路に着いた。
いろいろ大量に買い込んでしまったせいで、かなり重くなった袋を抱えてアパートの階段を上る。
「…っ!」
部屋の前に座り込んでいる男を見て、俺は思わず袋を落としそうになった。
「カイル…?」
「…ハジメ」
髪がペシャンコでよくわからなかったが、あの赤髪はカイルしかいない。
俺は何故カイルがいるのかと不思議に思いながら部屋の前まで行く。
「っ、おいカイル…お前、びしょ濡れじゃないか…っ!?」
「ハジメ…」
ギュッと抱きつかれて、俺はとうとう荷物を下に落としてしまう。そんなことがどうでもいいくらいカイルの体は濡れて、冷え切っていた。
ーーいつからここにいたんだ?その体の冷たさに俺は驚いた。
非力ながらも何とか荷物もカイルも部屋に入れることができた。
部屋の明かりをつけて、カイルの顔を見て俺は一瞬息が止まった。
「お前…そんな痩せてどうしたんだ?顔色も悪いし…っそうだ、風呂に」
「いい、どこにも行くんじゃねぇ」
「っ、カイル…」
抱きついて離れないカイルに俺は溜息を吐いた。このまま放置もできないため、とりあえずカイルをソファーに座らせて俺はお湯を沸かした。
お湯が沸く合間に生姜をすりおろしていく。手を動かしながらリビングにいるカイルに目をやる。
以前のような自信に溢れたような男前はどこへやら。頬は少しこけて、隈も酷い。体も随分痩せたような気がする。
マグカップにお湯、すった生姜、はちみつを入れる。なんとなくで作った生姜湯だが、体は少しは暖かくなるだろう。
「はい、生姜湯」
「しょうがゆ…?」
「風呂に入らないんだったらこれを飲め」
カイルは少しずつマグカップに口をつけ始めた。
隣に座ってその姿を見つめながら、タオルを持ってくるか、と立ち上がった。立ち上がろうとしたが、今度は後ろから抱きしめられ身動きが取れなくなる。
「…ずっとあいたかった」
「カイル…」
「もう、げんかいだ…っ」
耳元で震えるカイルの息。俺はいつものように突き放すことはできず、カイルの冷たい手に触れた。
「おれは、俺はお前を愛してる…」
「……っ」
「お前がいないと、ダメなんだよ!悪かった…だからもう、あんな風に俺を突き放すな…っ」
ストレートに想いを告げられて戸惑った。
どう返していいかわからないが、息を一度吐いてから口を開く。
「シャムスとはそういう関係じゃなかった。普通に友達になりたかっただけなのに、ああ言われるとすごく腹がたつ」
「…悪かった」
「いいよ、もう…シャムスからは連絡なんてきてないし」
お互いが黙って、重い沈黙が少し続いたあと俺は再び口を開いた。
「あと…正直、今は恋愛のことなんて考える暇はない。明日、明後日どう生活していくのかで精一杯なんだ」
「………」
「出会ったときに暴力振るわれて、レイプされたことは今でも思い出すとつらいし…その後で介抱されたとしても、自分に暴力振るった相手と恋人になるなんて無理だ」
きっぱりと自分の考えを話した。カイルの腕から力が抜けて、力無く垂れ下がる。
俺は後ろを振り返り、カイルに向き直った。
「お前が俺のことが好きなら…その性格を直して、態度を改めて、俺に信用してもらえるように努力しろよ」
「…努力したら、変わったら…俺を愛してくれるのか」
「なったら考えてやる…今の状態じゃ無理だ」
そう告げると、カイルの目に少しだけ光が戻ったような気がする。カイルは額を俺の肩の上に乗せて、小さく呟いた。
「…腹減った」
「そういえば、ちゃんと食べてるのか?最後に何か食ったのはいつだ?」
「覚えてねぇ…」
ーー重症だな。
俺は溜息を吐いて、でかい体を引き離す。
「なんか作ってやるから、お前は風呂に入れ」
「……」
「わかったか?」
「…わーったよ」
その返事が以前のカイルらしくてホッとした。のそのそ浴室に向かう姿を見送って、俺は台所に足を向けた。
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