「む…?」

「"む…?"」

学校の渡り廊下で新条藤は立ち止まり、自分が背負っている(おかしな光景である)月詠トワの小さく呟いた言葉を反復した。
トワは、自分の頭を抑えて何かを悩み始めていた。

「どうしたの?」

「頭痛が止まったのじゃ…。」

「頭痛?よかったんじゃないの?」

トワの言葉に藤は首を傾げて返した。頭痛がなくなったの良いことだと一般は思うだろうが、彼女は違った。

「…違うのじゃ。何故じゃ。記憶が盗まれた気分じゃ…。ぼーっとするのじゃ。」

「ええっ?」

藤が目を大きく見開く。彼はトワから彼女の能力について聞いていたからだ。

―超記憶力と超高速回転思考。
それが彼女の能力だ。だから彼女は常人で考えられないほどの記憶力と思考回転の速さだった。
『記憶が盗まれた気分』。彼女の能力が正常に機能していないのだ。

トワは、藤の背中から飛び降りて藤の顔を真剣に見つめ言った。

「藤殿!能力使うのじゃ!」

「えっ、あ、うん!」

そして、二人して空を見上げた。
彼の能力の一つ、目印の星を光らせる能力。

が、一向に星は光らない。

「…5×6は?」

「舐めるんじゃないぞ!30じゃ!」

「…715万×1017は?」

「えっ…あー…えっと、…わ、わからんのじゃ…。」

トワが戸惑った顔をした。藤は驚く。普段の彼女はこのような問題でも暗算で暗記されたかのように答えていた。

「わ、わしら神の力がなくなったのじゃろうか?退学なのじゃろうか?」

「退学…。わかんない…。」

二人して渡り廊下の真ん中で落ち込んでいると、ガラスの割る音がした。そこで、藤は顔を上げ、トワの腕を引っ張り引き寄せた。

ガシャン!

すぐ近くで何かが壊れる音がした。トワがいた場所には壊れた椅子があった。窓を破りここへ落ちてきたのだ。

「ありがとうなのじゃ…。」

トワが驚いていると次に聞こえてきたのは校舎に響く痛みを訴える声だった。

「ぁぁぁぁああ”あ”!!!頭が…!割れる…!!ぁぁあ!!」

ガシャンガシャンと絶え間なく何かが壊れる音。どうやら痛みを訴えている声の持ち主が何かを壊し続けているらしい。
窓を次々と破って次々と落ちてくる物。叫び声や声の主を止める声が聞こえる。

「ここは危ないのじゃ…、北の校舎に入るのじゃ。」

「うん。」

二人は逃げるように(実際逃げているのだが)目の前の目的の校舎へと入っていった。

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