ギスギス議会の幕開け

 

 眩しい光を感じ、瞼を持ち上げる。何か夢を見ていたような気がするし、ぐっすり熟睡していたような気もする。要するに普通に寝て起きたのだ。
 カーテンの隙間から入ってくる朝日をぼんやり見つめていると誰かに頭を撫でられた。

「…ユージン、もう起きてたのか」

 ユージンは枕に肘をついた状態で此方を見下ろしていた。長い指が緩く髪を梳く感触が酷く眠気を誘う。欠伸を噛み締める俺を見て、ユージンはくすりと喉で笑った。
 かつての冷酷な王様がしている表情とは思えないほど優しい笑顔に身体から力が抜けた。

「まだ寝ていて構わないぞ、俺は朝から定例議会があるからな。そろそろ支度をしなければならない」
「定例議会…?」

 頭の中に政治家の人が集まり話し合う様子が思い浮かんだが、そんな感じのことをするのだろうか。随分長くこの城にいるがそんなことをしていたなんて知らなかった。
 へぇ…と返事をすることしかできない俺にユージンは何故か口付けを落としてきた。

「まだハジメとこうしていたいが…参加しなければ後で煩く小言を言われるからな」
「そんなこと気にもしなさそうなのに…」
「力で皆を黙らすのはもうやめたんだ」

 俺の非道さはお前が1番知っているだろう、そう言われ思わず口を噤んでしまう。俺がよっぽど気まずそうな顔をしていたのか、またユージンは小さく笑い頬に口付けた後、寝台から降りて行った。
 俺ものそのそ起き上がり伸びをしていると、夜着を脱いでいたユージンが何かを思いついたように声を上げた。

「あぁ…お前も定例議会に参加してみるか?なに、黙って俺の隣に立っていればいい」
「………はい?」
「ハジメに言おうと思っていた話も議会でする予定だったし…気になることもあるからな」

 後半、ユージンの瞳が怪しく澱んだのは気のせいだろうか?
 行きたくない、そう言わせる間も無くユージンは俺を抱き上げ使用人に引き渡した。慌ただしく綺麗な服を着せられながら、俺は小さくため息を吐いた。


 *

 ハジメの嫌な予感は的中していた。

 議会を行う部屋に集まってきた人々は、国王であるユージンの隣にいる貧相な男…ハジメを怪訝な目で見ていたのだ。大臣達が集まった後、騎士団もゾロゾロと中へと入って来たのだが、その中にいる人物と目が合いハジメは目を見開いた。

「なっ!?なぜ、ここに…っ」

 同じくハジメを見て瞠目させた男、第一騎士団団長補佐官であるガレス・アーノルドがそう叫んでしまったのも無理はない。
 この男はハジメが国王により部屋で幽閉されていると思っていた。何故この議会の場にいる!?その思いでいっぱいになってしまっていたのだ。

「また皆に紹介する機会を設けるが、今この者を紹介する気はない。ただ…そうだな。此奴は俺の恩人であり…大切な人とでも言っておこうか」

 ある2名を除いた全員が、王のその発言にどよめいた。ある2名の1人、ガレスは拳を握り締め、奥歯を鳴らした。額に青筋が浮かび今にもユージンに殴りかかりそうなほど怒りを露わにした。

「お、おい…そんな顔で陛下を見るな。あの男がお前とどういう繋がりがあるのかは知らんが、今は少し抑えろ」

 隣にいた騎士団長にそう言われ、ガレスは俯き静かに息を吐き出した。申し訳ございません、小さく聞こえてきた低い声に団長は冷や汗を拭いながら、頼むぞと返す。
 そんな様子を見ていたユージンは嗤うように鼻を鳴らし、隣にいるハジメの手を取り頬を擦り寄せて見せた。

「っ、ちょっと…やめろよ」
「何を焦っている?見られても困らないだろう」

 ハジメは掴まれた手を振り解こうとしたが、此方を見上げるユージンの瞳に苛立ちの色が浮かんでいることに気がついた。まさか…そう思ったが、ユージンは何も言うことはなくハジメを見上げその生白い手の甲に口付けを落としただけだった。

 そう…ユージンは気づいていたのだ。ハジメを城に閉じ込めてから、ハジメと交わった男が誰なのかを。だから、見せつけるようにハジメに触れていた。

「ーーあのさ、定例議会しないなら僕は帰るよ」

 呆れたような声が議会室に響き、先程の騒めきが嘘のように静まり返った。声を発したのは魔導師長であるレイトンだった。レイトンは退屈そうに脚を組み替え、机に肘をついた。

「もう全員揃ってるんだから、さっさと始めようよ」

 そう言いながら冷めた視線を中央に向けたレイトンは、周りのものが見たことがないほど機嫌が悪そうに見えた。ユージンはその視線に笑みを返しながら、ハジメの手をキツく、痛いほどの力で握りしめた。

「いっ…た、…っ?」

 あまりの痛さに声を上げてしまうハジメだったが、グッと腕を引かれ笑みを浮かべたユージンの言葉に身体を冷たくさせた。

 ーーお前を抱いた男を今すぐ殺してやろうか?

 ハジメの耳に入ってきたのは酷く優しい、甘く囁くような声だった。聞き返すより先に、ユージンはハジメの手をそっと離し前に向き直る。


「これより、第105回定例議会を始める」


 この議会がもっと大きな波乱を呼び起こすとは、レイトンやガレス、ハジメが知る由もない。




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