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要が蓮を舞台裏に引き込んだ時、どうなるかと静まり返っていた体育館が煩くなる。

ざわざわと、がやがやと。
まるでお昼時の食堂みたいに。
だが、食堂とは違う、楽しい空気ではなく恐怖などの空気が溢れていた。

見ていた菊治も例外ではない。
一瞬溢れた恐怖の感情。

―今、彼は何をしようとした?

壇上で鎖に縛り上げられて怪我をしている"裏切り者”。
菊治は、ただ何も言わずに騒がしい人の波に紛れ込んだ。

「これは私の推測、当たっているかとか わからない、だけど……だけど聞いてほ しいの」

壇上に躍り出た千恵が言う。
菊治はまた、一つ二つと人波をかき分けていく。

「もしかしたら、八代先輩は一人で政府 の元へ行ったかもしれない、私は今日、 一度も矢代先輩を見ていない、これだけ じゃあ、確信にはならない、だから…… だから私は政府の元へ行こうと思う」

いつの間にかしんっとなった体育館。
菊治は壇上の階段を上っていく。皆、千恵へと視線を集めていて気がついているものは数人だけだった。

千恵の頬に涙が伝う。

「矢代先輩は政府の元へ行ってないかも しれない、けれど、もし本当に行ってた のなら、あなた達はそれでもいいの!? 私は、誰も来ないなら一人で行く、も し、矢代先輩がいなくても、後悔はしな い」

「この意見に賛同し、政府の元へ行く人 は手を挙げて!賛同する者がいないな ら、私は、一人でいく!」

静まり返った体育館。菊治は鎖で縛り上げられていた裏切り者の前にしゃがみこんだ。

「俺、行く!」
「あたしも!」

次々と上がる声。

一人一人の強い"意思”が響きわたる。

「なんだよお前…」

菊治の足元を視界に入れたのかずっと俯いている裏切り者がぽつりと呟くように言った。

「俺をさっきの奴みたいに殺そうとするのか?」

鼻で笑いながら言った裏切り者に、菊治は優しく微笑んで胸元に手を当てた。
ビクリと裏切り者の肩が揺れる。そして初めて菊治の顔を見た。

「しないよ。ただ、ね、傷を治させて。」

目を見開く"彼”。菊治はゆっくり、力を集中させた。
半分しかない能力でどこまで治せれるのかが菊治は不安だった。

「全部治せなかったらごめんね。」

「お前――、よくおかしいといわれねぇか?」

千恵の声が体育館に響く。
それに続くように生徒たちが熱く叫んだ。

「言われるね。いいよ、僕はおかしくても。」

菊治がクスクスと笑う。反対にその顔色は悪い。能力の使いすぎだ。

「なあ、もう―いい。」

「え?」

彼が言う。菊治は能力発動を一時停止する。目前の彼は、何故か涙を堪えていた。

「ありがとう。もう、それ以上やるとお前ぶっ倒れるだろ?」

「よく、わかったね。」

目を瞑り菊治が答える。ゆらりと世界が揺れるような感覚がしたかもしれない。

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星空