太客名簿@ザブール(3)
地獄のようなセックスの後はザブールに食べさせるごはん作りだ。買い出しに行く前にベッドで幸せそうに微睡んでいる巨漢に近づいて、耳元で声をかける。
「ザブール、ごはんは何がいい?」
「肉!」
「…わかったよ、肉だな」
予想通りすぎる答えにため息を吐いて、買い出しの支度をする。財布の中にザブールから買い出し用に貰ったたっぷりのお金を詰め、早足で市場に向かった。
*
肉が売ってある店に行く前にある匂いが鼻をついた。前の世界で嗅ぎ慣れた匂いがして、誘われるようにそこに向かう。
「…スパイスだ」
胡椒はもちろん、その他にクミンやらカルダモンやらすごい種類の香辛料が袋詰めで売られていた。
ーーカレー作りたいな。ふとそう思った俺は店主に指示して数十種類の香辛料を小袋に詰めて貰った。
びっくりするほど値段が安くて、店主に聞けば、どうやらこの世界では余り香辛料は料理に使われないらしい。使うとしても肉の臭みを取るくらいで、他の料理には使わないんだとか……勿体無さすぎる、カレーという神の食べ物があるのに。他にもたくさんあるのに…本当に勿体無い。
俺はホクホクした気持ちで野菜売り場に行き、はたと気がついた。
…そうだ、ザブールは野菜嫌いなんだった。
仕方なく道を引き返し肉売り場に向かう。もうカレーが食べれるなら、肉だけカレーでもいいだろう。ゴロゴロした牛肉をとろとろに煮込んでやるだけでも十分美味しい。
*
ザブールの家に帰れば、ザブールは仕事中らしく俺には目もくれなかった。俺はさっさと台所に向かい、市場で買った小さめのすり鉢でスパイス作りに取り掛かる。
時折くしゃみをしながら、なんとか粉状に細かくできることが出来た。弱火でじっくり煎ればカレー粉の完成だ。俺の好みでちょっと辛めにしてある。
そこからは牛肉を下処理し、前の世界で作った通りにカレーを作っている。既にスパイスのいい香りがしてうっとり目を細めた。
弱火で鍋を火にかけたまま、この前買った白米を使ってライスを準備する。ターメリックライスとかあるけど、それはまた個人で楽しむように作ろう。
この世界では炊飯器なんかないけど、土鍋はあるからそれで美味しく炊くことができる。最初は炊くのに何度か失敗したが、今ではだいぶ慣れたもんだ。
ちょっと硬めになるように水入れて火にかける。
これであとはできるのを待つだけだ。台所から離れて、リビングのソファーに座り俺はスケジュールの整理でもするかと手帳を取り出した。
*
「……何だァ、こりゃあ」
「カレーライスだ、すっっごい美味しいぞ?」
「…これ食べれんのかよォ」
艶々輝く大盛りのライスにどろっとしたルーがかかっている。スパイスの香りと牛肉の香りが漂って、涎が垂れそうな勢いなのにザブールは怪訝そうな顔で皿を見つめていた。
「美味しいから食べてみろよ」
「………」
恐る恐るスプーンを口に入れ、ザブールは目を見開いた。
「うんまいなこれェ!泥みてェなのによォ!」
汗を額に滲ませながらバクバク口に運んでいく。
そうだろう美味いだろう、そう得意げになりながら俺も一口食べる。
ーー美味すぎる…!!
煮こんだ牛肉はほろほろして、溶けるようになくなった。ルーのスパイスの香りが鼻腔を通っていき、後から来るピリピリした刺激を舌で感じた。辛さで汗が額に滲む。でも、その辛さを中和してくれるのがご飯だ。まさに最高の組み合わせ。
久しぶりのカレーだからか、泣きそうなくらいの幸せを感じる。ハフハフ息を吐き、熱々のカレーをまた一口、一口とスプーンを運んで味わっていく。
食べながら、ふとザブールを見てギョッとした。
「おまっ、入れすぎだろう?!」
「うめえからよォ、大盛りで入れてやったぜ」
「ばかっ!俺の分がなくなるだろ!」
ゆっくりなんて食ってられん!
俺はガツガツカレーを食っていくが、早食いでザブールに勝てるわけがなく、結局2杯しか食べれなかったのは言うまでもない。
家で絶対作ってやる、空っぽの鍋を見て俺はそう誓った。
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