激励も兼ねて
冬休みに入り、休みの課題を助けて貰いに来た
可愛い後輩がやって来て、その日は彼の誕生日
だということもあって、彼女はあらかじめ準備
しておいたプレゼントを差し出せば、嬉しさからか、影山は目を輝かせていた。
『飛雄、誕生日おめでとう。』
「ありがとうございます。美月さん、わざわざ
準備してくれたんですか?」
『会うってわかってたからね。飛雄クンのお気
に召すかはわかりませんが。』
「開けていいっすか?」
『どうぞどうぞ。』
包装紙を開けてみれば、ランニング用の手袋が
入っていて、スマホ操作も出来るからと自信が
無さそうにする美月に、影山は大切にします!
と言って、興奮気味に鼻を膨らまし、ぎゅっと
その手袋を握り締めた。
『これから、強敵達と勝負だろうしね。
ユース合宿、楽しかった?』
「…最高でした。」
その返事に美月は頷いて、すると影山も何かを
思い出したのか、ハッと慌てて1つの紙袋を彼女
に差し出した。
「これ、プレゼントっつうか…東京土産です。」
彼からの初めてのお土産に、美月は驚いたのか、
ぱちぱちとそれを見つめて、瞬きする。
『飛雄も、わざわざ買ってきてくれたの?』
「嫌だったっすか?」
『違う違う、そんな事ない!』
影山同様、袋から出すと美月の動きは途端に
ぴたりと止まる。
きっと、影山は店員と相談はしたのだろう。
お洒落な箱に入ったマカロンは、彼らしくない
チョイスだと思ったのか、お店で仏頂面で品物
と睨めっこする彼を想像して、可笑しくなった。
「…ちょっと、悩みました。」
『飛雄、わざわざありがとね。』
素直な影山からの報告を受けたら面白くなって
美月は笑いだし、目尻に浮かんだ涙を拭って、
きちんと影山にはお礼を言って受け取り、彼女
は早速その1つを口にした。
『うん、美味しい。』
「よかったっス。」
『飛雄も一緒に食べよ?』
「いや、俺は大丈夫ですから。」
『せっかくなら、私は飛雄と食べたいな。』
数が少ないからと遠慮する影山に、美月はいい
からとチョコレート味の一粒を齧らせて、その
食感に複雑そうな顔を見せる彼を見て、彼女は
また笑う。
「これ、すげえ甘いんだな。」
『飛雄苦手?じゃあ、私食べちゃうね。』
影山が一口齧ったマカロンを恥ずかしがる様子
も無く美月が口にすれば、彼の方が後からそれ
に意識して、小さく声を漏らすと、不服そうに
目をそらす。
多少は意識しろよと心の中で悪態を付いても、
呑気な彼女には届かないまま、美月が受験勉強
をする横で、彼は問題集を広げると、早速意味
不明な問に頭を悩ませる。
『飛雄、ほらここに書いてあるから。』
「ああ、なるほど。ちょっとはわかった気もして
来ました。」
『うんうん、その調子。』
自分の作業が止まってしまうことの方が多いの
だが、美月は嫌がる顔一つ見せずに、丁寧に
分かりやすく、影山には説明をする。
「美月さん、時間大丈夫ですか?」
『スランプは抜けたし、大丈夫。飛雄君の為
ならえんやこらですよ。』
美月の時間を犠牲にしている事を不安に思い、
影山は彼女を段々と伺い始めたので、心配は
ご無用!と美月も答えて、話題はその問の解説
へと戻る。
課題は全てとまではいかないが、何とか年明け
に泣かずに済みそうな所まで進み、美月は達成感
を感じながら、両手をグッと伸ばしてストレッチ
をした。
「今回も美月さんに救われました。」
『潔子も心配してたし、これくらいならお安い
御用かな。』
頑張ったご褒美にと、温かいココアを入れ直し
て、残りのマカロンを一口彼女が口にすれば、
ラズベリーの酸味が口いっぱいに広がって、
その美味しさに美月は蕩けていた。
「俺は美月さんのカレーの方がいい。」
『もう、飛雄は。また作ってあげたくなるじゃ
ないか。』
「いつでも待ってます。」
彼に会うのは、今年はもうこれで最後。
年明けには、自分達もその場に立ちたかった
大きな試合が控えていて、玄関を出て彼を送り
出そうとした時、その姿は以前よりもまた成長
して見えた。
自分の周りのそれぞれの人間が、大きな舞台に
立とうとしていて、誇らしい半面、遠くに感じる
寂しい気持ちも混ざってみたり。
『飛雄、帰ってきた時はからあげと温泉卵も
一緒に作っておくからね。』
「それ、最高じゃないですか。」
思いっきりしてきなさい!と彼の背中を押して
送り出せば、言われなくてもとニヤリと笑う彼
の返事はいつも通りだった。
『ちゃんと、テレビで見てるからね。』
「はい、ちゃんと見ててください。」
いつものぶっきらぼうな「うす。」と一言だけの
返事では無く、真っ直ぐ貫くその視線。
その瞳は、前に会った時とはまた違っていて、
最終的にはどんどんと逞しく、大きくなる後輩
に悔しくなって、美月は彼の頭頂部を背伸びを
しながら、押さえ込もうとしていた。
「え、ちょっ、待っ…!何するんですか!」
『飛雄に追いつけなくなるから、止まって!』
「言ってる意味がわかんねーよ!及川さんみたい
なこと、しないでくださいよ!!」
突然、撫でてくれるのかと思った美月の手が、
ぐぐぐと割と強い圧力が来るので、影山も彼女
の行動に戸惑って、彼女の脇腹辺りを持つと
ひょいっと抱き上げ、美月の見上げていた視線
は一気に影山を見下ろす形となってしまう。
「止めてくれるまで、下ろしませんから。」
『やだ、いつからこんなに力ついてたの?』
「美月さんが、軽すぎなんだって。」
『筋肉割とあるから、そんな事ないよ?』
「俺だって鍛えてるんで、ヤワじゃねえっす。」
期待してください。と真面目な返答が彼らしく、
美月も期待してると笑い出したら、彼は優しく
目を細めていた。
しかし、やっぱり恥じらう姿を見せてくれない
美月の反応がどうも納得いかないと思ったのか、
彼はまた不服そうな表情へと切り替わっていく。
『ほら、飛雄やっぱり重たいんでしょ。』
「違いますって。」
共に過ごす相手の影響が大き過ぎる事をしっかり
と理解していても、どうしても少しくらいは
意識して欲しいと湧く、片思いの淡い恋心。
彼もまた寂しさと悔しさが織り交ざって、この
まま連れて帰ってもいいですか?と尋ねてきた
彼に、美月の頬は一瞬赤く染まり 、目がゆらり
と動く。
「スンマセン、やっぱ今のはナシに。」
不覚にもそれを可愛いと思った影山は、その表情
に、更に彼女よりも顔を赤く染め、彼女を下ろ
した後に口元を押さえていた。