騎士と魔女
「…さて、俺と殿下がどうしたんだ?」
より厳重な拘束具をつけられたユアンはそう言った。2人きりになった面会室は静かでより俺の緊張を煽った。強張る俺とは対照にユアンは無表情のままリラックスしている様子だ。
「ユアンとユージンの過去の夢を見たんだ」
俺は今まで夢で見たこと、ユナのことをユアンに話した。ユアンはその最中ずっと黙っており、最後まで口を挟むことはなかった。
「……信じてもらえるかわからないけど、本当に見た夢だから」
俺がそう言うとユアンは床を見つめながらゆっくり首を振った。
「信じる。夢の話は全部あっているし…俺と殿下の昔話をお前が知ってるわけがないからな。それにしても、ユナ様がなぁ…」
喉を鳴らし笑ったユアンが何を考えているのか全くわからなかった。夢を見てユナとユアンの関係は謎に包まれているし、ユアンがユージンのこと本当はどう思っていたのかも気になる。
「俺とユナ様の関係が気になるんだろう?まあ…一言でいうと師弟関係だ」
「師弟関係?ユナがユアンの師匠ってことか?」
「そうだ。俺が騎士団に入ったとき、魔術を教えてくれる人は誰も居なかった。体術は騎士団の訓練や自分で学ぶことはできても、魔術は教えてくれないし1人ではできない。だから、俺は魔法省…今の魔法局の魔導師たちに教えてくれって毎日頼み込んでいた」
承諾してくれる奴は1人もいなかったがな。ユアンは当時を思い出しながら話してるのか、遠くを見つめている。
「そんな中で、教えてくれると言ってくれたのはユナ様だった。俺は武術だけじゃなく、魔術の才能もあったからどんどん知識を吸収して強くなることができた。2年ほどそばに居たが、ユナ様が神だったのは知らなかったがな」
「じゃあ、ユナが嫌われはじめた時ユアンはどうしていたんだ?」
「ハジメの話だと、他の神様が人の心を操作していたんだろ。それは神を信じてるやつにしか効かなかったんじゃないのか?俺は神を信じていないし、生まれたときから神に見放されてる」
操作されるわけがない。そう言い切ったユアンにかっこよさを感じてしまう俺は変なんだろうか。どうやらこの重罪人は昔から自分のことしか信じていなかったみたいだ。
「殿下が生まれて…ユナ様が亡くなる少し前に、ユージンを頼むと言われたんだ」
「ユナが…アンタに?」
「俺しか頼めるやつがいなかったんだろう。俺はその頼みを聞かず、殺そうとしたんだがな」
その言葉を聞いて、俺は夢を見て感じたユアンの印象を話そうとした。目の前で悪そうに笑っているが、ユアンが本当はユージンをどう思っているのか気になったからだ。
「ユアンはユージンを殺すつもりなんてなかっただろ。他の人と同じように首を斬ればよかったのに…アンタはそうしなかった」
「いや、殺そうと思っていたさ」
「違う、思ってない。だって、アンタがユージンを見つめる瞳は優しくて…本当の弟に向ける瞳だったから」
「わかったようなことを言うんだな。ユージンが優しさを失って俺を突き放した時殺そうと思ったのは確かだ」
ユアンはそう言うと、口を閉ざし無表情に戻った。すると、自嘲するかのように鼻を鳴らし俯いた。
「でも殺せなかった…あの時俺は何を思っていたんだろうな。あの…細い首に手をかけたとき、殿下と過ごした日々が頭の中にずっと流れてきて……」
「ユアン…」
「はっ……そうだな、ハジメの言う通り殺す気なんて最初からなかったのかもしれないな。ユナ様の頼みもきけず、殿下も殺せなかった」
俺はずっと中途半端だ。ユアンはそう言って何かを諦めたように笑った。
ユアンがユージンの側にずっと居たら、何か変わっていたはずなのに。どうしてこの男もユージンも不器用なんだろう。何も言えない俺に、ユアンはそうだと声をかけてきた。
「お前に預けるか…おい、俺の房からあれ取ってこい」
「グァッ」
いきなり現れた見覚えのある鳥に俺は目を見開いた。ユアンの言葉を聞いてスッと鳥は姿を消した。あれは、窓の外にいた金色の鳥?なんでユアンが…。
「あれは俺の魔力で作った鳥だ。何も出来ないがある程度の距離を移動したり俺の代わりに何かを見ることはできる」
「それって、俺のこと見てたのか?」
「お前の魔核の匂いがして…見たくなった。別にいいだろ、牢屋にいて全く会えなかったんだ」
気まずそうな顔をして身を捩るユアンに俺は唖然としてしまう。俺を見たいからって…何だそれは。少しだけ呆れているとすぐに鳥が部屋に現れた。嘴に咥えられているそれを見て俺はまた驚いてしまう。
「これ、ハジメから殿下に渡してくれ」
鳥から渡されたのは夢で見た空色の宝石が埋め込まれたペンダント。薄暗いここでも光を何処からか吸収しているのかキラキラと輝いている。
「それを受け取ってくれるか、また投げ捨てられるかわからないが…俺が渡すよりはいい方向に向かうだろう。殿下は、きっとお前からの方が…」
ユアンはそう言って口を閉ざした。俺は手の中にあるペンダントをギュッと握りしめた。俺に渡せるのだろうか、何かの線が切れたように怒り出すユージンを思い出し、またあんな風に癇癪を起こされたらどうしようと不安が胸をよぎる。
もう時間が経っていたのか、ガレスが面会室に入ってきた。
「時間だ。ハジメ、城に戻るぞ」
「…あぁ、少し待て」
「何だ、時間は過ぎているんだぞユアン・マーチス」
イラついたようなガレスさんの言葉を無視して、ユアンは俺を見つめる。その真剣な眼差しに俺は戸惑ってしまう。
「この国で魔核の匂いがわかるのは俺と魔導師長のガキ…あと、殿下だ。お前からはそいつの匂いが染み付いている。1、2週間で消える匂いじゃない」
気をつけろ、そう言われて俺は心臓が少しだけ縮こまったような感覚になった。まさか、ユージンにガレスさんとやったことバレるかも…ってことか?別に、大丈夫じゃないか。俺に変な執着を見せているが、俺が元々男娼なことも知ってるし。
嫌な予感を無視して、俺は一応ありがとうと返事を返した。
「ーー初めての面会相手がお前でよかったよ。また、会いにきてくれ」
扉が閉まる瞬間に聞こえた声が少し寂しそうだったのは気のせいじゃないと思う。俺は苦しい胸を抑えながらガレスさんの後ろをついて歩いた。
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