続、教室クエスト
「「「どうした、この可愛い生き物は。」」」
声を揃えて吐いた及川達の言葉に、照れ臭さから
もじもじとぎこちない動きを見せる美月の反応
は、その愛くるしさを際立たせた。
本日は、待ちに待った文化祭。
人で賑わっている校舎は、冷え込んだこの時期
の寒さを吹き飛ばしていて、気になるあの子の
いる3年5組に赴けば、おとぎ喫茶と書かれた
その教室では、塔の上で王子を待つお姫様に
身なりは変わっていた。
『い、いっしゃいませ。』
恥じらいながら、3人に挨拶を見せる姿がまず
野郎達の胸を疼かせた。
クラスメイトが編み込んだのだろう、その編み
上げた隙間には遊び心を混ぜたのか、綺麗な花
で飾られて、鎖骨が覗くドレスは美月に似合っ
ていた。
少し裏返るその声が余計に唆られ、松川や花巻
も「お持ち帰りは」「ありですか?」と2人が交互に
聞くと、彼女の友人達の厳しい目は、ぎらりと
すぐにセンサーの如く光った。
『みんな、お世辞が過ぎるから!』
「ちょっと、こんな格好にした奴前に出て!
よくやった!でも、攫われるから困る!!」
「大丈夫、チャラ川にもエロ巻にも持ち帰らせる
為にした訳じゃないから。」
「ウチの稼ぎ頭攫いたいなら、そこにいる魔女を倒してからにして。」
「松川もごめんけど、今回はルール守ってね?」
「お前らの相変わらずな毒の吐きよう…。」
「松川に優しいのは何なんだ?何で買収されて
るんだ?」
「そりゃあ、日頃の行いっしょ。」
それよりもルールと魔女と、どこから問うのが
正しいのか分からないワードに3人は首を傾け、
彼女達が指すその方向に目を向けると、一人腕
を組んで、ラスボスの如く待ち構えている岩泉
の姿があった。
「…魔女?」
「どちらかといえば、野獣。」
「ただのゴリラ。」
「おい、花巻。お前表出ろ。」
一応、魔女という名目で100円ショップで準備
されたであろう、よくある帽子を被り、彼は
佇んでいた。
岩泉の風貌に疑問を抱いた及川はキョトンと
した顔でそう零し、続いて松川と花巻も思った
感想を出せば、花巻の一言が引っ掛かった岩泉
は、くいっと親指を立てて、入り口を示す。
「ドリンクのオプションで、クラスのメンバーと
同じ仮装でチェキを撮れるってサービスしてたんだけど。」
「美月が一緒に記念撮影お願いされて大変で、
途中でルール変更して、岩泉と腕相撲勝ったら
美月とチェキ、若しくは女子ならサービスで、
美月からのお姫さま抱っこにしたのよね。」
「そしたら逆に話題になって、今ちょっと連れ
出せなくて」
「待って待って待って。何処からツッコむのが
正解?」
「岩泉相手とか、難易度高。」
「…美月が女子をお姫さま抱っこ?」
『意外と担げる!』
「いや、ピースじゃなくて。それは王子の仕事
じゃねえか、姫要素どこだよ!」
及川が動揺し、松川も岩泉相手に勝つのは無理
がと苦笑いを浮かべ、それでも彼女のクラス
メイトは平然として、やるの?と彼らに尋ねて
いた。
そこに、思わぬ彼女の逞し過ぎる情報も入って、
松川と花巻は耳を疑ったのか、美月に目を向け、
彼女はコクリと楽しそうに頷く。
「岩ちゃん、もしかして女子に本気出してない
よね?」
「女相手に本気出すわけねえだろ。」
『それどころか、手を握るのも躊躇ってる。
ハジメは優しいから、わざと女の子にはすぐに
負けてるよ。』
「美月、余計なことは言うな。」
岩泉も女子にはさすがに遠慮したのか、何人か
を既に抱えて撮影をした美月は誇らしげに3人
に報告をして、花巻は目を丸くして、証拠写真
を目にすると、すげえなと彼女に感心をする。
「誰も岩ちゃんなんかに胸をときめかせる女子
なんて、いないだろうに。」
「クソ川、そこ座れ。叩き潰してやる。」
そして及川は、しれっと暴露されて、恥ずかし
そうにしている岩泉を余計な一言を混ぜながら
茶化すと、その言葉に怒りのスイッチが入った
岩泉は、彼を睨み、席に着くと及川を招いた。
「え、俺は普通に喫茶店でお茶したい…。」
「はーい、及川さん腕相撲入りまーす。」
「及川ドリンクは?スポドリ?プロテイン?」
「それ、喫茶店のドリンクじゃなくない!?」
岩泉が机に手を置けば、え?どういうこと?と
戸惑う及川に構うことなく、美月の友人の呼び
掛けに、クラスメイトの男子達も何故か楽しそ
うに及川の背中を押して、強制的に席を座らせ、
勝手に闘いのゴングは鳴らされそうになって
いる。
「及川、せっかくだからオプション楽しもうや。」
「牧野と仲良いの、癪に障るし。」
「それ、ただのお前らの八つ当たりじゃん!」
「お前こそ照れてねえで、せっかくだから
かかってこいや。」
男子達にそう嘆けば、自分の利き腕はギリッと
もう1人の幼馴染みがニヤリと笑い、こちらを
鋭い眼差しで見つめているので、及川はぞくり
と、岩泉の表情に背筋が凍る。
「何か、楽しそうだな。俺も後で挑戦すっかな。
美月とチェキ、撮りたいし。」
「花巻、元気ね。俺は腕痛めたらやだからパス。
写真なら、美月抜ける時にひっそり撮らせて
もらおうかな。」
「岩泉と腕相撲って聞いたら、京谷がご褒美も
分からずここに来そうだな。」
3、2、1、GO!!!と賑やかなカウントを横目
で、負けず嫌い同士の戦う姿をのんびり連れの
残り2人は見ながら、本来のメニューにあった
コーヒーやミルクティーとケーキを口にして、
運んできてくれた美月にお礼を言う。
「美月、この後着替えんの?」
『回る時は宣伝も兼ねて、このままだと思う。』
「回る時は、絶対に友達か岩泉と回りなさいよ?
若しくは、俺だっているからさ。」
「松川ずりぃ、ちゃっかり抜け駆けかよ!」
「お前、この後当番だって言ってたじゃん。」
その間、ちゃっかり松川はクラスメイトの目を
盗んで彼女と校内を回る交渉をし、それをすか
さず花巻が指摘をすれば、言い返せない現状を
松川に突きつけられ、ぐっ…と花巻は返事を
躊躇って、顔を伏せていた。
『花さんの店にも顔を出すね。』
「おう、アイス1個おまけしてやるよ。」
『もしかして…!』
肩を落とす花巻の姿を見兼ねた美月が、彼に
そう声をかけると顔を上げ、彼の言葉を聞いて、
大好物に目を輝かせる。
ああしまった、こいつのクラスは確か…と松川
が思い出した所で、時は既に遅く、花巻は勝ち
誇った表情に変わっていた。
「うち、クレープ屋だから。」
『花巻、大好き。』
「もっと言って。」
美月のラブコールき口角を上げる花巻の表情を
見て、松川が軽く舌打ちをするのと同時に、
及川が岩泉の怪力に悲鳴を上げる声が聞こえて
来た。
「ギブ、ギブ、ギブ!!岩ちゃん聞こえてる!?」
「あ?まだ殺れんだろ。」
「物騒!!言い方物騒だから!ってかマッキーも
まっつんも何で流暢にお茶してんの!?」
「は?何でって、ここはカフェだから当たり前
じゃん。」
「はっ、そうだよ!俺だって、美月が運んで
来てくれたコーヒー飲みたいよ!」
「筋肉量足りてねえから、プロテインにしとけ。」
「岩ちゃん、ここ喫茶店!」
賑やかな及川の声は、やっぱり岩泉達のクラス
に溶け込んでいて、美月は及川を宥めに席まで
案内をして、しっかりと彼の分のコーヒーも
用意されていた。
「じゃあ、次は俺かな。」
「おう、かかってこい。」
腕を捲る花巻が今度は及川と交代して席に座り、
こんなやり取りもそれぞれが忙しかった彼らに
は久しぶりな気がして、美月はその光景に目を
細めた。
「行けマッキー!岩ちゃんをやっつけろ。」
そして、及川も楽しんでいる美月の頭をくしゃ
っと撫でて、花巻に野次を飛ばし、再び教室は
カウントから賑わっていた。
「及川、セット乱れるから美月に触らない!」
「あとさりげなく、腰タッチすんな。」
「お前ら、ホントによく見てるね。」
厳しい指導に及川が顔を歪ませていると、噂を
すれば何とやらの京谷が現れ、及川は再び目が
点になっていた。
「ここ、だから喫茶店なんだよね?」
賑やかなイベントは、これから始まったばかり。
『京谷、いらっしゃい!』