騎士のガレスと牛丼
ザブールの家の前に人が倒れている。
2日連続、過酷なセックス&ストレスのせいで幻覚でも見えてるのかと思っていたが、目を擦って何度見てもうつ伏せで倒れている。
かなりいい身分なのは、着ている純白の軍服で理解した。アタフタしていると、ザブールが家から出てきた。
「なぁーにやってんだァ?帰るんじゃねェのかよォ」
「帰るけど…人が倒れてるんだ」
「んなもん、ほっとけや…あァ?こいつ騎士だなァ」
どうでも良さげだったザブールの表情が一気に凶悪な笑みに変わる。何をするつもりなんだ…悪い予感がする。
「……おォ!やっぱ持ってんなァ!」
「なっ、ダメだろ!勝手に金取るのは…」
「いいんだよォ、こんなとこで寝腐ってるこいつが悪りィんだ」
「……最低だ」
男の懐を漁り、財布の中身を全部取っていくザブール。信じられない行動にドン引きするがスラムほどじゃないにしろ、治安の悪いここで倒れている男も…悪い、のか?特にザブールの家の前で倒れているのはダメだ。
機嫌のいいザブールは俺にだいぶ深めのキスをして、家に帰って行った。びちょびちょの口周りを袖で拭い、下に視線をやる。
「……どうしたらいいんだよ、これ」
*
結局、俺はあの男を家まで運んだ。重い男を何度か落としながらもなんとか家まで運ぶことができた。もう、自分のお人好し加減にも呆れてしまう。だってかわいそうじゃないか、ザブールに金を盗まれて…正直、見て見ぬ振りをした罪悪感もある。
軍服だけ脱がせて、シャツと下着姿にする。男は銀髪で、肌も白く、カイル以上の男前なのが眠ってる顔だけでもわかった。狭いベッドに寝かせて、台所に向かう。
食材を見れば、白米、牛肉、玉ねぎ…しかない。買い物をするのを忘れていたことを思い出し、溜息を吐いた。
「買いに行くのも面倒だな…牛丼にするか」
久しぶりに牛丼を作ることにした。サラリーマン時代はよく仕事の合間によく食いに行っていた。懐かしさを感じながら白米を炊いて、その間に牛肉と玉ねぎを鍋に入れて水、醤油、酒、生姜などをいれて煮込む。
あんまり家でも作っていなかったから、うまく作れるかわからないが食べれないことはないだろう。
それらが出来上がる間に、部屋の掃除でもするかとリビングに戻った。
*
「ーー貴様、ここはどこか答えろ!」
「……俺の家です」
「なぜ私は貴様の家にいるんだ!」
「…貴方が倒れていたから、わざわざ運んであげたんです」
目を覚ました男に俺は詰問されている。
シャツと下着姿で怒鳴る男はなんとも、まあ間抜けだ。顔は鬼のような形相しているけど。
めんどくさい事態にうんざりしてしまう。…何で俺には面倒臭いイケメンとこんなに縁があるのか。
溜息を吐いたその時、地響きのような音が聞こえた。すると男は立ち眩んだように、下にしゃがみこむ。
「ちょっ、大丈夫か?!」
「……は、腹が減った」
「……腹?」
男は腹をさすりながら、顔をしかめる。
「昨日も昼から何も食っていなかったのだ。午後の見回り中意識が無くなり、気づいたらここに…」
「…あんたもしかして、腹が減りすぎて倒れてたのか?」
「わからんが、極度の空腹を感じたのは覚えている」
…いや、何かしら屋台で買って食えよ。
何で倒れるまで我慢するんだ?俺は呆れながら、男を支えて椅子に座らせる。
丁度牛丼も出来たところだ。男に食わせてやるか、俺は丼に並盛りサイズで2つ牛丼を装った。生姜と甘辛いタレの匂いがして俺もお腹が空いてくる。
箸で食べ難いかと思って、スプーンと一緒に差し出した。
案の定、怪訝そうな顔で丼を見つめる男。
「……何だこれは」
「牛丼ですよ、牛丼。B級グルメの1つです」
「びーきゅう…?何だそれは」
「…俺の故郷の料理ですよ」
未だに不思議そうな男は放っておいて、俺は牛丼に口をつける。
…うん、まあ、いいんじゃないか?久しぶりに作った割には上手くできてる。でも生姜もっと入れればよかったか…いや、それより紅生姜が欲しいな。
俺は噛み締めながら考えていると、男がスプーンを使い牛丼を食べるのが見えた。
「…っ!?」
「どうですか?」
「っ、庶民の料理にしては食えんこともない」
なんて言いながら、ガツガツ食ってる男に苦笑いしかできない。庶民の料理て…確かに庶民の料理だけども。
男を横目に、俺も食べることに専念することにした。トッピングで卵を入れていれば、男も欲しそうにしていたからかけてやった。
…やっぱりトッピングに卵は最高だな、うん。
男も美味しそう食べていたから、口には合ったんじゃないだろうか。
*
「…デジャブだ、デジャブ」
前にも見たことのある空っぽの土鍋と、鍋を見て俺は頬が引きつった。多めに作ったはずなのに、やはりこの世界の男は規格外すぎる。
「悪くはなかったぞ?」
「…そりゃ、よかった」
「宝石でも何でもくれてやりたいところだが、生憎金しかないのでな。現金で我慢してくれ」
あっ、と思った瞬間俺は朝の出来事を思い出した。財布を取り出した男は中身を見てギョッとしていた。
「金がない?!」
「……」
「まさか…」
「いや、取ってないですよ」
男は一度咳をして、フンッと鼻を鳴らした。
「治安の悪さには驚かされるな…金は今度渡しに来る」
「いいですよ、大したことしてないし」
「貴様もこんな狭い部屋は嫌だろう?遠慮はするな」
「いや、別に…一人暮らしですし」
男は信じられない物を見るような顔をしてから、口を開いた。
「私は借りを作らない主義だ、名前を教えろ」
「…ハジメ、です」
「ハジメか、私はガレス。また後日金を届けにくる」
「いや、だから…」
まだ渋る俺に、ガレスさんはしつこい!と怒鳴り声をあげた。
「私は仕事がある。また後日来るから、ちゃんと覚えておけ」
そう言って出ていったガレスさんに、俺は何度目かの溜息を吐いた。
…はっきり言って、もう会いたくない。
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