穏やかな聖なる日を
「あと、どれくらいかかりそう?」
「分からねえ…にしても、すげえ列だな。」
長身の男2人が慣れない行列に混ざって、スマホ
とその列を交互に見比べながら、今どれくらい
並んでいるか、いつ頃終わるだろうかと会話を
しながら、その順番が来るのを待っていた。
「どうせ並ぶなら岩ちゃんなんかじゃなくて、
美月とお話しながら並びたいんだけどね。」
「おう、そっくりそのまま返してやるわ。」
周りには女性が多く、やはり2人は目立つのか
妙に視線を感じてしまい、女子と目が合うと
爽やかに笑う及川からは、不満が混ざる言葉が
出ていて、その隣にいた岩泉は鋭く彼を見ると、
そう言葉を返して、再び視点はスマホに戻す。
「クソ川が隣だと、目立つから面倒臭え。」
「俺だって、美月と一緒の方がお似合いカップル
だったりするんだからね!」
「あ?寝言は寝て言えよ。」
よりにもよって、胸が踊る街の雰囲気を共に
歩く人物に不満を持ちながら、岩泉と及川は
黙って顔を見合せた。
高校生活最後のクリスマスは、デートの争奪戦
とはならず、美月ののんびり過ごしたいと一言
で、今回は静かにホームパーティをすることに。
「結局、何だかんだこうなるんだよね。」
「想像通りというか、美月らしいっつーか。」
のんびりしたいと言っておきながら、その言い
だしっぺはの美月は、ただいま張り切ってその
準備の真っ最中で、その為ケーキの準備は必然
的に岩泉と及川の仕事。
自分達の為に料理を作っている彼女が喜ぶもの
をと提案した及川は、岩泉と一緒に人気の店に
並んで、あらかじめ予約しておいたケーキの
受け取りを2人で待っていた。
どうせなら、せっかくなら、と一歩前に進む度
に募る不満は同じだが、その後の彼女の喜ぶ顔
を頭に浮かべたら、今は我慢あるのみとなる。
「美月のフライドチキンとマカロニサラダが
早く食べたい。」
「あれも作ってんのかな、あの卵焼きみてえな
やつ。」
「それって、キッシュの事?」
今頃、美月は何を作っているのだろうと2人は
食べたいものを頭に浮かべながら、途中からは
作っているものを予想しながら、次々と料理の
名前を楽しそうに上げていく。
そうしていると、待ちに待ったケーキの順番は
やって来て、品物を受け取り、いざ彼女の待つ
場所へと足を進めようとすると、ふとケーキ屋
の隣には雑貨屋にあったとある物が目に入って、
及川はその足をピタリと止めた。
「うおっ、お前いきなり止まるんじゃねえよ。
ビックリするだろうが。」
「うーん。」
「…お前それが欲しいのかよ。」
「違う違う!美月が好きそうだなって思って。」
及川の視線の先には、手帳型のスマホケースが
置いてあり、その柄も色も美月好みに見えた
らしく、及川は気になったのか、店に入ると
そのスマホケースを手に取っていた。
「そういや、あいつスマホ落として画面割れて、丁度、使い込んでたからって買い替えてたな。」
「そうそう、んで100円ショップの透明のケース
かなんかだったでしょ?」
美月がスマホを買い換えたのは、つい最近のこと
で、彼女へのクリスマスプレゼントをまだ用意
出来ていなかった及川は、それを手に取り値段
を確認する。
「げっ、意外と高いもんだね。」
「…それなら、半分ずつ出し合うか?」
すると、それはさっきケーキを買った及川の今
の持ち合わせでは予算オーバーだったらしく、 諦めてその品を棚に戻そうとすれば、同じく
彼女へのプレゼントを用意していなかった岩泉
が及川へそう提案し、2人は顔を見合わせる。
「岩ちゃん、俺のおかげだとか言い出さない?」
「お前こそ、俺が見つけてあげたんだとか言い
出さないならって話だけどな。」
彼女にいい所を見せたかった2人はそこで無言に
なるが、美月の喜ぶ顔が見れるなら、交渉成立
といった所なのか、久しぶりに2人は所持金を
半分ずつ出し合いながらの買い物をした。
「久々だよね、岩ちゃんと二人で出し合うの。」
「今度は、恨みっ子無しだからな。」
「分かってるってば。」
綺麗にラッピングをされたプレゼントを見つめ、
過去に互いに出し合って喧嘩をしなかった日が
無かったからか、岩泉の言葉に及川も笑って、
どこからかいいにおいが漂ってきたと思えば、
美月の自宅へと到着していた。
「俺達、いい感じの時間にやって来たみたい
だね。」
「あー、腹減った。」
玄関へ入り、お邪魔しますでは無く、ただいま
と声を掛ければ、パタパタとスリッパの音を
立てながら、嬉しそうに美月は2人におかえり!
とエプロン姿に何故かヘラを片手に出迎えた。
「美月、作り途中だったのなら出迎えは良かった
のに。」
『ちょうど今、出来上がったとこ!』
「アレ焼いたのか?」
『キッシュでしょ?ちゃんと作りましたよ。』
ケーキを待つ間に上げていた料理は尽く正解と
なっていたらしく、テーブルに置かれた沢山の
料理に、2人は目を輝かせ、美月は反対に2人
の買って来てくれたケーキの店の名前を見て、
目を輝かせていた。
『徹、まさかこの店に予約入れてくれてたの?』
「お前、言ってなかったのかよ。」
「ごめん、美月にはサプライズにしてる事を
すっかり忘れてた。」
『ハジメはお店の名前わかってなかったから、
十分サプライズになってたよ?』
「ああ、駅の近くのとこしか言ってねえな。」
「岩ちゃんはもっと、店を知ろうよ!」
興味ねえよと顰めっ面を見せながら、極端な2人
が面白くて美月はクスクスと笑いだし、そうだ
と完成した料理を写真に収めようとして、彼女
は自分のポケットからスマホを取り出す。
その姿を見て、及川がそうだった!と先程購入 したものを約束を守って、2人は一緒に彼女に 差し出した。
「俺達からの」「日頃の感謝。」
息がぴったりに2人がそう言って、まさか自分に
2度もサプライズが待ち受けているなんて、思っ
ても見なかったのか、ゆっくりと瞬きをした後
に彼女はお礼を言いながら、ふんわりと笑った。
『開けてもいい?』
「もちろん!」
綺麗に包装紙を開ければ、美月もどうやら、以前
から気になっていたものだったらしく、まさか
のそのケースと巡り会うとは思わなかったのか、
これで3度目となるサプライズに、目を潤ませて
いた。
『どうしよ、これ…すっごく嬉しい。』
大切にするねと感極まって声は震えて、ぎゅっ
と嬉しそうに抱き締めている彼女を目にした2人
は満足そうに見合わせ、美月にも優しく微笑み
掛けた。
「及川があそこで見つけなかったら、出会えな
かったな。」
「岩ちゃんがあそこで出してくれなかったら、
買えなかったよ?」
珍しく、互いに素直に労いの言葉をかけ始める
ので、それを不思議に思う美月は、雪でも振る
の?と首を傾げれば、すっかりと白い景色しか
ない外は、しんしんと雪が降り始めていた。
「本当にホワイトクリスマスじゃん!」
『今日寒かったもんね、冷める前に食べよ!』
「そうだな、腹減った。」
穏やかに終わりそうな今回のイベントは、今年
が3人でゆっくり過ごす最後の日になるからか。
しかし、そこには自然と寂しさは彼らの中には
何処にも無かった。