ガレスと王都デート(2)
辺りが薄暗くなったころ、俺たちは早めに晩御飯を食べることになった。ガレスさんに案内されて向かったのは、細い路地にある隠れ家的雰囲気の洋食屋。
ピアノの生演奏がかかっていて、すごく雰囲気のいいお店だ。シャムスと行ったレストランほど高級なではないだろうが、そこそこ値段が高そうな感じがした。
「ここは私が小さい頃から家族で来ていた店で、今も1人でよく来ているんだ」
「行きつけのお店なんですね。雰囲気もよくてすごく居心地がいいです」
「そうだろう。食事をしなくてもここで酒を飲んでゆっくりしている」
テーブルに置いてあるランプが優しくガレスさんの顔を照らしている。出会ったときからは想像もできないほど優しい表情で、俺は少し戸惑った。
ローストビーフのような薄くスライスされた肉と、野菜のポタージュ、薫製されたチーズが出てきた。味は意外と美味しくて、ここの料理人はもしかしたら他国の人なのかもしれない。
「ここの料理人さんはダバルドンの方なんですか?」
「いや、この国出身ではない。もう少し北にある国の生まれでそこで料理を学んだらしい」
「へー…アネストン以外にもご飯が美味しいところがあるんだな…」
北欧料理のようなものが主流なのかな?と、出された料理を見ながら異国の料理に想いを馳せた。そんな俺を見てガレスさんは少し噴き出すように笑った。
「ハジメは本当に料理が好きなのだな」
「好きですけど…何かおかしいですか?」
「おかしくはないが、可愛らしいと思ってな」
か、可愛らしい……?アラサー男には相応しくない言葉すぎる。文句を言おうとしたが、アイスブルーの瞳が優しい眼差しで見つめてきて俺は口を閉じた。
ーー調子狂うな…。気まずさを誤魔化すためにワインに口をつけた。
*
店を出て、町の方に行くと人で賑わっていた。外は暗いのに珍しい。
「今日は何かあるんですか?人が多いですけど…」
「あぁ、そういえば今日は祭りがある日だったな」
「祭り?」
ガレスさんは港の方を指差してそう言った。
「ランタンを空に飛ばすんだ。昔、大きな戦争があったんだが、そこで亡くなった兵士や国民の魂の鎮魂の意味を込めて毎年行われている」
「そうなんですか…綺麗そうですね」
前の世界でもあったなぁ…と思っていると、ガレスさんは俺の手をそっと掴んだ。
「行ってみるか?少し遠いが馬車に乗ればすぐに着く」
「え、いや…いいんですか?」
「見たことがないのなら一度は見てみるべきだ」
見たかった気持ちがないのかと言われると嘘になるし、俺は頷いて祭りに参加することにした。
川辺に近づけば多くの小舟と人で溢れていた。皆手にはランタンを持っていてどうやら火をつける前のようだ。俺とガレスさんも小舟を借りて、ランタンと中に入れる蝋燭をもらった。
ガレスさんが舟を漕いでくれて少しスペースが空いている場所まで連れて行ってくれた。
「もうすぐだな…ハジメ、蝋燭をかしてくれ」
どうぞ、そう俺はガレスさんに蝋燭を渡せば、慣れた手つきでマッチを擦り火をつけた。小さな光を灯したそれをランタンの中に入れる。中に蝋燭を置く小さい取手のようなものがあるのが見えた。
暖かみのある暖色のランタンにほっこりしてしまう。
ランタンを放すまであと少し。暗闇の中にポツポツランタンが光出して、辺りは幻想的な空気に包まれていた。
ランタンの灯りに照らされたガレスさんはまるで、絵本や海外映画に出てくるような王子様のようで見惚れてしまう。いったい俺は、今日何度ガレスさんに見惚れているのだろうか。
俺が見ていることに気づいたのか、ガレスさんもこちらを見つめ返してきた。冷たい瞳が揺れているように感じた。
「…どうした?」
「ほんとに、綺麗だなって」
「ふっ、いきなりなんだ」
おかしな奴だな貴様は、そう言ってガレスさんは少し笑った。久しぶりに貴様と言われてちょっと笑ってしまう。
「ハジメのほうが綺麗だろう」
「え…?」
その言葉を聞いたときに、カウントダウンが始まった。いつもなら受け流す言葉なのに何故か今日は恥ずかしく感じてしまう。少し動揺をしているうちに時間が来て、皆一斉にランタンを空に放した。
ガレスさんもそっと空に放し、2人でその様子を見守る。夜空いっぱいに光があるのはこの世のものとは思えないほど、美しかった。
ーーこの時間が続けばいいのに。
柄にもなくそんなことを思った俺は、ずいぶんこの世界に毒されているのかもしれない。
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