キミのヤキモチ

岩泉から見れば、その表情は一目瞭然だった。

たまたま近所のコンビニで美月と鉢合わせて、
ぽわんと上の空で、その頬はほんのりと赤みを
帯びていて、いつもよりも増して可愛らしさが
際立っているその服装に、自然と彼の眉間の皺
は深く刻まれていた。


「なんて顔してんだよ、お前は。」


岩泉の顔が歪むのを不思議に思いながら、自分
の両頬に手を添えると、顔が熱い。
未だにネックレスを付けてくれた牛島の感覚が
残っている気もして、え、うん、その…と言葉
を詰まらせて取り乱した。


美月の反応が尚更彼は気に入らないのか、彼女
の買おうとしたペットボトルのミルクティーも
奪い取って支払うと、そのままぐいっと彼女の
手を引いて歩き出す。


『ハジメ、待って!いきなりどうしたの?』


いきなりコンビニから連れ出され、慌てた美月が
岩泉を呼ぶと、彼は振り向かないまま口を開き、
彼らしいストレートな質問を投げてくるので、
美月は驚きから目を丸くした。


「…お前は、牛島と付き合うのか?」


『んんっ!!?』


ピタリといきなり足を止めた岩泉に動揺を見せ
ながら、彼に思い切りぶつかり、その衝撃で
鼻を赤くさせた彼女が鼻を押さえて、彼も勢い
余ってぶっかってきた彼女を心配して振り返っ
たが、その目は泳いでいた。


岩泉のその質問に、美月も更に顔の温度は上昇
してゆらりと瞳は動き、彼女の気持ちの矛先は
やっぱりと岩泉が胸を痛めそうになっていると、
彼女はブンブンと首を振って必死に否定をした。


『私なんかが恐れ多いから、そんな訳ないよ!
若利君にはもっと素敵な人がいるはずだし。』


美月がネックレスを受け取ってから、それ以上
の発展がなかったからか、その後に五色達の
登場もあって、彼女はそう言い切った。


憧れていた人と過ごした、夢のような瞬間は、
自分の知らない所で緊張を持っていたらしく、
岩泉と出会った時は、それがちょうど解けた
瞬間だった。


「悪い、鼻は痛かったよな。」


その返事に安心したような、でもその表情には
納得がいかないような。


岩泉の気持ちは前者の方が強く、それは妙な
質問をぶつけてしまった事を混ぜながら、彼女
の両頬を手に取って、彼の大きな手は親指で鼻
を撫でた。


『鼻の痛さよりもハジメの質問にびっくりの方
が勝っちゃってるかな。』


「…変な事を聞いてスマン。」


正直な気持ちをぶつけてくる彼女から、そう
受けて言葉しまうことからは逃れられず、岩泉
はちゃんとその事にも謝った。


はあーっと深い溜め息を吐いて、彼女の肩に顔
を埋めて、しばらくそのまま彼女には顔を見せ
ずにいて、彼女もそれを受け入れて、ぽんぽん
とらしくない行動を獲る、岩泉の背中を優しく
撫でていた。


すると、先程の目を潤ませていたなんとも言え
ない表情とは打って変わって、ニヤニヤと美月
が笑い始めたので、岩泉は罰が悪そうに何だよ
と口を尖らせた。


『ハジメ君、友達取られてヤキモチ?』


「んだよ、うるせえ。」


『大丈夫だよ。ハジメとも徹とも何処にいても
この先ずっと、きっと繋がってるから。』


その根拠の無い自信は何処から来るんだよ。
こっちの気持ちも知らねえくせに。


美月との距離が空くのが怖くて、このままの
関係を望んでいたが、時折照れる時はあっても、
なかなか恋愛感情に発展しないこの関係には、
悔しさやもどかしさを感じてしまう時だって
ある。

自分達は近すぎる場所に居過ぎた。
だから、及川と二人だけの距離の時もあんなに
近くても、平然として。


「美月。」


たまには、わざと自分がドキドキさせてもいい
んじゃねえのか?


そんな興味と、自分を異性としてもう少し認識
して欲しいという気持ちの方が勝って、岩泉は
冷静さを取り戻す前に、彼女の方に置いたまま、
至近距離で彼女に顔を寄せていた。


『ずっと一緒だよ。』


まさかこのタイミングで、その言葉を向けられ
ると思わず我に返り、それより先の勇気は出せ
ず、結局岩泉の恥じらう気持ちが負けてしまい、
動作は停止した。


「〜〜っ!お前は!!!」


岩泉が不安そうにした表情を読んだのか、美月
は柔らかい笑顔を向けて、彼を安心させる声色
でそう告げてくるので、それをされてしまった
ら、岩泉はもう何も言い返せない。


「ちょっと、2人とも何してんの!?」



その距離はたかが10センチ、されど10センチ。


それは、及川の叫び声で一気に縮まってしまい、
まさかの光景に及川は目を見開いて、言葉を
失ってしまった。


「『大丈夫、一つも掠ってないから!!!』」


及川のその声に2人は同時に驚いて、慣れない
足元に滑らせた美月を支えれば、それはほんの
少し唇がぶつかった風に見えた気もして、でも
2人が同時に何事も無い事を主張し始めるので、
及川も2人を肯定するしかない。


「美月、岩ちゃんにチューされちゃってない?」


『何で徹が泣きそうになってんの。』


「クソ川。それ以上聞いたら、ぶっ飛ばす。」


呆然としていた及川がやっと吐いた発言がそれ
で、何故か微妙に涙目にも見える彼の姿を美月
は不思議に思いながら宥めて、岩泉はしつこい
及川を見ると仏頂面に戻って一撃を送り、その
まま彼を引きずって歩こうとする。


「あれは、事故だ事故。」


『そうそう、事故だ。』


それは美月に向けた言葉なのか、目を合わせず
に零して、美月もそれに頷いて、2人の後ろを
いつもより、小さめの歩幅でついて行く。


「てか美月今日の服装、すっごく可愛いね。」


『え?あっ、ありがとう。』


「コイツ、今日牛島に会ってるぞ。」


「それは、聞き捨てならないな。」


『だから、ただの試合観戦だってば!!!』


「それを人はデートと言うんだってば!」


岩泉ははぐらかそうとしていたのか、話を美月の
顔を見ること無く及川が絶対に聞き逃さない話題
に変えて、美月はこの男に聞かれたら面倒だと
よくわかっているからか、彼女は嘆く声を上げ、
張り付いた笑顔を見せる及川に脅え始める。


でも、話題が変わったことに美月も安心した顔
をした所を及川は見逃さなかった。


「美月のバカバカ。」


『もう、ハジメのバカバカ。』


「うるせぇ、及川のうんこ野郎。」


「俺、罵られる要素は全く無いよね!?」


その2人の反応から、全く触れなかったという嘘
が見え見えだというのは、ただ自分を傷つける
だけで終わってしまうので、及川もその嘘に、
今は素直に騙されることに。


3人の関係が、まだ壊れてしまわないように。
無意識に、彼女が自分の唇に触れている姿を
及川は、目を伏せてわざと見ないふりをした。






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