合宿前の悩み事
「美月、そんなに見つめられるとさすがに
こっちも照れるんだけど。」
向かい合う松川の顔を美月は黙ったまま
じーっと眺め、悩ましい表情で手元の
シャーペンを器用にクルクルと回している。
『だって、全然思い浮かばないんだもん。』
某人気ハンバーガーショップでオフ日恒例の
2人だけでの勉強会をしている時に、彼女が
箸休と言ってGWの合宿の夕飯を何にするかを
考え出したのだが、全くいい案が思い浮かば
ない美月は問題集よりもそっちに頭を
悩ませていた。
脳を働かす為に栄養を取っとけと松川がポテト
を1本彼女の前に差し出せば、パクリと口に
する彼女を目の前にして、ほっこりと美月が
美味しそうに食べている表情に癒される。
前回、お昼を一緒に摂った時以来、彼女へ
の餌付けが完全に松川の中で、最近のブーム
と化していた。
『松川は何が好き?』
「チーズINハンバーグ。」
『ハンバーグをキロ単位で作る勇気…』
「無謀な事は止めとこう。」
『聞いておいてごめんね。』
「美月が作るものなら何でもあり。」
そして、会話は再び振り出しに戻るので、
2人はそれが可笑しくなって笑い出せば、
また再び頭をうーんと捻らせた。
すると、突然背後から大きな人の影が見えて、
「お前の味噌汁が飲みたい。」とプロポーズの
定番に近い発言が聞こえて来て、よく知った
声に半分残念な気持ちで、松川が振り向けば
たまたまここに来たであろう岩泉と花巻の姿。
今日は及川と3人で用事があると言っていた
ので、今日は美月と2人だけの時間
だったのはずなのに、当たり前のように横に
座り出す2人を見ながら、思わぬ邪魔者の
登場に、松川は軽く舌打ちをした。
『メインを言ってほしい!』と美月が
机にあるノートを軽く叩きながら怒れば、
「じゃあ揚げ出し豆腐」と返ってきて、
それはお前の好物じゃんと花巻は苦笑い。
「つーか、何でお前らここに来るわけ?」
「岩泉の美月レーダーが感知。」
「いよいよ気持ちわりーわ。」
ところで及川はどーした?と松川が聞くと
岩泉と花巻はしかめっ面で指を指す。
店の入口で他校の女子達に捕まっており、
こちらに向かって手を振っていたので、
美月は女子達に見えないように小さく
手を振り返し、松川は手を振る及川を無視
したら、もう一つの食べたいものが頭に
浮かんでいた。
「唐揚げが食いたいかも。」
『揚げ物ついでにやっちゃうか。』
「揚げ出し豆腐は決定なんだな。」
「もう無難にカレーでいーじゃん!」
俺は美月のカレーが食べたい!と及川も
そこに合流すれば、たまたま空いた隣の席に
腰掛けた。
『食べ合わせ微妙だからカレーか味噌汁か
どっちかかなー。』
「味噌汁と揚げ出し豆腐の組み合わせは
絶対に譲らねぇぞ。」
「それだと、美月が大変だし!
ってか岩ちゃんは毎日美月の
弁当食べてるじゃん。これ以上の贅沢を
求めちゃダメ。」
「弁当に入らねえだろーが、味噌汁は。
滅多に食えねー汁もんだぞ、譲るわけ
にはいかねーよ。」
『野菜の準備考えたら意外とどちらも
変わんないんだよね。』
岩泉と及川はお互い譲らぬ態度で見つめ合い、美月はまたですか?と慣れたようにグー
チョキパーと2人へ合図を送る。
2人は彼女の合図をちらっと目にした途端、
覚悟はいいか?と拳を差し出し、ジャンケン
を始め出した。
そして相子を繰り返す末、ガッツポーズを
決める岩泉に悔しそうな顔の及川。
『2日目はちゃんとカレーにするから。』
と慣れた口調で彼女は及川をなだめながら、
ノートに献立をすらすらと書く美月に
「初日だから気合いが違うのに。」と肩を
落として及川は落ち込んでいた。
松川と花巻は「結局こうだよな。」と呆れたよう
に3人を見ながら2人が揃ったようにジュース
をそれぞれ口にした。
『唐揚げは塩と醤油どっちがいい?』
「塩!!!」「醤油!!!」
「はい、まっつんとマッキーも正々堂々
ジャンケンねー。」