豪華な夜
ゆったり動く煌びやかで巨大な船の上。その船内にあるムーディーな雰囲気が漂うレストランの1つのテーブルに着いて、俺は緊張しながら料理が運ばれるのを待っていた。
ーー連れていきたい場所がある。
そう言ったシャムスに連れられ、俺は高価そうな服屋で無理やり服を見繕ってもらった。インド人が着るシャルワニ?のような服で紺色の生地に金の刺繍がされてる見るからに高価そうな服だ。
唖然としているとシャムスも同じような服装に着替えていた。シャムスは白の生地に金の刺繍が入ったものだった。褐色の肌に白が良く映えている。
髪も後ろに撫で付けていて、庶民の雰囲気から一気に王族のオーラに変わっていた。あまりにもかっこよすぎて暫く見惚れてしまうほどだった。
そのあとこの豪華な船に乗せられて、冒頭に戻る。
暫くしたら店員の男がやってきて、優雅な無駄のない動きでワインをグラスに注いだ。
「じゃあ…乾杯」
「か、乾杯」
明らかに高いワインを飲むのはかなり緊張する。少しだけ飲んでみて、程よい渋みと甘み、フルーティな香りが今まで飲んできたワインとは全く違うのがわかった。
お互い無言でワインを飲む。気まずい空気ではなく、穏やかな空気が俺たちの間に流れていた。
運ばれてきた料理を食べながら、俺は口を開いた。
「ーーそう言えば、お兄さんとかその…部下の人達とはどうなったんだ?」
「あぁ…」
だいぶ前に、シャムスが兄の政治を手伝うかどうかで揉めていたことを思い出し聞いてみた。
「あの後、自分で考えてみて兄の手伝いをすることにしたんだ」
「そうなのか?」
「ああ。俺は王位継承権を破棄した身だが、王族であることには変わりはないし…王族の俺が国のことを何もしないなんて、国民に示しがつかないとそう思った」
俺だけわがままを言っていられない、シャムスは少し笑いながらそう言った。
あれだけ嫌だと言っていたのに、シャムスの部下の人達が報われてよかったな…俺も笑みを浮かべて、料理を口に運んだ。
「でも、あの農場はどうするんだ?」
「これからも俺の趣味として、あの農場の野菜は育てるつもりだ」
「そうか…よかった」
俺の言葉にシャムスは不思議そうな顔をした。
「よかった?」
「だって、あんだけ大切にしてきた野菜がある農場を破棄するなんて言いだしたらどうしようかと思った」
「それはない!」
ーーでも、ありがとう…ハジメ。そう言ったシャムスの溶けるような笑みに一瞬停止したが、俺も笑みを返した。
*
いい感じに腹も膨れて、アルコールも回ってきた。
気持ちいい感覚に少し熱い息を吐き出す。すると、酒のせいか少し顔を赤くしたシャムスが俯きながらポツリと声を発した。
「ーーあんたは、俺が軽蔑したかどうかを聞いてきただろう」
「ん、ああ…俺の仕事を知って軽蔑したかどうかか?」
「あぁ…本当に俺は軽蔑していない。むしろ軽蔑されるのは俺だ」
ーー軽蔑されるのは俺?シャムスの言葉に俺は首をかしげる。シャムスのどこに軽蔑する部分があるんだろうか。優しくて、俺より年下なのにしっかりしているし…俺がそう伝えると、そうじゃないと首を振られた。
「俺はハジメの夢を見た」
「俺の、夢…?」
「あんたを抱いてる夢だ」
思わず飲んでる酒を噴き出しそうになるが、何とか堪えた。
シャムスはそんな俺を気にもせず、俯いたまま続ける。
「俺は女も抱いたことがないのに、夢の中であんたに欲情して…あんなこと初めてだった」
「ち、ちょっと待て…その俺で、む、夢精した…のか?というか、童貞なのか?」
「そうだ。俺は経験もないのに…あんたで夢精した。一度だけじゃない、何度もハジメで射精したんだ」
驚くような情報が多すぎて俺は開いた口が塞がらない。まさか、こんなイケメンが童貞で…しかも俺なんかで夢精?ありえないだろう。
シャムスはゆっくり顔を上げて俺を見つめた。
「あんたが男娼だなんて、知らなければよかった」
「しゃむ、す…っ」
「今だってあんたを抱きたくて、どうしようもなくなる」
俺を見つめるその顔は、色気がダダ漏れで正直ドキッとしてしまう。農作業で少し荒れた、熱い指先が俺の唇に触れた。
酔っ払っているからか、俺は正常な判断が難しい。今は目の前の、この年下の男が可愛く見えて仕方ない。
「っ、ハジメ?」
シャムスの手を掴み、指先に自ら口付けた。何度も吸い付き、時折口に含み舌で舐る。
「シャムスが後悔しないなら…俺は、してもいい」
「…っ」
俺もシャムスも酔っ払っている。だから…だから、これは仕方ないんだ。
ーー熱い脳内で俺はそんな言い訳を繰り返した。
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