色のない日々

 何日食べてないのかわからないが、とりあえずたまご粥を作った。普通サイズの土鍋で作ってしまったが、カイルは食べきれるのだろうか。
 机に並べているとカイルが風呂から出てきた。

 カイルは椅子に座り、少しずつ粥を食べていく。途中で無表情のまま泣き出すからギョッとしたが、全部食べ切ってくれた。
 洗い物をしてる時もカイルはジッと俺を見つめていたのか、ずっと視線を感じた。
 ーーこんなカイルはじめてだな。冷たくしすぎたかと少し反省した。
 こんなカイルを帰らせるほど俺は鬼じゃない。2人で狭いベッドで横になった。ギュッとまた後ろから抱きしめられ、しばらく沈黙が続いた。

「っ、カイル?」
「…何もしねぇよ」

 力のない声が耳元で小さく呟く。

「お前がそばに、そばにいてくれるだけでいい…それだけで……」

 暫くしてカイルの寝息が聞こえてきた。
 こんなカイルは初めてで本当にどうしたらいいかわからない。いつもはガラも口も悪くて、常に俺に無理なことばかり言ってきていたのに…弱ると俺様じゃなくなるようだ。
 カイルを起こさないように首を少し動かし顔を見る。
 ーー良かった、顔色がマシになってるな。
 ホッと息を吐いて俺も目を閉じた。俺もお人好しが過ぎるな、そんなことを考えていると静かに意識は沈んでいった。

 *

 ーーそんな奴にもう抱かれるのはごめんだ。もう二度と俺に連絡しないでくれ。

 ーー早く帰ってくれ。ほんとに、迷惑でしかないから。

 あいつの言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。俺が馬鹿みたいに嫉妬して、あんな風に怒るとは思ってなかった。
 今まで適当に女や男と付き合ってきたが、あれほどあいつや、相手の男を憎く思ったことはなかった。薄々気づいてはいた。俺が抱いていた感情が何なのかを。

 仕事に行って家に帰れば、ずっとハジメのことばかり考えてしまう。イライラして物に当たり、無意味に怒鳴って…落ち着けば自己嫌悪に陥る。
 終いにはウィップさんに休めと言われて、無理やり休暇を取らされた。一人で部屋にいるのが1番苦痛なのに、そんなことは言えず地獄のような休暇を過ごした。

 何も食べる気になれなかった。食い物を見るとハジメを思い出してしまう。
 酒を飲んで、煙草を吸って…また酔うまで酒を飲んでそれの繰り返し。人は何も食べずに生きるのは不可能だ。腹が減れば仕方なく適当に買ったパンを食べた。
 味は感じない、だから食べるたび無理やり酒で呑み込んだ。こんな状態の俺に、会うことができないハジメに、あいつと会っている客に…全てに腹が立ってまた破壊衝動に駆られた。

 そんな生活を続けていると、俺は何もする気になれなかった。ウィップさんの連絡にも出ず、座ってぼんやり空を見つめる。
 何日も空腹を感じているのに食べる気にはならないし、酒もうんざりだ。床に転がる空き瓶と食べかす、煙草の吸殻を見て、朦朧とする意識のなかハジメを思い出しながら俺は眠りについた。

 ハジメに会いたい、目が覚めたらその想いでいっぱいになっていた。ふらふら歩きながらアパートを目指す。
 雨で服や体が濡れていることなんか気にならなかった。ただハジメの元を目指して足を動かした。
 部屋についてもハジメは出てこなかった。明かりも付いていない。どこかに出かけているようだった。

 ドアに背をつけて地べたに座り込んだ。空を見つめながら小さく呟く。

「…ハジメ、わるかった。おれはおまえを、あいしてる…ハジメ、わるかった…おれは」

 ブツブツ掠れた声でそう呟き続けた。ハジメに会ったら言う言葉を練習しておかなければならない。いらないことを言ってしまえば、俺はまたハジメを怒らせてしまうだろうから。

「ハジメ…」

 ーーお前がいないと、俺の世界は色がなくなるんだ。


*前 | 次#