ガレスと王都デート

 ガレスさんと王都を歩く当日。俺は待ち合わせ場所の大きな時計台の下にいた。

 ーーほんと、スラムの人達とは違うんだな。道行く人達はみんな小綺麗な服装をしていてそう思った。俺は一応ちゃんとした服装できたつもりだが、大丈夫だろうか。

「ーーすまない、待たせたか」
「ガレスさん」

 ガレスさんの声が聞こえ、俺は背後を振り向いた。
 ガレスさんは真っ白のワイシャツに、足首が少し見えるほどの丈で、ネイビー色のスラックスを履いていた。ガチガチの軍服を着ているところしか見たことがないから少し驚いてしまう。

「なんだ、私の顔に何かついているのか?」
「いえ、なんでもないです」

 ガン見しすぎたのか、すごく怪訝そうな顔をされた。かっこよくて見惚れてました…なんて言えるわけない。

 *

 王都の中心部から少し外れたところを歩いていると広場に出た。そこには綺麗な花と木がたくさん植えてあり、中央には大きな噴水があった。

「なんか…すごくいいですね、ここ」
「そうだろう。時間があるときは仕事の合間にここで昼食を取ったりしているんだ」

 ベンチに座り、俺たちは2人で周りを見回した。
 キラキラ光る噴水に色鮮やかな花々。家族連れや、子供達、老人夫婦などがゆっくりしていてのどかな風景がそこにはあった。

「お兄さん達、クッキーはいりませんか?」

 ボーっとしていると小さな女の子がカゴいっぱいに入ったクッキーを売りに来た。クッキーは丁寧に袋に入れられ、可愛くラッピングされている。

「…じゃあ2つもらおうか」
「ほんと?ありがとう、お兄さん!」
「ああ」

 ガレスさんは値段より多くデーロを支払って、クッキーを受け取った。温かい気持ちになりながら、俺もお礼を言ってクッキーを受け取る。
 だいの大人2人が可愛いクッキーを食べるのは気持ち悪いが、これは仕方ないだろう。

「…なかなか個性的な味だな」
「そう、ですね…」

 そのクッキーは何というか、個性的というか…味があまりなく、少し硬めのクッキーだった。俺は気にせず食べることにしたが、騎士様は大丈夫なのだろうか。
 ガレスさんを見たが一瞬顔を顰めただけで、食べることをやめなかった。ガレスさんは残すんじゃないだろうか、そう思っていたから意外だった。
 ーーやっぱりガレスさんはいい人だよな…。俺は無意識に少し頬が緩んだ。

「近くに騎士団の詰所があるんだ」
「そうなんですか?」
「中には入らせることはできないが、後で見せてやろう」

 そのあと、暫くしてから詰所に連れて行ってもらった。思っていた以上に建物と塀が大きく、壁に歴史を感じた。
 ガレスさんは第一騎士団に所属しているらしく、第一騎士団の詰所は王城に近い場所に設置されているみたいだ。

「ーーあれ、ガレス団長補佐官?」

 いきなり背後から声をかけられ、振り返ればガレスさんと同じ歳か、少し年下そうな男が立っていた。襟足が少し長くてどこか軽薄そうな印象だ。

「…何故貴様がここにいる?職務はどうした」
「いやいや!そんな睨まないでくださいよ〜!わざわざ王城に書類届けに行って戻ってきたんですから」

 ガレスさんはどうやら男の上司らしい。俺は気配を出来るだけ消しながら2人を眺めていた。

「てか、ガレス団長補佐官のご友人ですか?俺はタクト・オルコットっていいます」
「はぁ…ハジメです」
「ハジメさんかぁ〜!あ、俺のことはタクトって呼んでくださいね?」

 よろしくお願いします、と差し出された手を戸惑いながらも握り返す。タクトってかなり日本人っぽい名前だな。なんとなくそう思っているとタクトくんが口を開いた。

「俺、じいちゃんから名前つけてもらったんですけど。先代の神子から名前もらったらしくて、孫にはタクトってつける気だったみたいで」
「先代の神子ですか…」
「そうそう!ってか、敬語やめてくださいよ。あんま歳変わらないですよね?20歳ぐらい?」

 …若い子はこんな怒涛の勢いで話してくるんだったか?シャムスも若いがここまでではない。いや、シャムスは落ち着きすぎているのか?
 会話の早さに驚きながらも、若すぎる年齢を否定した。

「あー俺は20歳じゃなくて29歳で…まあ、来年に30歳になるよ」
「え…マジですか?」
「それは本当か?」

 タクトくんだけじゃなく、ガレスさんもびっくりしていた。そんな若く見えるんだろうか。俺は頬から顎を撫でながら自分の肌を確かめた。ガレスさんには以前、俺の歳を話したような気がするが…まあいいか。

「まあ、それはいいとして…オルコット、はやく詰所に戻って報告してこい」
「えー?まだ大丈夫ですよ。そうだ、ハジメさん今度ご飯行きません?」

 ガレスさんを軽く流し、タクトくんは人好きされそうな笑顔を俺に向けてきた。対照的に、後ろに見える上司の顔はどんどん険しくなっている。

「俺黒髪の人タイプで、ハジメさんと仲良くなりたいんですよね…ダメですか?」
「え、いや…」
「ダメに決まってるだろう」

 ガレスさんは俺の肩を引き寄せきっぱり言い切った。驚いてガレスさんを見上げる。

「ハジメさんと団長補佐官って…マジですか?」
「いいから戻れ、団長に報告されたくないだろう」
「はぁ…わかりましたよ。じゃあね、ハジメさん」

 肩を落として塀の中に入っていくタクトくんを見送った。俺は肩を抱かれたままで、どこか気まずい気持ちでいた。

「あの…肩離してもらってもいいですか?」
「っあ、ああ…」

 ガレスさんはまた顔を赤くしていて、俺は何とも言えない気持ちになった。
 ーーなんだろうか、この甘酸っぱい空気は。


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