ガレスの涙

 
「あっ、ぁ…っう、く…っ」

 後孔に入っている指は的確に俺のいいところを刺激してくる。痼りをぐりぐりと押したかと思えば、奥の敏感なところを擽るように撫でられた。わかってしているのだろうが、気持ち良すぎて辛い。
 俺は脚の間にある美しい男の顔を恨めしげに見つめた。ガレスさんは涎を垂らすちんぽの先っぽを撫でて、自身のスラックスの前を寛げた。

 俺は全裸なのにガレスさんは軍服のジャケットを脱いで、ネクタイを緩めただけだ。むかついて襟元を掴み乱暴に口付けた。
 冷たい色の瞳が驚いたように見開かれ、グッと眉間に皺がよった。ガレスさんは舌を絡ませながら俺の脚を肩にかける。

「ひっ、ぁ…♡」
「ずっと我慢していたんだ…もう、いいだろう」

 熱いそれが後孔に触れて、そこは吸い付くように口をパクパクと動かした。期待しているようなその動きに俺の顔は一気に熱くなる。それでもいい、欲しい。俺はガレスさんの首に腕を回し引き寄せた。

「ガレスさん…ぁ、は…っ、きてくださ…っ、♡」
「…くそっ」

 グッと入ってきた長大なそれに、俺のちんぽから少量の精液がダラダラと溢れた。肉壁を擦り上げられ、目の前が白く点滅した。

「ひっ、あっあぁっ♡そこ、だめ…っ、あぁっ♡」
「いい、の間違いだろう…っ」
「ちがっぁ、ずっといってぅ、から…っ♡あっ、ひぃ、あっ、あっ、ぉ…っ♡」

 正直何度イってるのかわからない。腹の上は俺の精液か潮かわからない液体でぐちゃぐちゃになっていた。最奥を激しく突かれて首を逸らした。ガレスさんはイラついたように曝け出した首筋に歯を立てる。

「あ"っ、ぁっひ、ぃ、〜〜〜〜っ♡」

 中に広がる熱いものを感じながら俺は全身の力を抜いた。汗でしっとりしたガレスさんの髪を撫で、呼吸を整えていると少しだけ目の前の身体が震えていることに気づく。

「ガレスさん…?どうしたんですか」
「……っ、く…」
「え?ちょっと、…っ」

 顔を見ようとするとガレスさんは俺の肩口に顔を埋めてしまった。汗じゃない熱い何かで肩が濡れて、俺の身体が一瞬固まる。
 この人はどうやら泣いているらしい。

「今日は…その、確かにいつもよりイくの早かったですけど、そんなの気にすることじゃ…」
「違う…っ!」
「えと、じゃあ…」

 ガレスさんはグッと俺の頭を引き寄せ、片腕を背中に回した。

「俺は…お前を守りたいと、ずっと思っていた」
「…っ」
「守るつもりでいたのに、全く守れていない…っ。無力な自分が情けなくて、悔しいのだ…!」

 ガレスさんの悲痛な声が俺の胸を苦しいほど締め付けた。それと同時に温かい何かが胸に広がる。
 俺は広い背中に腕を回して優しく抱き返した。とくとくと脈打つ鼓動の音が心地いい。

「守ってほしいなんて思ってないです。今回も全部、俺が自分で起こしたことだから…自分で何とかできますよ」
「それでも…っ」

 ガレスさんの頬を両手で掴み目を合わせる。涙で真っ赤になった目に、鼻水を垂れ流しているその顔は間抜けで可愛かった。ガレスさんと長く付き合ってきたが、こんなに愛しさを感じたのは初めてだった。
 その顔に少し笑いながら、ガレスさんの額を自身の額に合わせて目を閉じる。

「ガレスさんが俺を思ってくれてるだけで、気持ちが楽になりました。そう思ってくれることが、俺の救いになってるんです」
「ハジメ…」
「ありがとうございます、ガレスさん」

 ガレスさんはそのあと少しだけ泣いて、恥ずかしそうに俺に服を着せてくれた。いつもいつも俺はガレスさんに心配をかけてしまっている。気にかけてくれる人が居るだけで気持ちが楽になるのだと、改めて気づかせてくれた。
 可愛くてかっこいい騎士に俺は癒された。

 和やかな空気のせいで当初の目的を忘れていた。そのことを思い出し、俺はガレスさんに声をかけた。

「実は、ガレスさんに頼みがあって…」
「ん?なんだ…」

 俺の願いを聞いて、ガレスさんはグッと顔を顰めた。それでも俺は何度も何度も頭を下げてお願いすることしかできない。
 最後は渋々首を縦に振ってくれたガレスさんは、本当に優しくていい人だった。



 *


「…いいか、面会時間は30分だけだ。それをすぎることは許さない」

 ガレスさんは厳しい面持ちでそう言うと、ゆっくり扉を開ける。鉄の扉の中に入れば、鉄格子がありその向こうに拘束具をつけた男が座っていた。久しぶりに見たその大柄な身体に俺は小さく息を呑む。

「まさか俺の面会人がお前とはな…ハジメ」

 口端を引き上げニヒルに笑うのは、重罪人のユアンだった。俺はゆっくり足を動かし、鉄格子に近づく。久しぶりに見たユアンは以前と変わらず、仄暗いオーラを発していた。

「久しぶり…元気そうでよかった」
「そういうお前は少し痩せたか?頬が痩けてるぞ」
「……色々あって」

 そうか、と興味があるのかないのかわからない返事をよこしたユアン。脳裏に過去のユアンの姿が浮かんできて不思議な気持ちになった。あの好青年が今ではこんな風貌になっているのか…少しだけユアンの顔を見つめてから俺は俯いた。
 時間が限られている、早く本題に入らないと。俺は拳を握りしめて口を開いた。

「王様…ユージンのことで話がある」
「……………」
「俺はアンタとユージンの…」
「ーー待て」

 話を遮られ俺は口を閉じた。早く話さないといけないのに、焦る気持ちが増す。ユアンは壁に立つガレスさんを見て、指を刺した。

「他のやつには聞かせたくない…おい、2人で話をさせろ」
「……そんなことできるわけがないだろう」
「なら、ハジメが聞きたいことは話さない。面会は終わりだな」

 ユアンのまさかの発言に俺は唖然としてしまう。ガレスさんの方を見れば厳しい顔で首を横に振られた。でも、それじゃあユージンの話を聞けない。

「ガレスさん、お願いします。ユアンと2人にさせてください」
「いくらお前の頼みでもそれは無理だ。面会には騎士の立ち合いが絶対だ。それに…こいつは重罪人で監視が居なくなれば何をするかわからない」
「わかってます!わかってます…だけど、どうしてもユアンと話さなきゃいけないんです」

 俺はガレスさんに縋りつくように懇願した。触れている腕がグッと硬くなるのを感じた。顔を見上げれば、ガレスさんは眉間に皺を寄せ目をキツく閉じている。ああ…また迷惑をかけているな。ガレスさんは俺と規則を天秤に欠けて、必死に考えているのだ。

「そんなに心配ならもっときつい拘束具を持ってこい。信じてもらえないだろうが俺は逃げもしないし、ハジメを傷つける気もない」
「…………」

 暫く沈黙が続いた後、何かを吐き出すような長い溜息が頭上から降ってきた。
 ガレスさんは苦い顔のまま、何度か言葉を吐き出そうとしてやめてを繰り返す。そして、腕の力がすっと抜けた。

「……S級の拘束具を用意する。暫く待っていろ」
「っ、ガレスさん」
「今回だけだ、二度とこんな願いは聞かん」

 苦しげなガレスさんの低い声が、この決断がどれだけ重いかを伝えてくる。俺はその広い背中に腕を回し抱き付いた。

「……………」
「ありがとうございます」

 ガレスさんは抱き返してくれなかった。それでも俺は強く抱きしめて何度も何度も感謝の気持ちを伝えた。
 俺はガレスさんの好意につけ込んで、こんな酷いことをさせてしまった。こんなに俺は狡かっただろうか。良心が痛み、罪悪感がグッと込み上げてくる。


 俺は小さく唇を噛み締めてそっと腕の力を緩めた。



*前 | 次#