真実と決断
「ーーカイル、本当にお前は父親にそっくりだな」
「…何が言いたい」
ウィップさんは俺の顎を掴み、殴られて腫れた顔を無表情で見つめている。カイルと話しているのにそちらには目を向けない。
「お前の父親も家族を危険な目に合わせたくない、守りたいだのなんだの言っていた。馬鹿な男だった、あの男も」
「なに、言って…」
「黙って商品を売ってれは貴族になれるというのに、女ができて子供ができたら辞めたい?ふざけたことを言うなという話だよ」
カイルの両親の話は知らないが、父親のことを言っているのだろうか。動揺しているカイルと平然と話を続けるウィップさん。なんだか妙な空気になってきた。
「お前も私のいうことを聞いて仕事をこなしてきたと言うのに…あの男と同じで大切なものができたから、変わりたいから辞めたいだと?」
「あんた…まさか、親父に仕事を…っ」
ウィップさんは穏やかな笑みを浮かべてカイルの方を見た。
「そうだ、私はお前の父親に仕事を与えていた。ふざけたことを言っていたあいつやその妻も殺したのは私だよ?」
ーーまさかあいつの子供が逃げて生きていたとは、お前に会うまで知らなかったがな。
カイルはその言葉を聞いて獣のような唸り声を上げた。涙もずっと流し続けていて、その表情はすごく痛々しい。
「おれは、おれは…なんてことをしたんだ…っ」
「あいつはまっとうに生きようとしていたのに、お前は自ら私のもとで働きにきた。まさか息子が自分と同じようになるとは思っていなかっただろう」
「親父…すまねぇ、おやじぃ…っ」
「本当に滑稽だよ、お前たち親子は」
ははは、と笑う男が恐ろしい。俺は荒い呼吸をしながらその場を見ていることしかできなかった。
体がどんどん熱くなって、痛みなのか熱なのか分からなくなってくる。
「さて、もう一度カイルに聞こう…仕事はしてくれるだろう?」
俯くカイルを俺はじっと見つめて何とか声を出した。
「だ、めだ…かいる、うなずいちゃ…だめだ」
「ハジメ…っ」
ウィップさんは苛立ったように俺の腹に蹴りを入れた。蹲って咳き込むが、緩く首を振ってだめだと何度もカイルに言った。
「そんな仕事…するわけねぇだろ」
「…そうか、残念だが仕方ない」
その言葉を聞いた男達の1人がウィップさんに大きな鞄を渡した。その中に入っていたのは青い透明な液体だった。
それを見たカイルは顔色を変えた。
「まさか…っ、やめろ!」
「この男を薬漬けにしてやろう、たっぷりあるから全部使ってやるさ」
ーーお前が喜んで売っていたブルームーンだ。
ウィップさんは楽しげに注射器を見つめる。注射器の中のそれは怪しく光っているように見えた。
「そのまま溶かしただけだから、濃度は高くてよく効くだろう…何発キメれば人は死ぬのか試してみようじゃないか」
「おい…やめてくれ、ハジメにそれを使うな!!」
俺はゆっくり近づいてくるウィップさんを黙って見ていた。怖いけどもう全てに疲れていた。正直、早く楽になりたいと思ってしまっていた。
ぼんやりとした頭の中でカイルのことを考える。この男がここまで俺のために泣いて怒ってくれるなんて思ってもなかった。本当に俺を愛してくれていたのがわかって、こんな状況のなかでも嬉しい気持ちが湧いてくる。
ゲスでどうしようもない男だったカイル、それでも俺なんかのために変わろうとしてくれた。
ウィップさんが座り薬の準備をしているのも、カイルが怒鳴っているのも全てがスローモーションに見えた。
「か、いる…ありが…と…」
ーーでも、もうつかれたよ。
叫んでいるカイルを見つめて俺は小さく微笑んだ。
針が俺の腕を刺す瞬間、雷のような破壊音が倉庫に響いた。
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