修羅場と危機
目の前に広がる煌びやかな空間に目眩がした。移動魔法のせいもあるだろうが、クラクラと脳が揺れているような感覚がずっと続いている。
どうやらここは王宮の広間のような場所なのだろうか。王座のようなものが1番奥にあり、長い絨毯が入り口に近いここまで続いている。部屋の真ん中にはナギサくんと王様が言い争いをしていた。
「ここには戻りたくなんかなかった!オレはハジメさんと一緒に居たい」
「…お前は神子だ、ここにいる義務がある。国のために頑張りたいと言ったのはナギサだろう」
「そんなの…っ、違うとこでもできるよ。ここでずっといる必要なんかないだろ!オレを解放しろ!」
王様が振り上げた手がナギサくんの頬を打つのが酷く遅く見えた。破裂音のような音が辺りに響き、張り詰めた空気がより鋭くなっていく。
「随分優しくしすぎたようだな…なんだ?その目は」
「っ、ユージン…てめぇ!ぶっ殺してやる!」
「はははっ、この俺を殺す?やってみればいい」
王様はお前に何ができる?そう冷たく吐き捨てた。ナギサくんは口端に垂れる血を拭い、王様に掴み掛かろうとするがそばにいた騎士に押さえつけられた。
王様はナギサくんに対して愛しい子を見るような瞳を向けていたのに、何故こんなに冷たい対応をとっているのだろう。対立するまで2人の仲は悪化していたのか。
「それを離宮に連れていけ。俺が許可を出すまで外に出すな」
「ユージン!またオレを閉じこめるのか!?おい、聞いてんのか!」
ナギサくんはまた騎士に取り押さえられ、どこかに連れて行かれた。あまりの怒りに扉の横にいる俺とレイトンに気づいてないのか、此方を見ることがなかった。最後まで王様を強く睨み続けていたあの顔は夢に出そうなほど恐ろしい。
あんな可愛い美少年をあそこまで怒らせるなんて…俺は声すら出せなかった。
「…おい、いつまでそこに突っ立ってるつもりだ。そのゴミをこっちに連れて来い」
「……ゴミって何のことを言ってるのかな」
「チッ…お前も俺に楯突くつもりか?」
レイトンは小さく溜息を吐き、顔を背けた。ゴミは恐らく、いや確実に俺のことだ。
王様はレイトンが何もする気がないことをわかったのか、俺の元へ歩いてきた。寒気がするほど何の感情も浮かんでいない瞳が俺を見下ろす。
「お前は男娼らしいな。その貧相な顔と身体でどうやってナギサを陥れた?」
「陥れてなんて…っ」
「お前がナギサを抱いたのか…いや、違うな。抱かれたのか」
乱暴に顎を掴み、王様は俺の首筋に顔を近づけた。態とらしく匂いを嗅ぎ、小さく鼻で笑うのが聞こえた。少し痛みを感じるほどの力なのに何故こんなにも恐ろしく感じるのかわからない。
暗く澱んだ瞳が俺を射抜くように見つめた。
「神子であるナギサを卑しい身分のお前が誑かしてタダで済むと思うのか?こんなナギサの魔核の匂いを染み付かせて、いやらしい」
どうしてそんなことがわかるのか謎だったが、どうやら王様は匂いでなんとなく俺とナギサくんの関係がわかったらしい。というか、さっきから人のこと貧相だの卑しいだの好き勝手言ってきて、失礼にも程がある。
怖いと思っていても、俺はこの王様を許せない気持ちの方が強いんだ。睨みつければ、低く喉を鳴らすように王様は笑った。
「俺はこの場でお前を殺すことができる。どうだ…命乞いでもしてみるか?」
「っ、するわけないだろう、何で俺がアンタなんかに命乞いしなきゃいけないんだ」
グッと喉を締め付けるような痛みが首に走ったが、俺は負けずに言い返した。ハジメ…と、小さく呟くレイトンの声が聞こえたが、俺は止まらなかった。
「そもそも、ぁ…っぐ、アンタがナギサくんの、っ、自由を奪ったのが悪いんだろうが!ナギサくんも俺も、何も悪くない…っ」
「ハジメ、ちょっとそこまでにしとかないと…陛下もハジメから手を離して」
レイトンは慌てたように俺の側まできて、王様を宥めるようにそう言った。王様はそんなレイトンの様子も気にならないのか、俺の顔をじっと見つめていやらしく笑みを浮かべた。
「…面白い、お前のようなゴミに興味も湧かなかったが、どこまでその態度を続けられるのか見たくなった」
「っ、なに…」
首の拘束が緩んだかと思うと、身体がいきなり宙を浮いた。どうやら俺は王様の肩に担がれているみたいだ。慌てて降りようとするも王様の腕はびくともしなかった。
「……陛下、何するつもり?」
「レイトン、お前には関係のない話だ。ご苦労だったな、下がれ」
「っ、ちょっと、陛下ーーー」
レイトンが何かを言いかけた瞬間、ぐにゃりと空間が歪み視界がぶれた。
瞬きをした後、ひんやりとした空気が俺の肌を刺した。
どこかに瞬間移動したのか、連れてこられた部屋は広く薄暗い。部屋の真ん中にある大きい寝台に投げ捨てられるように降ろされた。
「ここは…っ、アンタ俺に何するつもりだ」
「…ここは俺の寝室で、今からお前を抱く」
「はぁ?何言って…っ」
ベッドから降りようとすれば、首に見えない何かが絡みついて締め上げられた。容赦なく締め付けるそれに一気に血が頭に溜まっていく。
「そこから降りることは許さん、死にたくなければ言うことを聞くことだな」
王様がそう言って軽く手を振れば、見えない何かが首からなくなった。
「〜〜〜っが、はぁ、っ…は、…っ」
咳き込みながら俺は首を抑える。死ぬかと思うほど苦しかった。必死に呼吸を取り戻しながら、俺は小さく身体が震えるのを感じた。
「さ、お前の身体がどれほどいいのか…確かめさせてもらおう」
仄暗いライトに照らされながら、笑うその顔は美しくひどく歪んでいた。優雅な動きで服を脱いでいく姿を俺は震えながら見つめることしか出来なかった。
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