美味しいものは分かち合おう

烏野との練習試合後翌日。

昼休憩の鐘が鳴れば、皆が待ってましたと授業
の終わりと共に一斉に席を立つ。
反省会と気分転換も兼ねて、3年生のいつもの
メンバーでみんなでお昼を食べようと、 美月の
提案でお弁当を持って岩泉と美月は一緒に上機嫌
で屋上へ向かった。


そこには、既に花巻と松川が先に到着しており、
ちょうど食べようとしていた頃で美月と岩泉の
2人も彼らを見つけ、隣に座って弁当を出す。
2人は、彼女の手に持つものがどうも意外で、
気になっていた。


「美月、弁当2個食うの?」


『違う違う!これは私じゃなくてハジメの分。
はい、ハジメさん召し上がれ。』


「おぅっ、サンキュ。」


岩泉の手には既に弁当が1つあるにも関わらず、
美月からもう1個弁当をさぞ当たり前のように
受け取る岩泉を見て、2人は驚いた様子で目を
見開く。


3年生になってから、将来の一人暮らしに向けて
美月は自分で作っていた。
前から料理は得意な方だったので、もちろんそれ
は彼女にとっては苦ではない。


そして、1つじゃ足りない食べ盛りの男子を持つ
岩泉の母親の悲鳴を聞いて、お手伝いと小遣い
稼ぎを兼ねて、彼女は岩泉の分も弁当を作って
いた。


美月手作りの色鮮やで栄養バランスも取れている
美味しそうなおかずが羨ましく、彼女の料理の
腕に2人はもちろん驚愕する。


「はっ?マジかよ!!!」


「岩泉コノヤロ、ひと口よこせ!!!」


松川、花巻がそれぞれ箸でおかずを狙えば、岩泉
は「断る!」と箸でそれを遮り、美月が『お行儀
が悪い!』と3人をまとめて怒る前に、背後から
するりと手が伸びた。


「ほんっと、岩ちゃんばっかり美月に作って
貰っちゃってズルいよねー!」


及川が本日のメインの和風ハンバーグをひょいっ
とつまんで口にする。
「最高!」と美月の味に舌を唸らせ、岩泉はその
ショックで動作が停止した。


「俺だって美月の弁当食べたい。」


『徹はいっつもパン食べてるじゃん!』


美月の作ったハンバーグを味わいながらも、美月
のご飯ならパンも弁当も両方食べる!とちょっと
した我儘を言い出してどかっと座れば、不服そう
にガサガサとパンの袋を開ける。


美月は岩泉が怒り出してしまう前に、自分の
ハンバーグを半分切って弁当の空間を少しだけ
埋めていると、岩泉は我に返り「おぉ…ありが
てぇ。」と身体を震わせた。


「あ、牧野のメインが少ねーじゃん。」


松川は「ちゃんと食べなさい。」と、自分の元に
あった卵焼きを美月の口に放り込み、それを
パクリと口にした彼女はその美味しさに目を
輝かせる。


「女子から沢山差し入れを貰う奴に」


「美月の弁当を食べる資格はない!」


鋭い嫉妬の目線を送る松川と花巻に、岩泉は
「そもそも美月の弁当は俺のものだ」ととどめの
言葉を刺しながら、美味しそうに美月の金平牛蒡
を口にして、3対1に敵わない及川は「くっ…」と
返す言葉が見つからずに、下唇を噛み締める。


美月は卵焼きが余程美味しかったのか、彼らの
会話は全く彼女の耳には入っておらず、おかわり と言葉には出さないが、口をあーんと空けて
待っており、少しそれは雛鳥状態。


そんな可愛い仕草を見せている美月に松川の胸
はきゅんと鳴り、自然と再び彼女の口に卵焼き
を放り込んでいた。


「まっつんは、さっきから何でどさくさに紛れて
美月にあーんしてんの?」


「安心しろ、お前には絶対しない。」


『松川ママの卵焼き最高。』


そりゃ喜ぶわと満足そうに、松川美月にもう一度
餌付けをし、岩泉の横で、花巻は彼女が作った
おかずを懲りずに狙っていた。


「俺は美月の卵焼きもーらいっ!」


「クソっ、俺のを取るな!」


「岩ちゃんは毎日美月の弁当食べてんだから
贅沢言わないで!!ってかマッキーはその
呼び方何なの!」


『私は自分と認識出来たら何でもいいやー。
花巻さんお願いがあります、私のコロッケと
花巻さんのウインナーを交換してください。』


「美月ほれ食え、あーん。」



「俺もせっかくだから美月にするか。」


「俺の特別感無いじゃん!」


「別にお前だけの呼び方じゃねーだろ。」


「岩ちゃんうるさい!とゆうか、反省会はしない
わけ?!お前ら及川さんを無視すんなー!!!」


部長の威厳はいったいどこへやら。
ムスッと拗ねた及川の牛乳パンを岩泉はさっきの
仕返しだと横からニヤリと笑って大きく齧れば
俺の昼飯これだけなのに!と彼は嘆き、松川と
花巻はそれを見て腹を抱えて笑った。


そして彼女の箸で『しょうがないな』と及川の 目の前には彼女の焼いた甘い卵焼き差し出され、
彼女があーんと言いながら、及川の口にそれを
ひょいと入れる。


『徹、美味しい?』


「…めっちゃ美味しい。」


美月が切り替えて反省会する?と聞いたら、彼は
口を曲げたまま美月にもう一口とそのまま催促
をして、その甘さをしっかりと味わった。


「これ、週1でやるか?」


「ヤメロ、俺の弁当が無くなる。」





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