密かごと

 
 あの地震があった夜、湯浴みが終わった俺が部屋に戻るとユージンが疲れた様子でカウチに腰掛けていた。いつ戻ってきたのか尋ねたが返事がない。不思議に思い近づくと、目を閉じてゆっくり呼吸をしている。寝ているのか、そう思ったが長い指が胸元にあるペンダントを触っているのが見えたため寝ているわけではなさそうだ。
 ゆっくり瞼が持ち上がり、淡い色合いの瞳がこちらを見た。少しだけ目が充血している。

「…また泣いたのか?」
「いや、少し疲れただけだ」
「ふーん…」

 嘘だな、そう思ったが口には出さずに指先で目元をなぞった。赤くなっているそこは明らかに泣いたであろう証拠だ。
 ユージンは俺の手を掴み口元へ持っていく。薄い唇がリップ音を微かに立てながら口付けてくる。何度か口付けを落とした後、掌に頬を擦り付けられた。
 ーーなんだ?もしかして酔っ払っているのか?甘えた様子の男を見てそんなことを思ってしまう。
 酒の匂いはしないから酔ってないのか、なんて色々考えているとユージンが静かに口を開いた。

「もう、悪夢は見ないかもしれない」
「え?何だよいきなり…」
「お前のおかげだ、ハジメ」

 ーー漸く俺も人になれる気がする。
 その言葉に俺は目を見開いた。ユージンが度々言っていた『バケモノ』じゃなく、人になると言うことだろうか。気のせいか穏やかな表情を浮かべるユージンに俺もふっと笑みが漏れた。


 *


 それからユージンの目の下の隈はなくなった。悪夢を見なくなったらしい。情緒も落ち着いているのか癇癪を起こすこともなくなった。無表情なことには変わりないが冷たく残忍な表情を見せることは一切なくなった。
 それと同時に俺を執務室に連れて行く頻度が減った。部屋にいる時もいきなりどこかへ消えたりと、機械的に生活していた男とは思えないほど不可解な行動をとるようになったのだ。
 いい方向に進んでいるのはわかるが、いきなりどうしたんだと言うのが正直な感想だった。


 いつものように一緒に夕食をとり、部屋に戻るとワインを飲まないかと誘われた。断る理由も特にない俺はグラスを受け取った。
 窓辺の椅子に腰掛け、星空と立派な中庭の花を見下ろす。特に会話がない無言の空間が心地よかった。

「ーーハジメ」
「…ん?なんだ」
「今まで俺はお前に酷いことをしてきたな」

 神妙な面持ちでいきなり言われた言葉に戸惑ってしまう。今更なんだ、そう返せばユージンは俺の頬に手を伸ばす。するりと頬を優しく撫でる親指がくすぐったい。

「すまなかった。許してくれとは言わない、ただお前に謝りたかった」
「ユージン…」
「それと…俺を見捨てずにいてくれて、ありがとう」

 空色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめてくる。その言葉が本心なのだと伝わってきて、酷くむず痒い気持ちになった。返事をする代わりに頬にある手の甲を抓れば、ユージンはくすりと笑みを溢した。
 そのあまりにも綺麗な顔に思わず見惚れていると、グッと顔を引き寄せられた。唇に触れた感触に俺はゆっくり目を閉じた。柔く吸い付いてくる唇、時折漏れる吐息が胸をざわつかせる。

「…お人好しすぎる俺に存分に感謝してくれ」
「あぁ、何度だって言おう。ありがとう、ハジメ」

 ーーお前がこの世界に来てくれてよかった。
 低い声が耳に響き、どくりと心臓が脈打つ。そんなことユージンに言われるなんて思ってもみなかった。俺の目からぽとりと滴が零れ落ちた。目を見開き泣き出した俺をユージンは優しく抱きしめ、耳元で更に続ける。

「俺はお前がいなければ壊れていた。闇の世界で一人きり、絶望して死んでいっただろうな」
「おれは、違う…っ巻き込まれた、だけで…」
「俺はハジメがこの世界に来てくれた奇跡に感謝している。偶然だろうが、俺には奇跡なんだ。俺を救いに来てくれて、本当にありがとう」

 脳裏に微笑むユナの顔が思い浮かんだ。
 俺はこの世界に必要のない存在だった。役割なんてなく、男に身体を売り金を得て、細々と生活していく日々。事件にも巻き込まれて散々なことばかり起きていた。
 だから、ユージンの言葉は酷く俺の心に刺さっていく。俺はこの世界にいてよかったんだとそう認められたような気がした。
 慰めるように触れていた唇が俺のものに強く吸い付いた。どんどん深くなっていく口付けに溺れないよう、腕をユージンの首に回し必死に縋りついた。暫くして唇が銀の糸を引いて離れていく。
 眉を顰め、余裕のない顔でこちらを見下ろすユージンにぞくりと背筋が震えた。

「…お前を抱きたい」
「今更許可取らなくても…だいたい、俺は男娼なんだから」
「男娼としてじゃない、ハジメを抱きたいと言ってるんだ」

 そんな怒ったような真剣な声を出さないでくれ。俺は身体の奥から脳まで痺れるような感覚に震えていた。やめて、やめてくれ、顔を逸らしたいのに目の前の男は顎を掴んで離してくれない。真っ直ぐ見つめてくる瞳から目を逸らすことができない。
 顔にどんどん熱が集まっていくのを感じる。今の俺は酷く情けない顔をしているだろうな。

「……いいか?」

 俺はユージンの問いに小さく頷いた。


 *


「うっ、うぅっ…そこ、もういいから…っん、ぁ♡」
「まだだ…まだ足りない」

 腰だけを上げた状態で、俺はシーツの上で悶えていた。ユージンは俺の尻の間に顔を埋めて熱心にアナルを舐めている。王様でもあるユージンが俺なんかの尻を舐めて、ちんぽを扱いているなんて。
 入り口の肉壁を熱い舌がぐるりと舐めた。既に数回イッているちんぽの先っぽを撫でられるともうダメだった。

「もっ、ぁっ、またいくっ、いっ、く…っ、〜〜〜っ♡」

 勢いのない白濁液がとろとろと鈴口から溢れた。腰が跳ねるようにビクつく。だらしなく涎を垂らし息を乱す俺をひっくり返し、ユージンは左脚を持ち上げ抱えた。
 火傷しそうなほど熱いものがアナルに触れる。ユージンはベッドサイドに置いてある香油の蓋を乱暴に開けて性器と尻にかけた。

「あWぁっ、あ〜〜っ♡入って、きて、ぅっ、あ、ぉ、ぉっ♡」
「くっ…もっと緩めろ」

 ユージンの長大なちんぽが俺の中を強引に押し開いていく。みちみちと音がしそうなほど肉壁とちんぽが擦れて、俺は獣のような声を上げてしまう。最奥に先端が当たった瞬間、目の前が真っ白になった。

「ぁっ、あっ…あ…♡」

 グッと太腿を強く掴まれたかと思うと、激しく腰を打ちつけられた。ずるずる抜けそうなほど腰を引いた後、一気に奥まで入れられる。頭がおかしくなりそうな程の快感に俺のちんぽは壊れた蛇口みたいに汁を噴き出している。

「ひっあ、あっあ、ぁっ♡おくっ、おくだめ…っ、きもち、ぃっから…っ、おぉっ、ぉっ、やめて、やめてぇ、っ♡」
「気持ちいいと、っ…いわれてやめる男はいない」
「あぁっ、ふ、ん…っ、んぅ、ふ、…っ♡」

 ユージンは上体を倒し、貪るように口を塞いだ。俺の膝が胸に当たるほど倒され、結合がより深くなる。ゴツゴツと行き止まりをノックするように突かれて、口を閉ざしていた奥がどんどん緩まっていく。
 唾液が溢れるほど激しく舌を絡ませ、口内を荒らしていく舌に俺はもうダメだと思った。

「ふっ、ぐ、っ〜〜〜〜っ♡」

 とうとう結腸にプラムのように膨れたそれがハマってしまう。薄い腹が膨らむほど奥に入ってしまった。あまりの強い刺激にプシャッと透明な液体がちんぽから噴き出た。

「やら、っあ、ひっ、ぉ、ぉっ、♡ずっと、おれっ、あぁっ、ひ、ぃ…っいてる、いってる、からぁっ♡」
「はは…っ、漏らすのが癖になってるのか?ん?」

 ユージンはいやらしく口を歪めながら、俺の先っぽを掌でこねる様に腹に擦り付けた。俺は目を見開き悲鳴をあげる。プシッ、プシャッと潮が何度も何度も噴き出て俺の腹とシーツを濡らしていく。

「ひぃっ、ぃっ、ああ、あっ♡しお、とまんなぃ、っ、ずっとでちゃ…っ、うぅ♡」
「あぁ…可愛いな、ハジメ」

 熱く低い声が耳元で可愛いと呟いてくる。その声にも感じてしまうから、もう俺は壊れてしまっていた。ユージンは暴力的なまでのピストンを繰り返し、結腸を突き破った。
 亀頭がぐっぽりハマった瞬間、それが一気に膨れ上がった。熱いものが中で出されるのを感じながら、俺も勢いのない精液をだらだら吐き出した。

 声にならない喘ぎ声を出してビクビク痙攣する俺をユージンは愛おしそうに見下ろしてくる。優しく身体を撫でてくる手に身を委ねて、俺はゆっくり目を閉じた。


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