最後の部活
「サポーターも短パンも持ってたんだな。」
「てっきり、ジャージのまんまですんのかと
思ったら。」
「若しくはジャージ脱いで、パンツでそのまま
でとか?」
「マッキー最低。」
『無理無理、パンツだけなんて君達相手だと
動きにくいし怪我しちゃう!何より寒いし!』
「いや、言うところはそこかよ。」
「牧野ってさ、セクハラ慣れしすぎて、
時々変なところをスルーするよな。」
『ロッカーに着替え用に置いてたのがあって。
サポーターも、ずっとお守り気分で持ってたん
だよね。一緒に戦ってますよって気持ちで。』
パスをしながら、下に何も履いていない美月を
想像して、花巻は鼻の下を伸ばし、呑気な彼女
はそう言って笑いながら、岩泉にボールを回す。
ウォーミングアップといったところか、ボール
に触れながら彼らと会話をして、調子がいい
感じになったところでチームを分け、美月は
及川、花巻、湯田と同じチームで、対する
相手は岩泉、松川、志戸、沢内となった。
「やばい、ラーメン出る!」
『やだ、出さないで!!!』
沢内のサーブを取った花巻が楽しそうに笑い
ながらそう言うと、彼の発言に嘆きながらも
美月は及川のトスにはすぐに反応を見せて、
男子相手に頑張りを見せ、流石に今の岩泉達に
力では適わないので、上手くタイミングを
狙って、スパイクを見事に成功させる。
久しぶりのその快感に背筋はぞくぞくっとし、
ナイスキー!と手を挙げる花巻とハイタッチを
交わして、食欲旺盛な彼らを若干引いた目で
見ていた。
『あんなに食べたはずなのに、よくラーメンも
食べたよね。』
「及川なんか、替え玉もしてたぞ。」
『聞いただけで、こっちも胸焼けが。』
「美月だってどうせ、ご褒美って言いながら
アイス食べてたんでしょ?」
『私のアイスと徹の替え玉を一緒にしないで!』
よくもまあこんなにも動けるものだと彼女は
呆れながら、ボールを次のサーブの及川に回し、
いつもと変わらぬ綺麗なサーブトスを上げる
彼を怪物だとも思ってしまう。
「及川、本気サーブ打つんじゃねーよ!!」
「脇腹痛えっ。」
鬱憤を晴らすように打たれたそのサーブを受け
止めた松川は及川に怒りだし、激しく動いて
いるからか、岩泉は痛む箇所を手で押えながら
体を屈ませる。
『やっ、ちょっと、遠いー!』
「美月、ナイスレシーブ!」
「1・2年の誰か引っ張ってくればよかったな。
3年だけだと、人数微妙だ。」
「休ましてやれよ。」
いつもより守る範囲が広いせいか、滑り込む
美月を見て花巻はそう言い出して、ネットの先
にいた志戸はそう答えながら苦笑いを見せる。
『ハジメ、脇腹痛い癖にめっちゃ拾うし!』
「お前、手加減したら怒るだろうが。」
「フェイント無し、フェイント無し!」
「ア"ァ"〜ッ!」
「ずりィ!!」
『もー、惑わされた!』
「美月ちゃん、身体は正直ね。」
「お前が言うと卑猥感ありまくりだわ。」
ニヤリと笑う松川に美月もムキになれば、彼は
可愛い可愛いと弄び、彼女の反応を楽しむ松川
を見て、花巻は顔を顰める。
「ぼちぼち片さないと、見回り来るぞ。」
『もう、こんな時間なんだね。』
アンダーで及川にセットしてみたり、花巻に
ボールを上げてもらったり、普段出来ない事を
繰り広げたそのゲームは白熱して、気がつけば
辺りはすっかりと暗くなり、岩泉が時計を見て
そう言い出すので、ネットを片付け、撤退の
準備を始めた。
「…皆、ちょっといいかな。」
片付け途中に及川は真剣な顔で、皆に声をかけ、
その表情に、美月は戸惑う様子で作業の手を
止め、彼女と同じく花巻もその空気を察した
のか、慌てた様子で及川のこれから言い出そう
とした事を止める。
「オイ止めろ。せっかくいい感じで終わろうと
してんだ。このまま、平和に終わろうぜ!」
「うるせぇ!」
「何っ。」
花巻の説得を振り切って、彼は背に手を回し、
皆にしっかりと届くように、力一杯に叫び、
その言葉に皆が言葉を詰まらせる。
「3年間、ありがとう!!!」
叫び終えた及川からは涙が溢れ、思う気持ちが
同じ彼らは、共に涙が溢れ出す。
美月の頭の中は色々な思い出が甦って、その
言葉をしっかりと受け止めたのと同時に一気に
その視界は歪んで見えた。
「…言わんこっちゃねぇよ。」
決して楽とは言えなかったこの3年間。
そこには、大きな衝突だってあった。
力不足で歯を食いしばることもあった。
飛び跳ねたくなるくらい嬉しいこともあった。
どうしようもなく、辛いことだってあった。
今だって、夢だと思いたい程に悔しくて苦しい。
ただ、彼女はっきりと言い切れる。
彼らと共に過ごせて良かったということ。
バレー部と一緒に戦ったことを誇りに思って
いると。
『皆、すっごくカッコよかったよ。』
最後の最後までマネージャーの立場をきちんと
努めようと、涙を呑み込んで、いつもの癖で
運び込んでいたタオルを広げ、彼女は震えた声
で、皆に笑顔を向ける。
何度も何度も彼らに口にしたその言葉は、試合
後に彼女の口癖で、今までと変わらぬ素振りで、
自分らしくを全うした彼女は、彼らの汗を拭う
ように、一人一人の流れる涙を拭う。
決して美月は最後まで悔し涙を見せず、岩泉、
及川と3人で馴染みの帰り道を並んで歩いて
帰り、僅かだが、1番距離のある美月の家まで、
普段は交代で歩く道のりを今日だけは、2人が
揃って見送ってくれている。
「本当に美月は頑固者だよね。」
「何だかんだ、曲げねえからな。」
『ちょっと、2人には言われたくないんです
けど?』
泣き腫らした顔を罰が悪そうに歩く幼なじみを
見て、それも勲章だと言い張る彼女は、まだ
仕事があるから泣かないと言い張り、気の
知れている2人の前でも、その後に泣く素振り
は全く見せなかった。
『明日の決勝は、どうする?』
「どっちが勝ってもむかつくから、行かない。」
「お前、本当に面倒臭ぇ性格だな。」
『そっか。』
不貞腐れる及川の表情を見たら、行こうなんて
言い出せなくなり、それ以上の会話はそこで
途切れ、自宅まで到着をしてしまった。
『2人ともありがとう。』
「うん、今日はゆっくり休みなよ。」
「お前もよく、頑張ったな。」
別れ際にお礼を言ったら、2人は美月の頭を
撫で、優しく微笑むとそのまま背中を向ける。
明日からはそれぞれが別の時間を過ごす事の方
が増えてしまうと考えると、寂しさから少し
だけ胸が苦しくなって、その大きな2人の背中
を見たら、2人を呼び止めていた。
『あの…、待って!』
その背中を見たら、彼女は余計に2人にずっと
支えられていた事を思い知って、ちゃんと伝え
なければと考えて、考えよりも先に口にした。
「ん、どうしたの?」
「何かあったか?」
彼女に呼び止められたことを2人は不思議に
思い、首を傾げ、きょとんとした顔を見せる
2人の表情を見たら、つい顔は緩んでしまう。
『バレーから、わたしを離さないでいてくれて
ありがとね。2人の事やっぱり大好きだよ。』
優しく微笑んでいた美月は、2人に向けて、
感謝の気持ちを伝えたら充分満足したのか、
おやすみなさいと言って手を振り、そのまま
家の中に入って行った。
「何なの…あれ。」
恥ずかしげもなく言い切った美月の言葉に目を
丸くして、可愛過ぎでしょと胸を押える男1人 に、顔を真っ赤にさせて、無言で仁王立ちに
なる男1人。
本心から伝わった、彼女の思いをそれぞれが
彼ららしい反応を見せて、彼女が去った玄関の 扉を見つめた。
「でも、やっぱり勝ってからその言葉を聞きた
かったよ。」
そう吐いた及川の脳裏に浮かんだのは、牛島と
いた時の悲しそうな美月の表情で、二度と彼女
のそんな顔を二度とさせないと、彼は心に誓い、
悔しさが再び込み上がる。
岩泉も考えることは同じなのか、美月のその姿
は目にしていなかったが、及川と同じ様に
悔しさを見せて黙り、そのまま歩き出す2人は
しばらく会話を交わさずにいた。