悪鬼様と爽やか君

ーーあぁ、空は青いなぁ…。
皆さん、こんにちは!爽やか君の三咲だよ?

…なんて明るく言ってるけど、俺の気分は最悪だ。数字で表せば、マイナスを余裕で突破してるレベル。

何でこんなテンション低いのかって言うと、原因はあの非王道くんだ。昼休みの食堂でお馴染みオムライスを食べていたあのモジャモジャ野郎は、俺の制服にケチャップを零しやがった。
真っ白のブレザーと真っ白のブラウスが汚れてもう最悪だ。必死に謝ってきたから、笑顔で大丈夫大丈夫って言ったけど…頭の中は殺意しかないよね。
俺はみんなみたいに金持ちじゃないから、なけなしの仕送りをやりくりしていかないといけないのにさぁ…クリーニング代は痛い出費だ。

何度目かのため息を吐いて、中庭のベンチに座って黄昏る。暫くして校舎から見覚えのある柔らかそうな天パ頭が見えた。
ーー悪鬼だ!
思わずじっと見つめていると、向こうは俺に気づいて目を見開いた。悪鬼は少し周りをキョロキョロしてから、ぱっときた道を引き返して校舎に戻って行った。

「…もしかして、俺嫌われてる?」

別に何もしてなくない?むしろ助けたよね、ストーカー予備軍な風紀委員長から。
ショックを受けていると、また悪鬼が走って戻ってきた。なんだなんだと思っていれば、悪鬼は近づいてきて…なんと俺の隣にちょこんと腰を下ろしてきた。

走ったからか頬がちょっと赤い…いや、可愛いとか思ってないからね?

……嘘です、可愛いって思いました。
自分にげんなりしていると、悪鬼が口を開いた。

「……中谷、だよな」
「う、うん!名前覚えてくれてたんだ」
「……おう」

悪鬼との会話にドギマギしてると、どこからか可愛らしくラッピングされた袋を取り出した。キョトンとしていると、それを手渡される。
ーー中身は…クッキー?

「えと、これ俺に?」
「手作りだから…」
「え!?あくっ…じゃなくて、金村が作ったの?!」
「違う」
「あっ…違うんだ」

上がったテンションが微妙に下がる。
でも悪鬼からクッキー貰えるなんて、なかなか無いことだと思う。ちょっと嬉しくて、頬が緩んだ。
悪鬼は身長差があるからか上目遣いで俺を見つめる。

「鈴木に作らせたから美味いと思うぞ」
「す、鈴木?」
「祟の部下みたいなやつ、すっげぇ料理出来るやつだ」
「へぇ〜…」

見知らぬ鈴木さんが作ったやつを食うのか…いや、クッキー美味しそうだけどね?ちょーバターのいい匂いがしてるしね?でもやっぱ、悪鬼の手作り期待したよ、俺は。
…てか絶対鈴木はヤクザだよな。
いかついスキンヘッド(たぶん)の男が「坊ちゃん!」と言っているのが簡単に想像できた。


「じゃあ、いただきます」
「…っ、うまいか?」
「うん!ちょー美味しい!」

笑顔で俺がそう言えば、悪鬼はよかった、とホッと息をついた。
悪鬼ってこんなキャラだったの?少し戸惑うが、そんな悪鬼に俺はさっきからキュンキュンしまくりだ。

「バターの風味がいいな…金村はこれ食べた?」
「いや、あんま作ってねぇから」
「美味しいから食べたら?…はい!」

1枚摘んで差し出すと、悪鬼は口を開けた。
てっきり手で受け取るのかと思っていた俺は、まさかの悪鬼のあーん、待ちに吃驚してしまう。悪鬼は、ハッと自分の行動に気づいたのか急いで口を閉じた。

「…わ、悪りぃ」

ーーすっごい、顔真っ赤だ。
恥ずかしがってる悪鬼に微笑みながらもう一度クッキーを差し出せば、今度は手で受け取り口に入れた。

「うめぇ…」
「……っ」

うっとりした顔をする悪鬼に、俺はずっきゅんと胸に矢が刺さった。
いや、可愛いかよ?!なんなんだよ、こいつ!
悶える俺を気にせず、悪鬼にもう一個くれと強請られ、結局鈴木お手製クッキーを2人でシェアしながら食べた。


服についたケチャップの存在を忘れるくらい幸せなひと時だった。悪鬼は俺をキュン死にさせる気かな??

一つ心残りを言えば、あの時悪鬼にあーんすればよかった…



姉ちゃん、俺はどんどん道を踏み外して行ってる気がするよ。


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