独占欲と怒り
「…おい、何だその匂いは」
夕食の時間、外での執務が終わったユージンは楽な服装で席についた。俺はいつも通り長いテーブルの奥の方に座ったのだが、ユージンは食事に手はつけず静かにそう聞いてきた。
声には怒りが滲んでいて、背筋が凍りそうなほど恐ろしい。俺はフォークから手を離し膝の上におく。もしかしてユアンの言っていた魔核の匂いでこの人は怒っているのか?
俺がそんなことを思っている間もユージンの鋭い眼差しはこちらを貫くように見ている。
「な、なんのこと…」
「他の男に抱かれたのか?俺が居ない間に」
「だったらなんだって言うんだよ」
誤魔化すのは無理、そう判断した俺は開き直ったのだが、これは悪手だった。
ユージンは鬼の形相で椅子から立ち上がると此方に向かってくる。焦った俺も立ち上がり逃げようとしたが、胸ぐらを掴まれてしまった。
「甘やかしすぎたようだな。人が優しくしていれば足元を見やがって」
「なにいって…っ!?」
ユージンが手を振り上げるのが見え、次の瞬間左の頬に衝撃が走る。火傷したように熱くなり、鈍痛がじわじわと頬から伝わってきた。打たれたことを理解した時には頭がふらついていた。胸ぐらを掴まれているから倒れることはなかったけど、あまりの衝撃に俺は言葉も発せられない。
「お前を抱いてやらなかったからか?淫乱で卑しいここが男を欲しがったんだろう?」
「いっ、やめろ!ユージン…っ、ぐぁ…っ」
「嫌がるふりは一丁前にできるんだな、お前は」
机にうつ伏せで押さえつけられ、腕も背中で拘束されてしまう。暴れようにもユージンの腕はびくともしなかった。
ズボンを下ろされ、グッと後孔に指が挿入される。いきなり2本も入れられたのか、滑りもないそこから痛みが走る。指を雑に出し入れして、すぐに熱いものが当てがわれた。
「いやだ…!ユージン、やめてくれ…っ」
「お前は俺のものだろう…っ、ぐ」
「い"っぁ、く…、ぁ…っ」
無理矢理入ってくるちんぽが乱暴に中を押し広げていく。痛みと圧迫感に悶えると食器が床に落ちる音がした。顔をあげようとすればグッと押さえつけられた。メイドや使用人たちの悲鳴が聞こえて、走り去るような音が後に続く。俺は歯を食いしばった。
誰かが助けてくれるわけもなく、この部屋に取り残されて、ユージンからの凌辱は二回精が吐き出されるまで続いた。
中のものが抜かれ、俺はそのまま床に座り込んだ。内腿を伝うピンク色の精液に吐き気がする。何で、何でこんな目に合わないといけないんだ。
俺は悔しさと怒りで涙が溢れてきた。尻と頬の痛みがより自分を惨めにさせる。
「もう無理だ…っ、も…っ限界だ」
頭がおかしくなる、俺は叫ぶようにそう言った。ユージンは俺を見下ろしたまま何も言わない。この男といたら、この男の感情に向き合っていたら俺は頭が可笑しくなってしまう。付き合ってられない。
顔を上げ、ユージンを見上げて息を呑んだ。
「なんで、何でアンタが泣くんだよ」
「…………」
「俺をこんな痛めつけて、酷いことしたのはユージンだろう…っ」
ユージンは酷く絶望した顔で涙を流していた。この男が泣く意味がわからない。なのに、痛くて仕方がないとでも言うような表情で泣いているのだ。
「……俺を裏切ったのはお前だろう」
「っ、裏切ってなんかない、そもそも俺はアンタのモノじゃない!」
顔を歪めたユージンはまた手を振り上げる。殴られると反射的に思った俺は目をギュッと瞑る。先程の恐怖が蘇ってきて身体が震えた。
いつまで経っても痛みはなく、目を開ければユージンが目の前で膝をついた。獣のような悲痛な唸り声をあげて俺を見つめる。
今度は何だよ、俺はほとほと疲れて涙を流すだけだった。ユージンは倒れるように俺の胸に抱きついてきた。あまり力の入らない手でその肩を押して離そうとするが、背中に回る腕の力がより強くなっただけだった。
「そうだな…おまえは俺のものじゃ無い。でも、いまは俺と一緒にいるんだ。今だけでも俺のものでいいだろう?」
小さな声が俺にそう問いかけてくる。ユージンの身体が怯えるように震えている。
「俺のものなんて、何もない…俺には何もない。ハジメだけなんだ。なぁ…いいだろう?」
「なに、言って…」
「俺だけだと言ってくれ。俺を裏切らないと誓え」
お願いだ、頼むから。そう何度も呟く声があまりにも痛ましくて俺は離そうとしていた腕の力を抜いた。突き放せる訳がなかった。
ユージンの広く小さい背中を優しく撫でる。子供を落ち着かせるように、ゆっくり撫でた。
「……帰ろう、もう疲れたから寝たい」
俺は震える脚に何とか力をこめて立ち上がる。ユージンと支え合うように寝室に向かって歩き出した。通路にいたメイドは恐ろしいものを見るような目で俺たちを見送っている。
恐らくさっきのレイプ現場を見ていたんだろうな。他人事のようにそんなことを思いながら、長い廊下を歩いていく。
寝室について、雪崩れ込むように俺とユージンはベッドに横になった。ユージンは俺を抱きしめて左頬にそっと触れてきた。淡い緑色の光が俺とユージンの顔を照らす。
光に照らされた男の顔は迷子の子供のように、不安げな顔をしていた。
熱い感覚や鈍痛がどんどん引いていく。
「ーー悪かった、もう、殴らない。殴らないから…」
泣きそうな声でユージンが何度も謝った。
「うん、わかった」
「俺から離れるな、ここに…いてくれ」
「……うん」
ユージンは少しして糸が切れたように眠ってしまった。俺は男の頭を抱きしめて、息を吐き出す。さっき止まった涙がまた溢れ出してきた。
この男が嫌なのに、憎いのに何故こんなにも可哀想なのだろうか。自分が何をしたいのか、わからない。ユージンとどうなりたいのかも、何も。
俺はこのぐちゃぐちゃの感情をどう沈めたらいいのかもわからなかった。
腕の中にある柔らかい金髪に頬を擦り寄せ、俺は声を殺しながら一晩中泣き続けた。
*前 |
次#