天才魔導師さまのお仕事

「ん〜おいしーい!」
「行儀悪いから服着ろよ」
「いいじゃないか、ハジメしか見てないんだから」

 朝からほぼ裸の状態でカップケーキを食べ、ハジメに呆れられている男はダバルドン王国の数少ない王宮魔導師長である。夜に実験台であるハジメとセックスをして、次の日の朝にハジメお手製のお菓子を食べるのがレイトンはだいぶ気に入っていた。

「あーぁ、もうなくなっちゃったよ」
「あと数個焼けるくらいは生地余ってるから焼こうか?仕事に持っていけばいい」
「ハジメ〜!ありがとう!」

 レイトンは甘い匂いが漂うキッチンに向かいハジメを後ろから抱きしめる。レイトンより幾分か小柄なハジメはすっぽり腕の中に囚われてしまい、迷惑そうに叱言を吐いた。
 焼きあがったカップケーキを保存容器に入れてもらい、レイトンはいつも通り大目にお金をハジメに払った。最初戸惑っていたハジメもなれた様にそれを受け取り共にレイトンの家を出た。

 *

 この日、レイトンがするまず最初の仕事は国中に張られた結界の点検である。魔導師長が担当を振り分けられ、それぞれの地域に向かい何か異常が起こっていないか確認しに行くのだ。
 結界が古くなっていたり、結界に穴が空いていたら魔法円を書き換えなければならないレイトンの嫌いな作業の一つである。
 この日レイトンが担当する区域の結界は何も異常はなかったため、レイトンが率いる魔導師たちはすぐに王宮に帰った。

 次の仕事は魔導師育成所である、国立魔法学校での講義だ。難易度が高い魔法について詳しく話し実践して見せるのが今回の講義で、同じ魔導師長である同僚が説明をしレイトンは魔法を見せる係であった。レイトンは子供が嫌いなため、これはあまり好きではない仕事だった。そして講義中、レイトンが煩い生徒に対して魔法で脅しをかけてしまい、こっ酷く同僚に叱られたのは言うまでもない。



 そして、最後にしなければならない仕事はレイトンが1番嫌っている王宮会議に出席することである。
 国の役職持ちが全員あつまり、国王の前でそれぞれ報告し問題があれば解決策がでるまで全然で話し合う。その会議はレイトンにとってかなり長く退屈なもので、その日レイトンは暇つぶしのために今朝もらったカップケーキを食べるつもりでいた。

「ーー以上が今回の予算案です」

 財務大臣である初老の男がそう言って席についた。黙って聞いていた国王はその書類を見て口を開く。

「今月は神子と隣国を回る国務の予定があるのだが、少し多めに予算を出してくれないか」
「…先程提示した国務予算の見積もりで足りるはずですが、何か理由があるのですか」
「神子は普段神殿や王宮内でしか生活できていないだろう?隣国にせっかく行くのだから少しは自由にさせてやりたい」

 ーーいったい幾ら使うつもり?
 レイトンはカップケーキを齧りながら小さく鼻で笑った。国務予算は多く見積もられているのにまだ足りないという国王はやはり神子に惚れ込んでいた。
 王宮騎士団の団長と団長補佐達は国王の発言に眉を顰めている。中でも第一騎士団、団長補佐の1人である銀髪の男は特に眉間にシワがよっていた。
 レイトンはそれを見て笑いそうになったが何とか抑えた。結局、国王の要望通り予算の見積もりがされることとなり空気は先程より重くなってしまった。
 隣に座っている同じ魔導師長である男が立ち上がり、魔法局の報告を始める。

「魔法局からですが、本日南部地方で結界に異常が見られました」
「え、本当に?」

 レイトンは驚いて同僚を見上げる。その同僚は慌てたように資料をみろ!と小声で怒鳴ってきた。
 手元にある資料を読めば、どうやらスラム街の付近で結界の一部に穴が空いていたようだ。

「しかし、新しく魔法円を書き換えましたので問題はありません。次の報告ですがーー」

 同僚の声を聞きながら資料の紙をめくる。あるページに書かれている異常があった魔法円の図式と結界の穴を見てレイトンは首を傾げた。その違和感がなんなのかわからないが気になって仕方がなかった。

 長い会議が終わり、さっそく違和感を解消するためレイトンは部下を連れてスラムに向かうことにした。

 *


「ふーん…なるほどねぇ」

 レイトンは問題があった魔法円を眺めて頷いた。同僚は気づいていないようだが、この崩れた魔法円の図式にレイトンは見覚えがあった。似たような魔法円をだいぶ前に見たことがあるからだ。

 ーー神子が来たときとほぼ同じだ。
 レイトンは唇を触りながら小さく呟いた。神子が現れたときも結界の魔法円に書かれた図式は同じように乱れていたのだ。
 神子が現れたとき結界の穴から時空の歪みが生まれ、その歪みは国王の部屋に繋がっていた。そこから神子が異世界からやってきたのだ。
 レイトンはこの結界の穴からも時空の歪みが発生したであろうと推測した。

「で、では神子様以外にも異世界からこちらに来てる人がおられるかもしれないのですか!?」
「んー…恐らくね。でもこの痕跡見れば、2、3年前っぽいからだいぶ時間経っちゃってるし…」

 時空が歪んだところを探すの大変だよ、と続けたレイトンに部下はそうですねと肩を落とした。レイトンは他の部下を追加で呼び出し、スラムとその付近をくまなく捜索した。

 日も落ち不穏な空気が流れている路地に入り、ようやくレイトンは時空の歪みが生じた場所を見つけた。そこには僅かにその人物が持つ魔核の匂いが残っていた。
 レイトンの読み通り、2年前に誰かが異世界からこちらに来ていたのだ。

「あれ…この匂い…」
「レイトン様どうかされましたか?」

 残っていた匂いは嗅いだことのある魔核の匂いだった。鼻を少しひくつかせながら記憶の中を辿る。

 ーーあぁ、思い出した

 同じ魔核の匂いを持つ人物を思い出し、レイトンは目を見開いた。その匂いの主はレイトンが昨夜も今朝も共に過ごしていた人物だった。

「レイトン様、糖分を摂取することは大事ですが取りすぎもダメですからね」
「…へーえ、そうなんだ」
「真面目に僕は言ってるんですよ!?」

 保存容器からカップケーキを取り出し鼻を近づける。そんなレイトンに部下は叱言を並べているが、全く本人には聞こえていない。


「ふふっ、ハジメだったのかぁ」


ほんの僅かに香るそれにレイトンは目を細め、笑みを浮かべた。




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