ハジメの気持ち

 翌朝、重い腰を摩りながら起床した。ガレスさんは広い庭で剣の素振りをしていて、眺めている俺に気がついたのか手を止めた。

「おはよう、よく寝ていたな」
「まあ、寝るのが遅かったので…おはようございます」

 ガレスさんは手拭いで汗を拭き室内に入ってきた。

「朝食を作ってくれ、久しぶりにハジメの料理が食べたい」

 昨日あんな事を言った男はずいぶん平然とした態度で接してきた。気を張っていた俺はその様子に拍子抜けした。少し息を吐いてそのお願いを受け入れる。

 綺麗な厨房に案内され手入れされている器具を取り出す。保存庫の中には卵や野菜が入っていたから、簡単な野菜オムレツとスープを作ることにした。
 ほうれん草っぽい野菜を下茹でし溶いた卵と混ぜ合わせる。熱々の薄いフライパンにそれを入れ手早くかき混ぜ丸めていく。
 オムレツは苦手だったがなんとか綺麗に作ることができた。あとは残り物の野菜と牛乳を煮てコンソメらしき匂いのする粉を入れ、クリームスープを作った。

 テラスで優雅に紅茶を飲んでいる男に出来上がった料理を差し出した。料理を見た瞬間盛大にお腹を鳴らしたガレスさんが面白くて思わず笑ってしまう。

「笑うな」
「いや、笑わないとか無理でしょう…っ」

 俺が笑っているうちに、ガレスさんは不機嫌そうな顔をしながらもどんどん料理を平らげていく。体を動かしたからお腹が空いていたのかもしれない。
 俺も少しにやけながらオムレツを一口食べる。ふわとろな卵は罪深い味がして本当に美味しい。チーズ入れてもよかったな、そう考えていると和かな使用人さんが紅茶を注ぎ足してくれた。
 お礼を言っていると食べ終わったガレスさんがこちらを見てきた。

「おい、これを追加でもっとつくれ」
「…もうおかわりですか?」
「こんな量では足りん」

 少し不機嫌そうなのはさっき揶揄ったからだろうか。仕方なく頷き、追加で作るために食べるスピードを早めた。
 意外と大食いのガレスさんが一回のおかわりで済むわけもなく、何回もおかわりを要求してきた。卵の食べ過ぎは良くないと止めたが、結局ガレスさんは満足するまでオムレツを楽しんでいた。


 *



 家に帰り、ソファーにもたれかかるように腰掛けた。帰り際に手渡された写真は昨夜の祭りの時のものだ。楽しげな俺とガレスさんを見て、セックス中のガレスさんの言葉を思い出した。
 俺は気まずい気持ちで口を開く。

『昨日のことなんですけど、俺いまは恋人を作るとか考えてなくて…』
『わかっている。私はそんな急かしていないと言っただろう、答えが出るまでいつまでも待つ』

 真剣な顔でそう告げガレスさんは帰っていった。


 悩むのはガレスさんのことだけではない。




『おれは、俺はお前を愛してる…』

 かつて言われた、カイルの言葉が頭を過ぎる。やつれながら俺に縋り付いてきた男を思い出し何度目かの溜息を吐いた。


 今まで仕事が仕事だから色んな男に抱かれてきた。カイルは毎回律儀にお金を払ったが、昨日のガレスさんや、シャムスにはお金を請求していない。
 しかし、カイルが金を払わなくても2人と同じ様に、俺は特に何も言わないだろう。

 この世界にきてバイセクシャルになったが、落ち着いた仕事に就くまで恋愛も何もする気はなかった。カイルに言ったようにそこまでプライベートに時間をかける余裕がなかったからだ。

 でも、今の俺はシャムスやガレスさんとデート紛いのことをして楽しんでいる。最近カイルとは会っていないが、遊びに誘われれば行ってしまう気がする。


「…30手前のおっさんが何やってんだか」

 若い同性の男達の気持ちを弄び、馬鹿みたいに楽しくなってる自分が情けない。同性相手で好意を寄せられて気持ち悪いなんて思わない。むしろこんな俺を気に入ってくれているのが嬉しいからこそこういう行動をとっているのだ。

 側から見たら痛々しい自分の行動に嫌気が差した。
 正直、俺は誰が1番好きだとか全く考えてなかったし、それを今は決めることはできない。

 ガレスさんにいつでもいいと言われたが、長く待たせてしまうのはどうなのか…俺を好きだという2人の顔と、何故かシャムスを思い出し溜息を吐いた。


 ーーこれからは少し考えて行動しなければいけないな…

 嫌いじゃないからといい加減なことをしていたら周りを傷つけてしまうだろう。


 …何故いきなりこんなモテ期が到来したのか理解できない。俺は地味な見た目で相手はイケメンの男、どう考えてもおかしい。


 グルグルと恋愛のことを考えるなんて学生の頃ぶりで、頭痛がしてきた。何とか叫びたい衝動を抑え、俺は台所に向かい食料を確認する。


 ーー野菜少し足りない、肉はないし、米もあと少し…


「…よし、買い出し行くか」


 とりあえず無になるために俺はいつも通り趣味の料理を作ることにした。全く家には食材がないため買い出しが必要だ。
 やる気のない足取りで服を着替え支度をする。

 憂鬱な気持ちのまま、トートバッグを持ち俺は街に出かけた。



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