02
「あぁっ、はっ…く、どぉ、さ…んぁっ」
「っ、は…泰彦って呼べよ」
デカイ体に押し潰されるように抱きしめられた。俺は必死に背中に腕を回し、力強い腰付きに耐える。
喘ぎ声しか出ない俺は必死に、泰彦さん、と名前を呼んだ。
ーーこんなセックス…知らない。
腰がググっと押し付けられ、泰彦さんの熱いものが俺の奥深くにある敏感な場所をひと突きした。
「ひ、っぎ…あぁ〜〜っ!」
「…ぐぅ、っ」
視界が白くなり、俺は果てた。
暫くしてから中のちんぽも震えて、ゴム越しに泰彦さんもイッたのだとわかった。
熱い唇が鎖骨、胸、臍…と軽いリップ音を立てながら滑っていく。下まで行くと、また上に戻り口付けていく。何が楽しいのかわからないが、横になっているベッドが柔らかくて心地よい気持ちになった。
荒い息を整えながら、ボーっと泰彦さん越しに見える鏡を見つめる。
ーー目のない龍が天を目指すように登っている。
背中描かれたそれはすごく美しく思えた。
「静、お前店辞めろ」
「……ぇ?」
「俺のオンナとして、側にいてくれないか」
黒曜石のような瞳が俺を見つめてくる。
オンナなんてなりたくない、他の人に誘われてもそう言っていただろう。でも、泰彦さんのこの瞳は俺をおかしくする。
泰彦さんを受け入れるように、俺は自分から口付けた。
*
俺が泰彦さんのオンナになって、生活はかなり変わった。
まず俺はホストをやめて、泰彦さんのマンションに引っ越した。仕事はしてないが家事は全部俺がしていた。食材などの買い物は泰彦さんの部下がしてくれていて、ほとんど部屋から出ていない。
どうやら泰彦さんは俺に外出してほしくないみたいだ。
ーー流石に全て泰彦さんに頼りっきりなのはダメだよな。
ヤクザでそこそこの立場を持っている泰彦さんだが、俺の生活費や必要なものを買ったりするお金を出すのはかなり大変だろう。
俺はスマホで求人サイトを見るようになった。
「ーー静、何調べてるんだ?」
「バイトしようかなって…ずっと家にいても暇だし、お金も全て泰彦さんに頼るのは申し訳ないし」
泰彦さんは溜息を吐いて、俺の横に腰を下ろし肩を抱き寄せた。
「働かなくていい。金は有り余るくらいあるんだ、お前が心配することはねぇんだよ」
「でも…」
「俺は立場上、敵が多い。もしお前が外に出て何かあったら、俺は…」
「泰彦さん…」
家に居てくれ、泰彦さんはそう言って俺を抱きしめた。
ーーそうだ。俺が何かに巻き込まれたら泰彦さんに迷惑がかかる…仕方のないことだ。
そう自分を言い聞かせるようにしたが、その時から胸の中にモヤモヤとした霧のようなものが生まれた。
*
「ーーーー」
「…っ、ん」
話し声が聞こえて目が覚める。
どうやらリビングで泰彦さんが誰かと電話で話しているみたいだ。ぼんやりとした意識のなか、聞こえてくる声に耳を傾けた。
「…あぁ、始末しろ」
「…っ!?」
「あいつを消せ、事故ってことにすれば問題ない。芹沢の存在を失くすんだ」
俺はその名前を聞いて体が硬直した。
芹沢…芹沢さんは俺の生活必要品や、食料を買ってきてくれた泰彦さんの部下だ。強面な顔をしているが優しくて何度も話したことがある。
ーー芹沢さんが殺されるのか?
なぜ、どうして…その言葉が頭の中をぐるぐる巡った。
「あいつは静に入れ込みすぎた。まさか、あんなに仲良くなるなんてな…いい奴だったが、静を外に出したことはいただけねぇ」
ーー俺と仲良くしていたから、俺と内緒で外に出たから…そんな理由で芹沢さんを殺すのか?
頭が混乱していく。冗談だと思いたかったが、こんな冗談を泰彦さんは言わない。
その晩、俺は怖くて眠ることはできなかった。
翌日から芹沢さんは姿を見せることはなかった。芹沢さんが来なくなって1週間が経ったころ、俺は泰彦さんに問いかけた。
「あの…芹沢さんは来ないんですか?」
「…どうした、芹沢が気になるのか」
「いや、えと…いつも来てくれていたから、どうしたのかなって…」
泰彦さんは辛そうな表情で、息を吐いた。
「芹沢は…事故にあったんだ。夜中に大型トラックと衝突して…即死だったそうだ」
「……っ」
俺は涙がこぼれた。きっと、泰彦さんが事故に見せかけて芹沢さんを…体から血の気が引いていくのを感じた。
俺を心配をするそぶりを見せて、背中をさすってくれる泰彦さんが怖い。俺は初めて泰彦さんに恐怖心を抱いた。そして自分がした軽率な行動を恨んだ。
ーーあの時、俺が外に出て買い物をしたいなんて我儘を言ったから…。
そんなことを言わなければ、今でも芹沢さんは生きていたんだ。
俺が殺したも同然だ…。涙はとめどなく溢れて、罪悪感で胸が押し潰されそうだった。
ーー泰彦さんは、泰彦さんの世界は…俺が生きていい世界じゃない。生きる世界が違うんだ。
この日を境に俺の泰彦さんに対する気持ちは変わってしまった。
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