平和なひととき
「なんだよ、その傷」
「…王様に殴られた」
ーーはあ?!?!
家に帰ってすぐ、何故か家にカイルがやってきた。俺の腫れた頬を見て、青筋を額に浮かべている。
前のように喜怒哀楽を顔に出すようになったカイルはとんでもなく怒っているらしい。俺がヘトヘトになっているからそうなるのも仕方ないか。
「クソ国王が俺のハジメを殴ったのかよ、許せねぇ…」
「…俺はお前のじゃないぞ」
「うるせえ!お前も気をつけろよ」
手当てしてやる、カイルは俺の腕を引いて寝室に向かった。カイルは俺の家にどこに何があるのかを理解しているらしく、迷わずに救急箱を持って来てくれた。
元ヤン?だからか、何故かカイルは手当てをするのが上手い。
「…痛いか?」
「いや、平気だ」
そう答えながら、慣れた手つきで湿布を貼るカイルの顔を見つめる。前より顔色も良くて、痩せていた体は元のムキムキマッチョに戻っていた。
俺が原因でも何も悪くないとわかってはいたが、それでもカイルのことを心配していた。元気になってよかったと、そう思っていると至近距離まで甘い顔が迫ってきていた。
「…なにしてるんだ」
「キスしたら怒るかと思って、口の端痛いだろ」
ーーここまで人を思いやることができるなんて、カイルは本当に成長したんだな。
俺は以前のジ◯イアンのようだったカイルを思い出し少し感動した。少し笑ってから口付けてやる。
「なっ、テメェ…何しやがる」
「したかったと言うからしただけだ」
「……俺が手出せないの知っててやってんだろ」
友達なんだからよ、そうカイルは不貞腐れたように言った。キスしたいと言ったのはこの男なのに何を言っているのだろうか。
カイルが救急箱をなおす姿を見ていると、どこからか地鳴りのような音が響いた。
「……何か作ってやろうか?」
「肉料理作ってくれ」
「まさか、お前メシ目当てに来たんじゃないだろうな」
某ツンデレ騎士を思い出しながら、俺は台所へ向かった。保管庫に鶏肉と少しの野菜があるのを確認しながら、頭の中で献立を立てていく。
「最近ハジメの飯くってなかったし、体調も気なるから来たんだよ…っ、何笑ってやがる」
「俺のこと心配してくれてありがとう」
「テメェ、さっきから俺のこと馬鹿にしやがって…!ブチ犯すぞ、ゴラァ!」
カイルの怒声がこんな懐かしく思えるなんて、俺はくすくす笑いながら野菜を切っていく。ブチ犯す、なんて言っているが今のカイルの様子を見ると、可愛い冗談にしか聞こえない。
背後に立ったまま動かないカイルが邪魔で、俺は後ろを振り返った。
「カイル…向こうで待っててくれないか、邪魔だ」
「っ、て、手伝う…」
「……はぁ?」
ーーー手伝うっつってんだよ!
顔を少し赤くしながらそう言ったカイルに俺は唖然としてしまう。この男は一体どうしてしまったんだろうか。
料理のりの字も知らない男が料理を手伝いたいだなんて、一体どうしたと言うのだろう。
戸惑いながらも俺は少し横にずれて、隣にカイルを呼んだ。
「…何したらいい?」
「と、とりあえず野菜切ってくれるか…これと、これ」
「おう、ナイフ貸せや」
包丁が全く似合わない男の姿に俺はクスリと笑った。不器用に人参を切る姿はお手伝い中の子供だ。
そんなカイルに包丁を持っていない手は猫の手だとか、短冊切りをしろ、など少しだけ助言をしながら味噌汁作りに取り掛かった。
今日の献立は、鳥もも肉の照り焼きと味噌汁、白ごはんだ。副菜がないが材料が少ないから仕方ない。
「…どういう心境の変化だ?料理を手伝いたいなんて」
「隣の家のババアが男は料理ができねぇとダメだとか言ってたからよ」
「へー…他人の意見聞くなんて珍しいな」
歪な形の野菜を鍋に放り込み、煮込んでいく。そういえば前の世界でも料理男子がいいとかなんだと女子社員が言っていた気がする。
どの世界の女性も考えることは同じみたいだ。
「まさか、俺のために料理覚えようとしてるのか?なんて、な…」
「……わりぃかよ」
「……本当に言ってるのか?」
ムッとしているカイルに俺は戸惑ってしまう。
まさか本当に俺のために料理を習得しようとしているなんて思わないだろう。なんだか気恥ずかしくて、俺はカイルから目を背けた。
クズ男がここまで改心しているとは、驚きながらも少し頬が熱くなってくる。妙に気まずい雰囲気の中、俺たちは黙々と料理を作っていった。
*
「うめぇ…」
「それはよかった」
カイルは山盛りのご飯と肉をガツガツ食らっている。カイルは野菜を切っただけで、調理と味付けは全て俺がしたが大分成長したのではないだろうか。
マイペースに食べていると、カイルは何故か俺の茶碗を持って台所へ向かって行った。戻ってくると、茶碗にはこんもり盛られた白米がよそわれていた。
「お前痩せすぎなんだよ、もっと食えや」
「…おかわりいらないのか?」
「鶏ガラみてぇなお前が食うべきだろうが、黙って食えよ」
こんな食えない、そう言いたかったが俺は茶碗を受け取った。確かに色々ありすぎて、俺はあまりご飯を食べていなかった。胃も小さくなったのか何なのか、食欲が全く湧かなくなったのだ。
少し浮いている肋骨を触りながら、俺は照り焼きを口に含んだ。甘辛い味付けに、皮はパリパリ、身はプリプリの照り焼きはめちゃくちゃ美味しい。カイルがいなければこの鶏肉は腐らせてしまっていただろう。
「カイル、ありがとう」
「あ?何だよいきなり…さっさと食って太れ、骨野郎」
ぶっきらぼうな言い方に失礼だろうと言いながら、食べるペースを少し上げた。
気のせいか、いつもよりご飯が美味しいと感じるのはこの男のおかげだろう。穏やかな雰囲気の中、俺はしっかりご飯を完食した。
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