第8話

 ーーゆらゆら、紫煙が宙を泳いでいる。

 麻也は大きめの黒目を動かし、それを追った。紫煙の後を辿ると、目の前の男の元に戻る。麻也はじっと男ーー鷹人の横顔を眺めた。

 鷹人の黒髪は肩につくんじゃないのかと思うくらい長い。普通なら不潔に見えるそれは恐ろしいくらい似合っていて、色気を放っていた。
 じっと見つめている麻也に気づいたのか、鷹人は視線を向けた。ニヤリと少し笑い前髪を掻き上げ、麻也の肩を抱き寄せる。

「どうした、麻也」
「…別に、何でもない」
「何でもなくねえだろうが」

 鷹人はふう、とまた紫煙を吐き出した。

「煙草美味しいのかなぁって」
「美味いわけないだろ。吸ってみるか?」

 差し出されたそれに、麻也は首を振った。

「いい、早死にしたくないもん」
「…くくっ、早死にか」
「鷹人?」

 鷹人は煙草に口をつけ、吸う。そのまま麻也の肩を抱き寄せ、口付けた。


「っん?!んん〜〜〜っ!」

 瞬間、吹き込まれた苦い煙に麻也は思いっきり鷹人の胸板を叩いた。鷹人は何ともないように、軽く舌を舐めてから唇を離す。
 麻也は噎せながら睨みつけた。

「な、何すんの!?死ぬかと思ったよ…」
「寿命は縮んだかもな」
「ばか!」

 鷹人は笑いながらまた煙草に口をつけた。
 麻也は疲れて枕に顔を埋める。ーー煙草と鷹人の香水の匂いがした。鼻から気管に入って、肺が鷹人に侵食されているような、そんな気がした。

「ーーね、鷹人」
「……あ?」
「琉衣くん、だっけ…今日いないの?」

 何も考えず麻也は琉衣の名前を口に出した。

「あー…知らねえ」
「何それ、後輩なんじゃないの」
「今日は学校行ってねーから」

 鷹人は短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

「不良だ」
「知らなかったのかよ」
「知ってた」

 ーーだって初めて会ったときから、不真面目だったもんね。
 そう麻也が返すと、鷹人は少し口角を上げた。


「…琉衣くん可愛いね」
「そうだな、なんつーか…子犬?」

 子犬、そう言えば鷹人は犬好きだったっけ。麻也はなんとなく思い出した。
 話したくなんかないのに、琉衣のことばかり聞いてしまう。ーー自分が特別だと、あの子とは違うとそう、麻也は思いたかった。

 鷹人が自分以外の男を抱いたときから、麻也は特別ではない。そう分かってはいるのに、足掻く。


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