葛藤と本音
外が真っ暗になって、漸くユージンが部屋へと戻ってきた。
「まだ頭痛がするのか?」
そう聞いてくる王様も心なしか疲れているような気がする。それはそうだろう。会議で大暴れしていたんだから。
「誰のせいだと思ってるんだ。あんなめちゃくちゃなことして…ただでさえ俺はこの城の中で肩身が狭いのに」
「今朝の議会でお前に手を出す者は居なくなっただろうな」
満足げに鼻を鳴らす王様をこれほどまで殴りたいと思ったことはない。うんざりしているとメイドが部屋にやってきて、ユージン用であろう夕食を並べ始めた。
王様はナイフとフォークに手をつけず、俺の腕を引いて膝に乗せた。いきなり何だ、そう聞けば俺にフォークを差し出してきた。
「俺は執務をこなして疲れてる。食べさせてくれ」
「はぁ?俺は体調が悪いんだけど」
「王の命令だ」
執拗にそう言われ、俺は渋々フォークを手に取った。ムカついてサラダばかり取って食わせても嫌な顔一つしない。野菜がなくなって白身魚を解し、口に持っていっても嬉しそうな顔もしない。
「美味いとか不味いとか言ったらどうなんだ?」
「何も感じないんだ。反応しようがない」
意味が理解できずにいると、王様は自らフォークに刺さっている魚を口に入れた。数回咀嚼して飲み込む。
「腹に溜まればそれでいい。何か思う必要がない」
「もしかして…味覚ないのか?」
「いや、味はするが…何も思わないだけだ。流石に不味いものは食わないが、そんなものここの料理人が作ればクビにする」
そんな人間がいるなんて…思わず絶句してしまった。美味いものがこの世に溢れているのに勿体無い、そう口にするとユージンは小さく笑った。
「お前は料理が得意なんだったか?今度食わせてくれ」
「王様の口に合うほどのものが作れるわけじゃない」
嫌だ、そう言うとユージンは可笑しそうに目尻を下げて笑った。
「……そういえばユアンの件、本気なのか?…まさか、朝に言ってた俺に話したいことってそのことだったのか」
「ああ、そうだ。ユアンを俺の近衛騎士として復活させる」
どうしていきなりそんなことを…俺がそう聞くと、ユージンは俺の肩に頭を寄せた。柔らかい髪が顎をくすぐる。
「…ユアンと話をしたんだ」
「っ、そんなこと聞いてない!何で言ってくれなかったんだ」
「俺がユアンを殺せばお前に伝えただろうが、今は何の問題も起きていない。考えが纏ったら話そうと思っていた」
穏やかにそう話しているから、俺が心配していたようなことは本当に起きていないんだろう。悪い方向に転んだらユージンの癇癪が酷くなったり、ユアンと殺し合ってどちらかが死んでしまったり…そんなことがもしかしたら起きていたかもしれない。
「なら…いいけど。それでもいきなり近衛騎士にするなんて…」
どうかしてるぞ、そう言うとユージンは黙ってしまった。何か考えているのか沈黙が続き、暫くしてユージンが口を開いた。
「……やり直したいんだ」
「やり直す?」
「ユアンをまだ許したわけじゃない。それでも話してみると昔のような気持ちを思い出すことができた。温かくて…優しい、そんな気持ちだ。だから…俺の近衛騎士だった時のように……関係を戻して、あぁ…言葉にするのが難しい」
ユージンの中でも考えが纏っていないようだった。何となく伝わってきたのは、幼い頃のような関係でユアンとやり直したいってことだろうか。
以前と比べれば良い成長のようにも感じるが、そんなことをしてしまえば騎士団や周りの人達が困ってしまう。
「わかっている。ちゃんとあいつらが納得するように話し合うつもりだ」
「………近衛騎士にはするつもりなんだな」
「俺の近衛騎士が務まるのはこの国の中でユアン以外にはいないからな」
当然だろう、そう言ったユージンに俺は溜め息が漏れた。マシになったとはいえ、暴君なところは健在らしい。呆れているといきなり顎を掴まれた。
痛いとまで言わないがまあまあ強く掴まれて、俺は目を見開いて王様に目を向ける。
「あの騎士と関係があるのはわかったが、まさかレイトンにも抱かれたことがあるのか?」
「それは…客だったんだから、やることはやるだろ」
「まぁ、ここに来て抱かれていないなら許すが…あの騎士は別だ。金も貰わず、一人の男としてあいつと寝たんだろう?」
「そ、れは……」
言い淀む俺を見て、ユージンは顔を歪めた。噛み付くように口付けられ、強引に舌を絡ませられ俺の息はどんどん上がっていく。逃げようにも腰に腕を回されてしまい、身動きも取れない。
「俺はあいつを殺してしまいたい」
「ユージン、っ…何言って…」
「お前が嫌がるからしないだけで、あの男を許すつもりはない」
ユージンは俺を抱きしめ耳元で低く囁いた。
「ここにいる限りお前は俺のものだ。誰にも触れさせない」
もうここから出す気もないがな、そう言われ俺はまた血の気が引いた。どうやら俺はまたとんでもない男に執着されてしまったようだ。
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