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―嗚呼、またこの感じだ。
菊治の額から冷や汗が流れるような感覚がした。
目の前で、菊治に助けを求めて来た生徒達へ七海が向ける殺気。
前にも何度かあったことだった。
―人と話している時に、割り込まれるのが嫌いなのかな。それは、わかるよ。おいていかれると寂しいもんね。
―でもね…
「七海くん、ごめんね。―ごめんね。
待ってね。お願い。
僕の目の前で苦しんでいる人がいるんなら、助けてあげたいんだ。」
そう言って、菊治はこちらを見てくる七海の頭を何度かポンポンッと撫でる。
そして、七海の横をすり抜け手早く二人の生徒に鎮痛剤を打っていく。
幸い、軽傷で既に止まっていた血液をぬぐい取り素早くに処置を行った。
「あ、ありがとう、菊治…相変わらず早いな…」
「どういたしまして。まだ、痛みで暴れてしまっている生徒がいる。その子達に気をつけて身を潜めていて。」
二人の生徒を見送り、菊治は七海の方へと向き合おうとした時。
後ろから思いっきり腕を噛まれる。
かぷっなどと可愛らしいものではなく、比喩するとしたら肉食獣が獲物に噛み付くようなものだった。
一瞬、菊治は唐突に来た痛みで顔を歪めそうになったが何とか押しとどめた。いつもの、困ったような顔をして七海を見た。
微妙に顔がすねているような感じがした。
「ごめんね。でもね、菊治が悪いんだよ。僕を放置して他の人の相手をするから―」
「うん、ごめんね。僕が悪いよ。―ありがとう。」
「うん?」
菊治に言われた唐突な「ありがとう」に七海は首を傾げた。
目の前の菊治は優しく微笑んでいた。
「鎮痛剤打っている時に、治療をしている時に―噛まなくて、ありがとう。
もしかしたらその時僕に噛んでいたら注射針が折れていたかもしれない。
消毒液をたくさん、傷口にかけちゃっていたかもしれない。
―手元が狂っていたかもしれない。
そうなってたら僕、七海くんに怒るよ?」
どこか冗談っぽく、――子供に言い聞かせるように――片手の人差し指を一本立てて、もう片方の腰に手を当てて「めっ」の形をとる。
終始、七海は目をぱちくりさせていた。
そして微笑む。
「何だか菊治らしい。」
「ふふっ、ありがとう。」
菊治はまた、七海の頭を何度か撫でた。
この男、七海を子供扱いする。
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星空