強引な彼

「おわっ…!?お前、なんて所にいるんだよ!」


引退をしてから数日が経ち、しばらく顔を合わ
せていなかったその人物が、自分の机の下に
潜り込んで、小さく丸まっていたので、椅子を
引いた花巻からは、思わず驚きの声が上がって
しまった。


『…だって、どうしたらいいかわからなく
なっちゃんたんだもん。』


只今、全ての授業を終えた放課後。
移動教室から戻り、ちょうどその席に座って
荷物を取り出そうとした所に美月は現れ、その
状況から、彼女がここに来た理由はすぐ読める。


「ボディガードは?」


『委員会。』


「保護者は?」


『さっき、女の子に呼び出されてた。
…てその呼び方は2人に失礼だからね。』


「そうか。て、お前も返してくれるじゃん。
アイツはとっくに捕まってそうだしな。」


彼女らしくない、情けない顔で膝に顔を埋める
その姿に、花巻も無理もないかと彼女の頭を
優しく撫でる。


『引退したからって、生活リズムは普段と
変わらないのに。これだと、引退した事を
喜ばれてるみたいで、ちょっと嫌。』


「まぁ、仕方ねえわな。」


花巻のいうボディガードは岩泉、保護者は松川、
アイツは及川の事で、告白ラッシュの激しい
及川に元々期待はしていないが、ガードになる
3人がいないからか、自分の元へ来たことに、
彼は納得をする。
そんな彼女の姿は、花巻からしたらいたたまれ
なかった。


部活を終えたのを期に、異性に告白される回数
は確実に増えていた。


特に、及川と美月は呼び出しをくらう機会が
一気に増えて、及川はその対応には慣れっ子
だったが、美月はその手のジャンルは
どちらかといえば、得意では無い。


気持ちを伝えてくれるのは、彼女ももちろん
ありがたいと思うのだが、ちゃんと自分が好き
だと思える人物と付き合いたいと考えており、
曖昧な返事をすることはなく、丁寧に断る。


断ることに少なからず胸は痛めていて、時には
無理強いをしてくる人間もいるらしく、過去の
トラウマもあったからか、彼女 はすっかりと
キャパオーバーで、今もこうして、呼び出され
る前に花巻の元に逃げ出してきていたのだ。


「花巻、2年の子がお前のこと呼んでるぞ?」


そして今日はどういうわけか、この度は花巻も
重なってしまい、彼は美月と目を合わせるのが、
何とも気まずい気持ちにさせられる。


美月は花巻を困らせまいと、いってらっしゃい
と机の下から笑顔を向けて、花巻は後ろ髪を
引かれる思いで、教室から出て行く。


彼が急いで戻った頃には、そこに美月の姿は
無く、花巻は彼女を1人のまま帰してしまった
ことに、この後に後悔をするのだった。


『たまには、1人で気分転換でもしよっかな。』


帰りの校舎を何とか逃げ切ることが出来た美月
は、久しぶりの1人を満喫しようと、家には
真っ直ぐ帰らずに、駅の近くにある某人気の
コーヒーショップまで、寄り道を決意していた。
ブルーな気持ちは、少しでも前向きな気持ちに
変えていたい。


久しぶりに目にする、ホイップが乗った限定物
を看板とにらめっこで悩みながら選び、レジで
注文をすれば、にょきりと長い指が自分の視界
に入ってきて、驚いた目で振り返り、視線を
上げる。


「これのトールサイズもください。」


『ふ、二口君!?』


「奢ってやるよ。」


『待って、待って、待って!』


さりげなく一緒に注文をしたその男は、躊躇う
事無く彼女の分の支払いも済ませて、財布から
お金を出す彼女を無視して、商品を受け取る
カウンターまで押して、そのカップを彼女に
渡し、また彼女の背中を押して、さぞ当たり前
と言った顔で、彼女を自分の向かいに座らせた。


『二口君、お金、お金…!』


「奢るって言ったじゃん。」


『何でまた突然…。』


「たまたま美月ちゃん見つけて。せっかくだし、
株を上げとこうかなと。俺、今日オフだし。」


テーブルに頬杖をつき、ニヤリと笑う二口の
ペースに流されるまま、美月も彼からご馳走に
なってしまったフラペチーノを口にして、その
美味しさに彼女の肩の力は自然と抜ける。


「何かあった?」


まだ会って数分のはずなのに、彼の洞察力の
鋭さには毎度驚かされ、美月が目を見開くと、
二口は分かりやすいんだって!と楽しそうに
笑っていた。


「俺、結構前から隣にいたけど全然気づかねえ
もんな。お疲れなのが、わかり易過ぎ。」


そして二口の説明通り、再び美月はわかり易い
態度を取ってしまっていたのか、本日、昼休憩
に会って、告白をしてきた同級生と目が合って
しまい、顔を強ばらせていた。


「あれ、牧野じゃん。」


その人物は、彼女の苦手な強引な態度を取る
タイプだったのだろう、断ったにも関わらず、
そして、隣には二口がいるにも関わらず、彼は
身を引く事もなく、こちらに近寄って来る。


するとその状況、彼女の反応を見て二口は把握
したのか、わざとらしく立ち上がり、その相手
より体格の大きい彼は、威圧をかけるように
睨みつけていた。


「カノジョに何か?」


「か、かのじょ…?」


「そうそう、カノジョ。」


ニヤリと笑うその顔はさすが鉄壁と褒め言葉を
送りたい程に迫力があり、見下ろされると怯ん
だのか、相手がいるなら言えよ…と文句を吐き
ながら、彼はその場から立ち去った。


『二口君からしたら年上の相手だったのに、
ごめんね。しかも嘘までつかせちゃった。』


「美月ちゃんが謝ることじゃねーよ。
カノジョはカノジョだろ。別に美月ちゃんの
名称としては、間違ってねえじゃん。勝手に
勘違いする、馬鹿なあっちが悪いだろ。」


申し訳無さそうな表情をする美月とは反対に、
二口は堂々とした顔を見せて、「ジャパンより
全然マシ。」と言葉を続けるので、過去を振り
返り苦笑いを見せている彼の表情から、それが
誰の事なのかわかってしまった美月は、その
よく知る人物の顔が浮かび、クスクスと笑った。


「あ、昔のダサい俺を笑うのは禁止だからな。
つーか、らしくないじゃん。もうちょっと
逞しいはずなのに。」


『引退したばっかりの時に、ここ最近こういう
のが立て続けだと、さすがに気持ちを受け止め
るのが、しんどくなっちゃって。』


「それは…その、お疲れ様デス。優し過ぎる
もんな、美月ちゃん。真面目に捉えすぎ
なんだって。」


困った顔を見せて笑う美月を見て、お人好し
過ぎる彼女に呆れたのか、二口はため息を
吐いた。


まあ、お人好しだからこそ、優し過ぎるから
こそ、こうして意地悪な所や強引さを見せて
いた自分にも嫌な顔せず、砕けた話し方で
馴れ馴れしい呼び方をしても怒らず、ふんわり
とした笑顔を向けてくれているのだか。


「まあ美月ちゃんのあの顔見たら、そりゃ皆、
メロメロになるだろうな。」


『もう、二口君は優しいね。
お世話が上手すぎて、頭が上がんないや。』


彼も前回の試合でよく知っている。
仲間に向けた笑顔は堪らなく輝いていて、あれ
が自分に向けられていたらと羨む程に。
今もこうして謙遜する彼女の笑顔は、可愛いく
見えて仕方がない。


「いや、割とガチで言ってるんだけど…。」



『ありがとう、二口君のお陰で元気出た。』


呑気にはにかむ彼女は、二口と会話をしたら
すっきりしたと晴れた気分でストローを咥えて
いて、その顔がだからもう、狡いってと心の中
で訴えながら、彼もストローを口にする。


「いっそ俺ら、本当に付き合っちゃう?」


軽いノリのふざけた口調で吐いたその言葉は割
と本気で、でもそれは残念ながら、叶わない。
何故なら、その先には血相を変えて、こちらに
向かっている花巻と松川の姿が見えたのだから。


「んな顔するなら、しっかり護っとけよな。」







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