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「ああ、だから、そんな震えた声で言うな。安心しろ。」

―俺を、殺れることに。

八尋が冗談っぽく両手を頭の位置に上げた。
どこか、酷く冷めている琴子の顔をジッと見つめる。

雨が2人を濡らす。

琴子は、斧を持ち直し、振り上げる。

瞬間、八尋が口を開いた。

「おっと、お前いいもん持ってんじゃねぇか。」

八尋が、視線を落とす。
八尋の目線の先には澄嶺から渡されたベレッタ銃。八尋は無遠慮にベレッタ銃を手に取ると、琴子の手に握らせた。

「それがいい。
死ぬ前の、最後の俺のわがままを聞いてくれ。」

トントン、と八尋が自分の心臓部を指さした。

「ここだ。ここ。
ちゃんと狙えよ。」

琴子が、地面に斧を置きベレッタ銃を八尋へと向ける。
そして、また口を開かれた。

「ちょっと待て。」

張り詰めた糸が一気に緩む。
琴子に至っては呆れて銃を下ろした。

「なに?」

「カレーが食いてぇ。」

「無理だって。」

「じゃあ、ステーキ。」

「"じゃあ”じゃなくて!」

「八尋くん、注文が多いよ。」と言った琴子にポスッ、と何かが投げられる。
大分軽くなった支給品の入っていたカバンのようだ。

八尋を見ると、それを見るように、と目で言った。
琴子は、カバンの中を見る。
中に入っていたのは支給されたものと、八尋の私物と思われるチョコレートと、飴とハンカチ。八尋の武器であるアーミーナイフが入っていた。

「捨てたら許さねえ。ついでに、この先死んでも許さねえ。」

「勝ったとしても?」

「ああ。」

琴子がじゃあ不死の体を手に入れなきゃダメじゃん、と笑った。
八尋は、琴子が笑った様子を見て琴子のベレッタを持った手を持って撃った少し強い衝撃で起動がズレないように自身の心臓部へと突きつけさせた。

「もう、いいぜ。」

また、再び緊張の糸がはられる。
だけど、それは幾分か緩くなっていた。

「ちゃんと、生き残れよ。」

「うん、じゃないと死んだあと八尋くんに殺されるかも。」

「二度死にだな。」

短い会話を交わした。
それから、銃の引き金が琴子の言葉と共に引かれるまで八尋の独り言だった。

「まだ未提出のレポートがあったなあ。
三鶴に叱られちまうかもな。」

「有楽は、これに紛れて無理矢理やってねぇといいけれど。」

「こんな、雨だ。
皆も、もう濡れてるだろうなあ。」

ポツリポツリと呟かれる独り言を幾つか聞いて、琴子が八尋だけに聞こえるように一言言った。

「――――。」

銃声音。
座った体勢から、八尋は口端から血を流して後方へと倒れた。
最後に琴子を見て、笑ったような気がした。



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星空