真っ白な病室にて

 
 目が覚めると真っ白な病室のベッドで寝ていた。医者が言うには2日間寝たきりだったようだ。
 悪夢のような出来事が夢ではなく現実だったのだと全身の痛みが訴えてくる。
 昼食を食べ終わった後、病室の扉が開いた。


「はぁ…漸く目が覚めたのか」
「…ガレスさん」
「病院から連絡がきて様子を見にきた」

 いつものように軍服を着たガレスさんが部屋に入ってくる。ベッドの横にある椅子に座り、俺の顔を見つめ安心したように息を吐いた。

「ハジメはなぜこんなに事件に巻き込まれるのだ…傷ついたハジメを見て心臓が止まるかと思ったぞ」
「すみません…ご迷惑をおかけしました」
「レイトン殿が居なければ貴様は薬物中毒で死んでいたんだぞ!全く…ユアン・マーチスの時もそうだがもっと警戒心を持て」

 よく見るとガレスさんの目の下には隈ができていて窶れているように見えた。心配かけてしまったな、そう思いもう一度謝罪した。
 ガレスさんの白い手がガーゼだらけの俺の顔に触れる。優しく撫でられ目を細めた。

ガレスさんは俺の額に優しく口付けた。
 俺を見つめて何か言おうとしたのか少し口を開き、もう一度溜息を吐いてガレスさんは離れた。

「ウィップ・スターンとあの場にいた奴らは全員逮捕した」
「…っカイルは?」
「あの男もおそらく関与していたことはわかっているが、証拠が全くない。だからアイツの罪は今回は見逃す」

 カイルが逮捕されないことに安心してしまう。正義感のつよいガレスさんには悪いが、俺はカイルに甘い。
 ホッとしている俺を見てガレスさんは眉を顰めたが何も言わなかった。


「私はまだ仕事がある…早く仕事が終わればまた来るから大人しくて寝ていろ」
「あの…助けてくれてありがとうございました、ガレスさん…仕事頑張ってください」

 ふん、と鼻を鳴らしてガレスさんは帰って行った。
 額に触れながら、ガレスさんは俺が好きなのだと思い出した。そりゃあ好きな相手がこんなボロボロになっていたら心配するよな…。ガレスさんに2度も迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



 暫くボーッとしているとまた扉が開いた。金色の長い髪を靡かせて入ってきたのはレイトンだった。

「やっと目が覚めたみたいだね、ハジメ」
「レイトン…」
「ちょっとは元気になった?…あー、その顔はまだみたいだね」

 レイトンは先程のガレスさんと同じように椅子に腰掛ける。

「僕が怪我治してあげられたらよかったんだけど、ヒールは僕の専門外の魔法なんだよね。暫く体が痛むと思うけど我慢して」
「いや…助けてくれただけで嬉しいし、その…ほんとにありがとう。俺もカイルも死ぬところだった」

 本当にね、レイトンはやれやれと首を横に振った。それから少し真面目な顔をしたレイトンは俺に顔を向ける。

「ハジメの様子が気になってきたんだけど…他にも君に言わなきゃいけないことがあって、それを話しにきたんだ」
「言わなきゃいけないこと?」
「実は…神子が君に会いたがってる。もちろん国王もね」

 その言葉に俺は絶句した。神子が俺に?国王?いきなりの話で頭がついていけない。

「その…神子に他にも異世界人がいるかもって話しちゃってさ、嘘だよって言ったんだけど神子はそれを信じててね。国王に我儘言って、異世界人に会わせろってうるさいんだ」
「そ、んなこと言われても…」
「わかるよ?ハジメは目立つようなことするの嫌いなのは知ってるし…国王達にハジメは神子の能力は無いって言ったんだけど、国王も興味持っちゃったみたいで…」

 いきなり国王と神子に会わないといけなくなるなんて…なんで俺がそんなことしないといけないんだ。俺とは全く違う生活をしている神子に会って、俺はなんの話をしたらいいのかわからなかった。

「ごめんね、ハジメ…面倒くさいとは思うけど、別にそう悪い話では無いと思う。何かお願いしたら聞いてくれるかもしれないよ?生活費が欲しいとか王都の近くに引っ越したいとかさ」
「願い…」
「今はハジメが入院してることは伝えてるから、怪我が治ったら一回だけ会ってあげてほしい」

 それを聞きながら俺は俯いた。
 俺も日本人に会いたく無いわけでは無い。でも、神子に何を話したらいいんだ?この世界に来てからの話でもするのか。俺は初っ端にレイプされて挙げ句の果てにサラリーマンから男娼に転職しました…そんなこと言えるか?いや、言えるわけがない。
 平和に過ごしているであろう神子なんかに俺は会いたくない。スラムをあんな状態で放置している国の王にも…会いたいわけがない。

 そんな俺を見てレイトンは穏やかな笑みを浮かべた。

「ま、返事を急いでる訳じゃないしゆっくり考えてみてよ」
「…わかった」

 レイトンは俺の頭をぽんっと撫でてから病室を出て行った。色々なことが起きすぎて頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
 落ち着くために俺は目を閉じた。


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