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ぐっと菊治は自分の唇を噛み締めた。―確かにそうだった。一番目の能力を使う度に自分の体力とほんの少しずつだが生命力(すなわち自分の命。誰にも言っていないが。)は削られ疲労は蓄積されていく。自己犠牲をするタイプの能力の為に治癒能力の中でもトップクラスの治癒。ただでさえ治癒能力者は少なくこの状況。
「あんな無茶…弱いくせに…後で治すっ て…お前が死んだら後なんて、なに も…」
続きの言葉がやってこない。
微かに帰ってきたのは嗚咽だった。
「…っ…と……こ…かっ…た……。」
聞き取りづらいその言葉を菊治は必死に耳を傾け、口の動きで察した。
そして、要をそっと抱きしめた。
突然の行動に要は驚く。
そして、徐々に痛みがなくなっていることに気がついた。
「聞いてたの!?
私より…他の人を……。」
「僕には…、これだけしかできないからっ。…他の人も後で治すから。」
「そんな力もうあると思ってんの!?」
抵抗しても傷は少しずつだが癒えていく。
そして少し回復したところで癒しが止まった。そして次にやってきたのは、ドーム型の何かが菊治と要を包んだ。いや、正確には要だけを包み込んだようだった。
「なに…これ?」
「僕の能力は治癒能力だけじゃない。
この能力を、使う日が来るなんて思わなかった。来て欲しくなかった。
慈愛の女神ヘスティアは最後まで人間を見捨てようとしなかった。僕は神の加護がついている。この加護のおかげで僕は怪我をしても要くんより軽くなる自身があるよ。
でね、僕の2番目の能力はこの加護の力を分け与える能力。」
「やだ……やめて…。」
「もう遅いよ。僕は要くんに加護を分け与えた。」
要の顔を見て菊治は微笑んだ。その顔は先程とは比べ物にならないほど相当疲れていた。
「ごめんね、全部治せられなくて…。回復したら全部治してあげるから…。」
「自然治療でいいわよっ。」
吐き出すように要が言った。
そして、要から離れ立ち上がろうとしたときよろけた。智也が腕を掴んでいなければ今頃尻餅をついていただろう。
「ありがとうございますっ…。」
「さ、他の人でも治そうかなぁ」と元気に振舞って、菊治は目に入った怪我を負った人たちのもとへ向かった。
要は自分の腕を見て拳を作ったりしていた。大きな傷は優先的に治してあり小さな傷はあまり治せていない。左の目の痛みは取れているが視界はぼやける。
ふと、顔を上げると夏と目が合う。
いつもの夏なら嫌そうな顔をするのだが、何の気の迷いか、近くに落ちていた鋭利な硝子を要の目前で握り締めた。血がじわりと溢れポタポタと落ちる。
そして、その掌を要に見せつける。―徐々に傷が治っていく。治癒能力だ。
「先輩も治癒能力ですか…しかも見たところ自分限定。」
いつもの表情なのだが若干ドヤ顔している。うざったらしい、自慢かよ―と要は心の中で吐き出した。(実際自慢だが―子供のようだ)
その掌を要にゆっくりと近づけ、少々乱暴だが頭を撫でた。
「お前のこと見直した。案外良いところあるんだな。
あの黒茶の為にも頑張りやがれ。」
「…言われなくても。」
一瞬黒茶とは何だったのか。新しいお茶の種類なのかと要は思ったが、思考を巡らせ黒茶=ダークブラウン、つまり髪色。菊治。と思い至った。
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星空