ハジメと神子たち
ーーとうとう、この日が来てしまった…。
「レイトン殿、食べカスが床に落ちます。食べながら王宮内を歩くのは良くないかと」
「だいじょーぶ、大丈夫!どうせ誰かが掃除するんだから…もう、君ほんと叱言多いね」
「叱言ではありません。マナーがなっていないと申し上げているのです」
目の前で口喧嘩を始めたガレスとレイトンを見ながら溜息を吐いた。今日は神子と国王とご対面する日である。昨日までずっと来るか迷っていた。
正直今から帰りたいくらいだが、久しぶりに会う日本人に会いたくないわけでもないのだ。大人げなく、個人的な理由で避けるのはいかがなものかと俺は思った。それでここに来たのだが、案内役にレイトンと何故か護衛役にガレスさんがついてきた。意味がわからん。
「大丈夫だとは思うが、陛下には敬語を使う様に」
「あぁ、わかってます」
「陛下はその辺結構うるさいから気をつけてね」
2人の言葉にわかったと頷いた。国王にも会うのかと、今頃になって少し緊張してきた。
そういえば今の国王陛下ってユアンが殺そうとした人だったような…ユアンの話を思い出し少し顔を歪めた。そんなことを考えていると大きな扉の前に着いた。
「ここに陛下と神子がいるよ。ガレスくんは扉の外で待機しててね」
「…わかっている。ハジメくれぐれも失礼のないようにな」
とうとう来てしまったのか、俺は冷たい汗が背中を伝っていくのを感じた。レイトンは俺の肩をポンと叩き、扉を開けた。
明るい光に一瞬目を細めたが、植物に囲まれた真っ白なサンルームがそこにあった。豪華で綺麗なその部屋に言葉を詰まらせる。よく日の光が当たっているからか部屋はとても暖かい。
真ん中にある大きめのテーブル、その周りに置かれた椅子に少年と男が座っていた。
「あっ、来た!」
「漸くか…遅いぞ、レイトン」
こちらに走ってきた少年の輝かしい笑顔にまた目がやられそうになった。某アイドル事務所に所属してそうなほど顔が綺麗だ。どうやらこの少年が神子で、後から不機嫌そうに来た男が国王なのだろうか。
「ごめんね、でもちゃんと異世界人連れてきたから許してよ」
レイトンはそう言いながら、俺の背中を押して2人の前に出した。美形を見るのには耐性が付いていると思っていたが、この2人は美形レベルが少し上な気がする。
とりあえず、神子様…そのキラキラした目でおれを見つめるのはやめてくれ。
「は、はじめまして…異世界から来たハジメです」
「はじめまして!オレ、ナギサっていいます!」
よろしくお願いします!と、神子からの元気な挨拶を受けて、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。高校生ってこんなに元気だっただろうか。
「ユージンだ、この国の王をしている」
「…はじめまして」
国王は無表情だが、絵画のように美しい顔をしていた。綺麗と男前が混ざった顔で、かつて洋画で見た2枚目俳優のようだ。オーラもあって俺は少し後退りしてしまいそうになる。
「…ナギサのように美しいと思っていたが、普通だな」
「ユージン、何言ってんだよ一緒じゃん!オレと同じ黒髪で黒目だろ?」
黒髪と黒目なところしか一緒じゃないぞ、俺は2人の会話に内心溜息を吐いた。神子がここまで美形だと異世界人は皆綺麗かもしれないって思うんだろうな。
「ハジメさん、こっち来て話しましょう!」
神子はボーっとしていた俺の腕を引いて椅子に座らせた。
ちなみにレイトンは後はみんなで仲良くね、と早々に退室して行った。裏切り者だ。こんな初対面3人で何を話せるというのだろう。
*
「なんでだよ!いいじゃんか、ハジメさんがここに住んだって!」
「駄目だ。何でこんな下民を城に住まわせる?国民に示しがつかないだろ」
「〜〜っ、ハジメさんは下民じゃない!!」
さっきからこの調子で国王と神子は永遠と口喧嘩をしている。俺を城に住まわせるかどうするかという、死ぬほどつまらない内容だ。
俺はいくらするのかわからないカップで、紅茶を飲みながら話を聞いていたが気まずさでどうにかなりそうだった。
まず、国王がとんでもなくグズそうなのは理解した。そして神子だ。神子は何故こんなにも俺を気に入ったのか全く理解できない。
「あの…申し訳ないのですが、俺はここでは住みません」
俺の一言で2人の視線はこちらに向けられた。
「な、なんで?ハジメさんも俺と一緒に生活しようよ!ご飯は毎日出るし、ずっと遊んでられる!」
「俺なんかが住める場所じゃないし、まずそれに使われる経費がもったいないから…」
子犬のような瞳を向けられ、どうすればいいかわからなくなる。国王からの冷たい視線も気になるし、俺は何とか大きく出そうになった溜息を飲み込んだ。
「ハジメさんはどこに住んでるんだ?ぜっったいにここの方がいいよ!」
「…俺は、その…スラムに住んでるんだ」
スラム?そう神子は聞き返してきたが、国王の視線が一気に氷点下まで下がったのを俺は肌で感じた
次の瞬間、腹に鈍い衝撃が走り俺は床に倒れていた。国王は俺の真上から見下ろし、馬鹿にするように笑っている。
ーー国王に蹴られたのだ。
「なっ、ユージン!何してんだよ!」
神子は焦ったように俺の元へ来てくれたが、国王はそれを抱きしめ止めた。
「こんな汚物に触るなよ、ナギサ。そうか、スラムに住んでるのか…どうりで汚らしいやつだと思った。そういうのは顔でわかるものなのだな」
ーー二度と城に足を踏み入れるな、薄汚い下民が。
蹴られた腹は前の怪我もあり、じわじわと熱を発していた。しかし、それ以外のふつふつと燃え上がるような怒りの熱が腹から湧きあがってきているのを感じた。
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