突然の連絡

 部屋の掃除をしていると、いきなり誰かから通信がかかってきた。雑巾を置いて慌てて応答する。

「はい、ハジメです」
『ーーっ』
「あの…?」

 息を呑むような音が聞こえたが、相手は全く言葉を発しない。不審に思ったが、しばらくして聞こえた声に俺は目を見開くことになる。

『…俺だ、シャムスだ』
「っ!?しゃ、むす…」
『いきなり連絡してすまない。久しぶりだな』

 あまりの衝撃に雑巾を下に落としてしまう。耳に入ってくる落ち着いた低い声に俺は泣きそうになった。
 少しふらつきながらソファーに座り、俺は口を開いた。

「…もう、二度と話せないと思ってた」
『ハジメ…』
「俺が男娼の仕事してるなんて…軽蔑しただろう?」

 シャムスの衝撃を受けた顔を思い出し、俺は下唇を噛んだ。あの日、俺はもう友人は作れないのだと痛感した。
 なのに、まさかシャムスから連絡がくるなんて。

『軽蔑はしていない。少し…いや、だいぶ驚いたが』
「…ほんとうか?」
『本当だ。俺だって、自分が王太子だと言っていなかっただろう』

 王子と男娼は少し違う気がするが、俺は黙ってシャムスの言葉を受け入れた。あの日と変わらないシャムスの優しさを感じて笑みが溢れる。

「それで、どうして連絡してきたんだ?もう話せないと思っていたから、嬉しいが…」
『ああ。その、もう一度ハジメと会って話したいんだ…あんなことで関係を断ちたくない』
「…俺と会ってくれるのか」

 泣きそうな声を出した俺にシャムスは小さく笑った。

『俺はハジメに会いたいから誘ってるんだ』
「…俺も、シャムスに会いたい」

 *


 俺はいま、何ヶ月かぶりのアネストン王国に来ている。
 シャムスと結構早い時間に待ち合わせをしているから、駅にいる人たちは少ない。

「ーーハジメ!」

 名前を呼ばれて振り返ると、ラフな格好のシャムスが少し駆け足でこちらに来ていた。整った顔立ちは周りに浮いていた。
 シャムスはぎゅっと優しく俺を抱きしめた。一瞬驚いて体を強張らせたが、力を抜いて抱きしめ返す。

「…久しぶりだな」
「あぁ、本当に…」

 久しぶりに会ったシャムスは顎に少し髭を生やして整えていた。金に近いヘーゼルの瞳が笑みで細くなる。
 俺も微笑みをシャムスに返した。

 シャムスに連れられ、アネストンを観光していく。その間、今まで会えなかった分を埋めるようにたくさん会話をした。
 小腹が空いて、シャムスがよくくるというカフェで昼食を取る。

「すごい野菜の量だな」
「ここの野菜は新鮮でかなり美味い。このサンドイッチもスープも肉は少ないが美味いから満足できる」

 柔らかいバンズに鮮やかなレタスと千切りのニンジン、見るからにみずみずしいトマト、薄いハムが挟まっている。かぶりつけばシャキシャキとした食感と野菜の旨味。ほんの少し塩味がするハムと柑橘系のソースの味がめちゃくちゃマッチしていた。
 ん〜っと声を漏らしながら食べていると、シャムスは吹き出すように笑った。

「ハジメは本当にうまそうに食べるな」
「そうか?まぁ…美味しいのは美味しいし」
「そうだな…これも食べてみればいい」

 そう勧められて、ポトフのようなスープも食べてみる。野菜は柔らかくて、スープも出汁がよく効いていた。

「あれから、何か美味いものを食べたときにハジメに教えてやりたいと思っていた」
「俺に?」
「あんたは食に関して興味があるみたいだからな」

 笑みをなくし、切なげにシャムスは目を閉じた。

「あのとき、あの男にああ言われるとハジメはもうアネストンには来てくれないだろうと思っていたんだ」

 だから、会えて嬉しい。そう言ったシャムスに俺は首を振った。

「そんな…あいつはただの客だし、俺がシャムスに会うことには何も問題ない」

 脳裏にかつての弱ったカイルを思い浮かべたが、俺は気にせずシャムスの瞳を見つめた。
 シャムスはホッとしたのか表情を柔らかくして、少し口角を上げた。

「ならよかった…そうだ、この後アネストンで一番有名な寺院に案内しよう」
「寺院って、神官とかがいるところか?」
「ダバルドンでの神官に近いが少し違うな。僧侶がいて、その僧侶たちが毎日綺麗に手入れしている庭園が美しいんだ」

 前の世界の寺と同じらしい。日本庭園を思い浮かべたが、東南アジアに近い文化のアネストンはまた違うんだろう。
 期待を膨らませながら、俺とシャムスは食事を楽しんだ。


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