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「要くん。」
ふに、と後ろから要と頬に何かが触れる。
要は振り返ると、白い何かが顔に覆いかぶさりごしごしと拭かれる。
「ちょっ、なにすんのっ。」
「顔、汚れちゃったでしょ。拭いているんだよ――はい、顔は終わり。
――いつもの要くんだ。」
白い布は、刺繍が少し解かされていた菊治のハンカチだった。
次に手を取られ手を拭かれる。宛ら、親が遊んで汚れた子供の体を拭くような感じだった。
要はちらりと下を見た。割れたガラスや鏡に微かに写るのは、血が付着していない要の顔だった。
「…いちいちこんなことで私を拭いていたら、白いハンカチ、汚れちゃうよ。」
「いいよ、汚れても。どんなに要くんが汚れても僕はいちいち要くんを拭かせてもらうよ。」
「はい、終わり。」と言って菊治は要に付着した血を拭って汚くなったハンカチを綺麗に折りたたんでポケットにしまった。
「次も汚れたらそのハンカチで私を拭う…
のッ!」
要は素早くナイフを手に持ち、菊治の背後から襲いかかってきた人物の首を勢いに任せて思いっきり、跳ね飛ばした。
ぶしゅうっと斬られた首から血が溢れ、二人に降りかかる。どしゃりと倒れ込んだ首のない死体は、びくりびくりと脈打つタイミングと同時に切り傷の動脈から血が吹き出す。かすかに指先が強く痙攣し、暫くして糸が切れたように止まった。
「また汚れちゃったけど。」
要が菊治の顔を見ずに言った。丁度自分の背後で起こったことに菊治は、どこか哀しそうな顔をしていた。けれど、口元に手を当て何かを考える仕草をすると要の顔を見て微笑んだ。
「拭けるものも汚れちゃった…でも、僕も汚れた。それでどう?」
「それでどう?って言われても…。」
「要くんが次汚れたら僕はワイシャツでも要くんも拭くつもりだったよ。」
微笑んで言った菊治に要は「なんでよ!」と返した。
その様子に、菊治はまたくすくすと笑うだけだった。
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星空